蒲谷敏彦KOREA REPORT  10月号-3 

KOREA REPORT (釜山アジア大会観戦記−−中編−−)

−−−− 風待ち −−−−

 日本でノーベル賞のアベック受賞は初めてだし、ドクター(博士)ではなくエンジニアの

田中さんの受賞は何か初々しくて、暗いニュースばかりの日本に

久し振りの明るい清々しい話題でした。

早速、ノーベル賞受賞の数では世界の10ヶ国内に入ったとか、

マスコミは順位付けがお好きなようで...

 

 こちら韓国では、もっぱらアジア大会の金メダル獲得数の話題がお好き。

中国がダントツ、2位は韓国、3位日本、4位カザフスタン、5位タイ

となっています。(10月12日現在)

そこで、韓国のマスコミは人口との比率で比較しています。

中国は人口12億で金メダル142個だから、国民845万人に1個、

韓国は人口45百万人で金メダル81個だから、国民56万人に1個、

だから、韓国が一番スゴイ(エライ)といいたいんだろう。

(因みに日本は1億2千万人で43個は、279万人に1個。フムフム。)

ここで止めとけば良いのに、インドは人口10億人も居るのに、

金メダルは11個、これはどうしたことか? と大きなお世話。



            UFO? いえいえ蛍光灯です


 さて、釜山アジア大会観戦記の前編で孫部長夫妻と李さんと

刺身屋で食事をしている場面からお話を続けましょう。

孫夫人は、今回のアジア大会では友人と共にモンゴルの

サポーター(ボランティア)になられたそうです。

韓国VSモンゴルのバスケットの試合では、韓国の大応援団に負けずに

『モーンゴル! チャチャチャ チャンチャン』

と、恥ずかしがりながらも一生懸命応援されたそうです。

(それでも145対65でモンゴルは負けた。)

 

韓国では経済も良くなり、国際的なイベントが増えて『ボランティア活動』

に興味を持つ人が増えてきたそうです。ボランティアの数は先のサッカーW杯

では1万6千人、釜山アジア大会でも1万5千人で、釜山の地下鉄に乗ると、

アジア大会スタッフのウインドブレーカーを着たアジュマドリ(おばさん達)が

沢山いました。

 

釜山ソジュ(焼酎)を飲みながら、ふと刺身屋の天井を見上げると妙な光景が。

水を入れたビニール袋が3つづつ、各蛍光灯に吊り下げられています。

これは何のお呪い? 

孫部長の説明によると、虫除け(刺身屋だから蝿除け)らしい。

猫が水の入ったペットボトルを嫌うからと、日本でも一時そこらじゅうに

ペットボトルが置かれた時期がありましたが、蝿も同じなんでしょうか?

(確かにその日は蝿も虫も一匹も見られなかったが...)

 

そう言えば、韓国では夏の真っ盛りより秋になって蚊が出てくるのは何故だろう?

(KOREA REPORT 01年10月号参照)日頃の疑問を孫部長に尋ねてみると...

『秋になると外が急に寒くなるでしょ。蚊も寒くて家の中に入ってくるんです。

この頃は、エレベーターに乗って高い階までやって来ます。そうでしょ』

と、非常に説得力のあるご回答でした。

(この頃は蚊がエレベーターのボタンも押すし、とチャチャを入れてみた。)



               釜山ヨットハーバー

 

翌日も秋晴れの良い天気。

釜山ヨット競技上に地下鉄で着いたのは、スタート予定時刻の1時間前でした。

選手達のいるディンギー(小型ヨット)用マリーナには入場パスの無い者は、

警備員が立ちはだかって入れてくれません。

ヨットが好きで日本から見に来たんだ!と言うと、スタッフの男性が

俺について来いと、クルーザー・マリーナ前の一般観覧船の受け付けまで案内してくれました。

1日2レース、OPディンギーや470、レーザー、ウインドサーフィンなどが4つの海面で

行われます。全11レースで総合成績を争う長丁場です。470級男女、420級男女、

エンタープライズ級が行われるC水域の乗船予約をしましたが、

説明によると今朝の第3レースは風が無くて、延期中だそうです。

 

『あそこのポールに旗が揚がっているでしょ。あの旗が降りると1時間後にレースがあります。

そしたら、その先から観覧船が出ますからC水域の船に乗ってください』

ディンギーのスロープ横に各水域を表す赤やピンク、黄色の旗の下にそれぞれ赤と白の縞模様の旗(回答旗といって、ヨット競技ではレース延期を知らせる旗です。)がぶらりと揚がっています。

 

しかたなく、88年ソウルオリンピック時に東洋一という振れ込みで出来た釜山ヨットハーバーを

一周しました。クルーザーは30艇くらい、モータークルーザーが沢山係留してあります。韓国も

近頃は釣ブーム、川釣も海釣もクルーザーでのトローリングも盛んになりました。ずいぶん贅沢になったものです。クルーザー(ヨット)では日本の鳥羽船籍『NOMIV』なんて、懐かしい船名も見えます。思えば遠くに来たもんだと思っていることでしょう

 

と、藤棚のベンチにどこかで見たお顔。ひとり小松一憲監督が携帯電話でなにか秘密の対談?

おかっぱ頭に良く焼けた顔、懐かしいヨットの鬼の雰囲気はあまり変わりません。

小松さんは私がヨットを始めた頃、470セ−ラーでヨット界の星飛雄馬、無冠の帝王、寂しきヒーローでした。もう54歳になられたそうで、88年オリンピック出場、2000年のシドニーオリンピックは監督で行かれています。ホイットブレッド世界一周ヨットレースという、非常に過酷なヨットレースがあります。小松さんは南氷洋の極寒の海、赤道無風地帯などを9ヶ月かけてセーリングして、フィニッシュした時の優勝インタビューで、

他のセーラー達が今一番したいことは?と聞かれて、

 

『風呂に入りたい!』

『うまい飯を食べて、揺れないベッドで寝たい』

などと答えてる横で、

『ひとりでヨットに乗って、海に出てゆきたい』

と答えました。どこに行っても孤独が似合う方です。

お声をかける暇も無く、マウンテンバイクに乗ってディンギーマリーナに帰って行かれました。

 

そんなマリーナに大型バスが到着。

恐るべし中国選手団が白いユニフォームで降りてきました。

このマリーナ内にある体育館は、重量挙げの練習会場になっていました。

もう、そろそろお昼時、体育館の向かいにある、クラブハウス風レストラン

『シーマンズクラブ54』(54はこの店のオーナーが持っているヨットのセールNO.だそうです。)

で、カレーライスを食べました。

ヨット選手や役員の方も早めの昼食を取っています。

 

『アクロス ザ マウンテン(向かいの山?)がガス(霧)ってるからまだ、(レースは)ダメだ』

『役員も飲んでたから、(ビール)一杯くらいいいんじゃない?』

おや、日本語です。どうも、ウインドサーフィンの日本選手の方々らしい。

香港やシンガポールの選手も。ここでも昼からビールでした。

(ヨットに飲酒運転はないけど、ビールはドーピングに引っかからないのかなぁ?) 

 

回答旗がオフショア−の風(陸風)によくたなびいています。

これなら瀬戸内では全然OKだけどなぁ。(堀江海岸のさわさわブローくらいです。)

私もビールを飲みながら、さすがアジア大会、こんな軽風ではレースしないんだ。

と、変な納得...

ヨットレースにつきものの風待ち待機。

瀬戸内ではレースの度に風待ちになったものですが、ここ釜山でも風待ちとは。

藤棚のベンチで横になって、持ってきた本を読みます。

 

「1968年の6月、マカレスター・カレッジを卒業した1ヶ月後に、私は徴兵された。その戦争を私は憎んでいた。私は当時21歳だった。そう、私は若かったし、政治的にはナイーヴであったけれど、それでも私はヴェトナムにおけるアメリカの戦争は間違ったものであるように思えた。確かならざる大儀のために、確かな血が流されていた。私の目には統一された目的が見えなかったし、哲学的、歴史的、法律的な問題をとってみても、そこにはコンセンサスが存在するとは思えなかった。

−−中略−− しかしいやしくもひとつの国家が戦争に向かうときには、国家は自らの正義に対するしかるべき確信を持ち、揺るがざる根拠をもつべきである。間違っていたからあとで修復しますというわけにはいかないのだ。一度死んでしまった人間は、どれだけ手を尽くしても生き返りはしないのだから。
   『本当の戦争の話をしよう』 ティム・オブライエン著 村上春樹訳 文春文庫 」

 

米国は朝鮮戦争には国連軍として、ベトナム戦争には軍事顧問団として、湾岸戦争には

多国籍軍として、そして昨年のアフガニスタン空爆も多国籍軍として参戦した。

しかして、その本隊は米軍そのものであり、アメリカの戦争であった。

そして、今度はイラク戦争Uだという。

 

1950年8月朝鮮戦争で国連軍はここ釜山に押し込まれます。

もう一歩でこの前の海に蹴落とされそうになったのです。

昨日ボート競技があった、洛東江での戦闘は特に凄絶だったそうです。

米陸軍公刊誌には、河原は北朝鮮兵士の死体でおおわれ、

おびただしい蝿の群れで視界はさえぎられたとあります。

9月15日、マッカ−サーが仁川上陸に成功し形勢は逆転します。

 

そんなことを風を待ちながら、釜山ヨットハーバーの藤棚の下で想っていたのでした。

 

あんまり待ちすぎたので、今回はこの辺で。 (引っ張りすぎてゴメン)

今度こそ本当に、アジア大会観戦記−−後編−−につづく。

 

                         ソウルより 蒲谷敏彦


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