蒲谷敏彦KOREA REPORT 7月号  

KOREA REPORT (続7月号)

―― 参鶏湯についての一考察 ――

 

 韓国で行列の出来る店は珍しい。何でもパリパリ(早く早く)の韓国人は待つのが苦手な人種であるから、待つようだったらどこか他の店に行ってしまう。でも、今日は特別。

特機事業部の河部長と京仁営業部の申次長と昼飯は、せっかくだから参鶏湯(サムゲタン;雛鳥の腹の中にもち米、栗、ナツメ、松の実、朝鮮人参を詰め込んでニンニクスープで煮込んだもの)にしようとやって来たのですが...

 


ちょっと上品な参鶏湯 普通は黒い土鍋にぐつぐつと...

 

 今日は7月も半ば、韓国では初伏(チョボク)といって夏の暑さの厳しい日。日本でいえばうなぎの蒲焼を食べる土用の丑の日で、韓国では暑い夏を乗り切るために犬料理を食べる日です。で、犬がダメな人は参鶏湯。当社事務所から半径1Km以内には、地下鉄堂山(タンサン)駅近くの参鶏湯屋さん一軒しかありません。そうすると、昼食は参鶏湯だと集まってくる人で一杯になって、12時過ぎには店の前に20人以上の列が出来ていました。諦めて帰る人もいますが、朝から電話して予約してきたという人もいます。

 

伏(ボク)は犬が伏せるという字ですが、韓国ではそのまま人偏に犬で犬を食べるという意味になるらしい。夏の暑さを3つに分けて、初伏(チョボク)、中伏(チュンボク)、末伏(マルボク)というんだそうで、今年はそれぞれ7月16日、7月26日、8月15日になります。犬肉はスタミナ料理であると共に精力剤であって、食べるとお腹の中から暖かさが湧き上がってきます。しかし、最近は犬をペットに飼う家庭も増えてきて愛情が募ってくると、さすがの韓国人も犬肉は食べられないと言います。そうすると、その代わりに参鶏湯。今日は大繁盛です。

 

梅雨の晴れ間、外で待つのは暑いので河部長などと3人で靴を脱いで無理やりあがり込んで、お客で溢れる店内で待ちます。次はうちら3人だよね、と店員に言うんですけど、次から次から予約していたという団体さんが現れます。もうすぐあそこの4人が終わりそうだと待っているんですが、その4人は悠々と最後の一滴のスープまで残すまいと頑張っています。

 

韓国人はパリパリ(早く早く)で、並んでいても後ろから押してくるほどせっかちですが、反面悠々としているのがステータスで鷹揚に構えたがります。例えば、誰かが待っているところへ遅れて来る時などは、日本人のようにことさら走って来たりしません。ゆっくりゆっくり何かあったんですか?みたいに超然と現れます。車の前を横切る時も車を待たせておいてゆっくりゆっくり歩きます。日本人だと頭を下げながら小走りにするでしょ、それをふんぞり返って悠然と歩くという調子です。

 

ということで、もう食べ終わりそうな4人の客は意地悪してるんじゃない?というようにいっこうに席を立ちません。そこへ超然としたハラボジ(おじいさん)3人組がやってきました。常連客のようで、店の主人が今日は予約のお客さんで一杯ですので...といってもズカズカとあがりこんで来て、テーブルとテーブルの間に座り込んでしまいました。他の客がふうふう言いながら食べているのを横から見ています。そういう手があったか! 居心地が悪いので見られている客が早々と退散するかと思えば、そこは精神力の強い韓国人のこと、こちらも悠然と食べています。

 

中には、こちらが先に来たのに料理がまだ出ない! いえ予約の方が先ですから、などと店員が謝っているのに、帰ってしまうアジュマ(おばさん)連中もいます。店員のアジュマは忙しいのと暑さで頭にき始めたのか、下げる食器も乱暴にガチャガチャいわせながら、店主に、だから予約客だけにすれば良かったのに!などと文句を言っています。

 

そして私達3人もやっと参鶏湯にありつけました。黒い土鍋の白いニンニクスープの中にもち米や栗、朝鮮人参をお腹につめた鶏が一匹鎮座しています。この店の参鶏湯はネギが多いようです。ラーメンでいうとネギラーメンみたいです。おまけのおかずは、四角く切ったカクテギ(大根キムチ)や白菜キムチ、生の青唐辛子に生のニンニク、生のスライス玉葱です。人参焼酎が1グラス付く店もありますが、ここはありません。

 

好みに合わせて塩を入れてスープの味を調えます。小皿にも塩を盛って、鶏肉を箸で割いては少し付けて口に運びます。鶏の腹に詰められたもち米その他は、スプーンでスープと一緒に頂くとこれはホントに美味しいお粥のようです。カニを食べる時、人は寡黙になりますが、参鶏湯を食べる時も人は寡黙になります。

 

『以熱治熱(イヨルチヨル)』 熱を以って熱を治めるという韓国のことわざどおり、暑い夏に熱い参鶏湯を、汗を拭き拭き食べ続けました。もちろん店内はまだまだ席待ちのお客さんで一杯なんですが、これでもかと最後の一滴のスープまでゆっくりゆっくり(チョンチョニ、チョンチョニ)、騒然とした店内で悠然と9000W(約900円)の料金分と30分の待ち時間分をじっくり味わったのでした。

 

これからは初伏(チョボク)に参鶏湯を食べに行く時は電話予約しましょう。(百年参鶏湯;電話02-2635-XXXX)

近頃はレトルトパックに入った参鶏湯も売っているようです。こちらは電子レンジで5分ほどチンすれば食べられます。韓国お土産にどうぞ。

それではまた来月お話しましょう。

 

                 ソウルより 蒲谷敏彦

             
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