蒲谷敏彦KOREA REPORT 10月号  

KOREA REPORT (10月号)

―― 夜の停車場にて ――

 

 秋ですねぇ。

巨人軍監督の原辰徳氏は『社内の人事異動』で辞任し、なんと18年ぶりのセ・リーグ優勝を果たした阪神タイガースの星野仙一監督は健康上の理由で辞任されるという。日本道路公団の藤井治芳総裁は辞任を拒んで聴聞会でもめている。自民党衆議院議員の中曽根元首相と宮沢元首相も、年齢制限に抵触しながら居座る気らしい。

こちら韓国では側近の収賄疑惑で盧武鉉大統領が12月中旬に再信任国民投票をするそうで、昨年12月に大統領選挙で選ばれたばかりなのに、もう一度選ばれたいそうな... 

うーん、秋ですねぇ。人生の秋をどう過ごすか? 十人十色ですねぇ。

 

 先月はKOREA REPORTをお休みして失礼しました。ソウルはオンドル(床暖房)も入れて、蚊も相変わらず元気ですがすっかり秋らしくなりました。秋の夜長皆様如何お過ごしでしょうか?

 

 オレンジ色の照明に照らされてプラットフォームが暗灰色に沈んでいる。セメントを載せた長い貨物列車が突然、ゴトンッと連結器を鳴らせて、ドミノ倒しの如く続々とタンク貨車が動いて行く。ソウル行特急セマウル26号は、夜9時前でも天安駅に8分の延着とは成績が良い。ちらほらとセマウル号を待つ乗客がホームに出てくる。

 

今夜は天安工場で久しぶりに宴会があった。暑い夏を乗り切り秋の繁忙期も更に頑張ろう!と、62人の工場全社員がカルビ屋に集まった。5月から働いている5人のモンゴル研修生も韓国焼酎(ソジュ)は気に入っているらしく、勧められるままに飲んでいる。ボイラの塗装をしているバットトック氏は、モンゴルに残して来た奥さんが足を骨折したと聞いて、仲間からお金を集めてソウルに往ったまま音信が無かった。心配しながら待っていたら、1週間を過ぎてひょいと帰ってきた。ソウルで何をしてたのやら、モンゴル語で書かれた始末書では判らなかった。

 

社員が代わり代わりに杯を持ってソジュを注ぎにやってくる。まともに飲むと沈没するので、半分飲んでは、半分は机の下のグラスに捨てる。トイレに立って帰ってきたとき足で蹴って倒してしまい、隣の姜部長のところまで流れていって公害撒き散らしのようになった。春の社内旅行の無制限サッカー(KOREA REPORT03年5月号参照)で貴重な一点を取った、朴君は英文メールで日本の女性と文通しているらしい。秋葉原に住んでいるヒロコさんで、来年2月に来韓するという。通訳する約束をした。

 

御岳山のロープウェイ事故で老夫婦が亡くなられたそう。紅葉狩りの途中だったそうで、楽しいご旅行が一転暗闇に落ちさぞ無念なことと思う。私も今月初旬、社内の有志と1泊2日の秋の社内旅行に行き、茂朱(ムジュウ)リゾートのスキー場でロープウェイに乗った。6人乗りのゴンドラで、日本で事故があった物と同じだった。

 

山の上は少しだが木々が色づき始めていた。マッコリ(どぶろく)で景気をつけた後は、ゴンドラに乗らず雪の無いスキー場をえっちらおっちら下山した。雪のないゲレンデを歩いて下るしんどさは... 昔札幌国際スキー場で意思に反して、スキー板が勝手に持ち主から離れてゆき、スキー靴のまま歩いて降りたことがあったが、あの頃はまだ若かったしまだまだ元気だった。

 


              朝鮮人参市場にて

翌日は筋肉痛の足をかばいながら、錦山(クムサン)の水参(スサム)市場へ出かけた。韓国は朝鮮人参の本場だが、その中でも錦山は韓国でも特別だ。生の人参を水参といい、トイレのような白タイルの市場で、今朝採れたての朝鮮人参が沢山売られている。

『ふーむ、90キロ切ってる』

『85キロもあるの』

電子体重計の上で体重を計っていると、それは人参の秤で人間が乗るんじゃない!とアジュマ(おばさん)に怒られた。

 

お昼には韓国料理がいろいろ集まった田舎御膳を食べて、大田(テジョン)市の有名なプリ(根っこ)公園というところに行った。ここは本貫といって、韓国の人々の出身地別一族を一同に集めて奉ってあるところだ。金海(キメ)地方出身の金氏、安東(アンドン)地方出身の権氏、全州(チョンジュ)地方出身の李氏、密陽(ミリャン)地方の朴氏などが有名だ。それぞれ記念碑が建てられている。

 

その日はソンビ(ゾンビではありません。士大夫、儒学者は学識と人品をそなえ、儒教理念を具現する朝鮮時代の両班(ヤンバン)をいう。まあ、英国でいえばジェントルマン、韓国の紳士というところでしょうか。)祭りの最中で、芝居や綱渡り(なぜ?)、習字大会などが催されていた。韓国人は何かというと集まるのが大好きで、サッカーW杯の赤い街頭大応援もまだ記憶の彼方にあるが、この公園で変なものが集まっているのを発見した。

 



          大田市プリ公園に集結した道路標識たち


それは三角や四角、丸い顔に赤や青、黄で数字や記号、文字、中には熊の絵も、表わした道路標識なんだが、どうしてここにユーターン禁止だの横断歩道注意だの駐車禁止がこんなに集まっているのか? 何の意味があるのか? 昼食に飲んだトントンジュ(にごり酒)でまどろんだ頭で考えても一向に判らないのだった。

 

『本日はセマウル号をご利用頂き誠にありがとうございました。またのご乗車を乗務員一同お待ち致しております』

韓国語、英語、中国語、そして日本語で社内アナウンスがあり、

酔っ払いの追憶を乗せたセマウル号は改装中のソウル駅に到着した。

また、次回お話しましょう。

 

            ソウルより 蒲谷敏彦


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