蒲谷敏彦KOREA REPORT 続6月号  

     KOREA REPORT (続6月号)

  ――― 夜の高速を走りながら ―――


 日本は梅雨入りしたそうですが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 
こちら韓国も連日の雨に気分もブルーです。

気分転換にKOREA REPORTを書いています。お付き合いください。

 

 韓国では最初の100日が区切りのようです。

赤ちゃんが生まれて100日目には、ペギル(百日)チャンチといって盛大なお祝いをします。(1歳の誕生日はトルチャンチ;KOREA REPORT 03年2月号参照) サッカー韓国代表で女性に絶大な人気のあるアン・ジョンファンも兵役義務の新兵訓練で入隊していますが、入隊後100日までは親でも会えないそうです。入隊後1ヶ月くらいで慰問に来た両親が隊長から追い返されて、置いていったキムパプ(巻き寿司)を息子が泣きながら食べたというような話がよくあります。

アン・ジョンファンはW杯での活躍が認められて、通常24ヶ月の入隊期間が特別に4週間に短縮されているそうですが。



ヨットに乗る盧武鉉氏(左) 中央日報より


今月、盧武鉉(ノ・ムヒョン)新大統領も就任して100日が過ぎました。新聞では100日の勤務評定などで新人大統領には厳しい評論を出しました。韓国の経済も昨年後半から随分悪くなってきました。よって賃上げや労働条件の改善も思わしくなく、本来新大統領の支持基盤のひとつであった労働組合が政府批判をしたり、過激なストを行っています。また不景気になると社会不安が増長されるのはどこの国でも同じようで、韓国でも拉致(誘拐)事件が多発するようになりました。電柱が高いのもポストが赤いのも...の論で、あれもこれも新大統領がしっかりしないから、こんなことになるのだという調子です。

 

盧武鉉新大統領もついホンネで、

『モッテ モッケッタ (やってられないよ)』

なんて漏らしたものだから、上に立つ人がそんなことを言ってはダメだとまたまた不評をかったのでした。

 

少し盧武鉉大統領の肩を持っているのは、先日の日本訪問を伝える新聞記事に、今回は2回目の訪日で1回目は琵琶湖でヨットを習った時だと、ディンギー(小型ヨット)に乗っている盧武鉉氏の若いときの写真とともに紹介されていたからです。日本でヨットレースに参加してトップを取ったこともあるそうで、いつか彼とヨットに同乗したいと密かに思っているのでした。

 

夜の高速道路。午後から降りだした雨も勢いを増し、サムギョプサル(豚肉の焼肉)で少し入れたビールとソジュ(焼酎)もうまい具合に混ざってきたし、おまけにここは韓国だ!

最高速度100km/時(最低速度50km/時)の標識が後ろに飛んで行く。120は出ていると思うけど、左右から随分追い越されて行く。前の高速バスは水しぶきを後輪から上げて、まるで雪煙。吹雪の道央自動車道を前の車のテールランプだけを頼りに走っていた日々を思い出し、降りしきる夜の雨に滲み連なる赤いランプはまるで精霊流しのよう。いったいどこへ流れて行くんだろう。

 

 旧正月にマレーシアのマラッカで夕立にしては随分派手な雨にあって、トライショー(三輪タクシー)も雨宿りしているレストランでお茶をした。セレンバンから来る時のタクシーは70RM(1RM=約32円)だったのに、呼んでもらったタクシーは正月料金と雨降りの2重の足元を見られて、帰りは150RMだという。それでも高速バスに乗るよりは安全だと現地駐在員のXX二郎さんが言うので夜の高速をタクシーで帰ることにした。(安全でない高速バスってどんなバスだ? 二郎氏の話によると、バスはよく故障するし運転は荒い、おまけに飲酒運転もあるらしい。)

 

まじめそうなマレー人がヘッドライトに照らされて銀の雨になっているその向こうを必死に見つめている。日本では中古車とは言わず廃車と言われそうなトヨタ・クラウンは高速道路をセレンバンに向けてひた走る。そぼ降る雨に間欠ワイパーはフロントガラスの中央で時々斜めに止まり、エアコンからは白い霧が出ていて南国なのに寒い。家内は寒いのでカーディガンを引っ掛ける。運転手にエアコンは切れないかと言うと、切るとフロントガラスが曇って運転できないと言う。我慢して乗りつづけるしかなさそうだ。

 

後部座席はそうでもないが、運転席の天井からは時々雫が落ちてくる。半ドアランプが時々点いたり消えたりしながら、スピード計の針は140で止まっている。助手席のXX二郎さんは手持ち無沙汰でドアノブを触っていたら、取れたらしい。静かに元に戻した。

ドキドキ・タクシーはその後セレンバンに無事到着し、マレーシア国鉄でクアラルンプールのホテルに帰ったのは、スペースシャトル・エンデバーが帰還に失敗した夜半でした。

 

♪時の流れに身をまかせ

♪あなたの色に染められ

♪一度の人生それさえ 捨てることもかまわない

 

車内に流れるテレサテンの歌声。彼女も今はもういない。

調子よく往っては帰るワイパーを眺めながら、いろいろ思う韓国の蒸し暑い雨の夜の高速道路でした。

今夜はここまで。また来月お話しましょう。

 

          ソウルより 蒲谷敏彦

             
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