2004 蒲谷敏KOREA REPORT 旧正月号  

KOREA REPORT (旧正月号)

―― KOREAN IN AUSTRALIA (中編) ――

 

 韓国入門みたいな本はないですか? というご質問をよく知人から頂きます。近頃は、100円ショップ・ダイソーの「CDで学ぶ会話シリーズ」のNo.13『やさしい日常・韓国語会話 我如古信一監修』をお薦めすることにしています。韓国語の会話集ですが、簡単な韓国事情も載っていますし、もう100円出せば発音練習用のCDまで付いてきます。これはお得で便利です。

 

で、この本に韓国人のお正月のすごし方という章があります。

『 韓国では新暦の1月1日も祝日となっていますが、ほとんどの人はソルラルと呼ぶ旧正月をお正月として祝います。旧正月は3日間の連休となっていますが、この時期にあわせて1週間くらい休みを取る人が多いようです。この時期は全人口の半分ほどが故郷に帰省するため、鉄道や飛行機は予約で一杯になります。また自家用車を使って帰省する人が極端に多いため、地方に向かう道路は大渋滞になります。いつもは2時間で行けるところが9時間かかったということもざらです。

 そんなにしてまで帰省するのは、ソルラルを単に新年の休日というだけでなく、故郷に帰って、父母、兄弟とともに過ごす大切な時と考えているからでしょう。

・・・・・・・(中略)・・・・・・

ソルラルの朝には、父母や祖父母に向かって1年の健康と無事を祈るセベという新年のあいさつをします。その後韓服を着て家族と共に親せきを回ってセベをしていきます。』

 

長男の家では、ご馳走を用意して親せきが集まってくるのを御もてなししなければなりません。だから長男の嫁はいろいろ大変なので、韓国でも倦厭されます。昨年4月にめでたく長女を嫁に出された文常務(KOREA REPORT`03年4月号参照)は、それで相手は三男にしたとか言われてました。じゃあ、文さんのご長男のお嫁さんはどうなるんですか? と質問すると、同居しなくてもいい、ソルラルは遊びに行ってもいい、と言われますが、それでも長男の結婚はなかなか難しいらしい。

 

という大切なソルラル(旧正月)の休暇中ですから、南太平洋上を飛んでいる大韓航空813便は若干の日本人と幾人かの白人とを除けば大半は韓国人家族で満席なんだけど、みんな長男家族ではないだろうなあと一人想像するのでした。

 

ブリスベーンは緯度でいうと沖縄の反対になるそうで、亜熱帯気候だそうです。9時間余りの飛行ですが、時差が1時間(早い)なので変な疲れがありません。これはいい。この国際空港は世界3大美空港だったそうですが、韓国の仁川国際空港が出来てからは4位に落ちたそうです。明後日に訪問するシドニーは世界3大美港(あとはナポリとリオデジャネイロ)だそうです。韓国人は本当に世界何番かがお好きです。因みに仁川空港は空港の免税品店売上では世界でダントツのNo.1であって、そこでどこの国の空港免税店にも出店していない、ルイヴィトンがとうとう仁川国際空港に出すらしいです。それを誇らしげに新聞報道していました。

 

    

              シーワールドのイルカショー

 

というようなことを、到着ロビーで全員が揃うまでの時間つぶしに、現地ガイドで女子プロレスラーの長与千種似のMis金が説明してくれました。と、集まった同行の韓国旅行者一行は、いつの間にかサングラスに半袖シャツ、短パンにサンダル、おまけにもう日焼け止めクリームを塗ったりして、真夏に衣替え完了という出で立ちでした。そして、私は長袖シャツに紺のジャケットを着て、皆に暑くないですか?と散々聞かれるのでした。昨日のゴールド・コーストの最高気温は37℃!だったらしい。

 

トランクをえっちらおっちら引っ張って、観光バスに乗り込みますが、これが案に反して小型のマイクロバスで客15人にガイド2人を加えると一杯です。で、席取り合戦が大変です。家族4人組みが2組、夫婦が3組、一人旅のお姉さんが一人なんですが、並んで座りたいやら、子供が好きなところ座るやら、ここは日差しが暑いなど、ワアワアひと悶着あってどうにか一段落したら、またまた私達は一番後ろになっていました。

 

ブリスベーンはシドニー、メルボルンについでオーストラリア第3の都市で、市の中心を蛇行して流れるブリスベーン川に抱かれた緑豊かなリバー・シティーと呼ばれています。が、そこは通過して一路ゴールド・コーストに向かいます。

 

現地ガイドの長与千種さんは、現地の挨拶、ケダイ!(Good day!のゴールド・コースト訛りらしい)と豪州の羊の数を教えた後は、車窓の景色や豪州の名物を説明するのではなく、しきりに豪州への移民の仕方、豪州での生活の話になりました。

 

曰く、豪州移民は昔(20年くらい前か?)は簡単だったけど、この頃は審査が厳しいが、医者や看護士、美容師などの技術移民は比較的し易い。住宅はキッチンでサッカーができるくらい広い邸宅が、35万豪州ドルで買える。豪州人は怠け者で朝から酒飲んでて、どうやって楽に金を得るかばかり考えている。病院は予約してないと、すぐには診てくれない。ガイドさんがお腹が痛くて泣き喚いても、一週間後に来なさいと言われた。歯医者に至っては韓国に一時帰国して治してくる方が安いくらい、豪州では高い料金を取られる。などなど。

 

私はKOREA REPORTの取材のためにメモしているのですが、4人家族のひとつ、KT(JTタバコじゃなくて韓国通信、日本でいえばNTTか)にご主人がお勤めで中学生と小学生の息子さんがいる、テキサスに留学していたのがご自慢の奥様も熱心にメモをとっていらっしゃいます。そういえば辞書みたいな厚い豪州ガイドブックも持ってたなあ。ガイドさんがご質問はないですか? と尋ねたらすかさず、小学生の留学には母の滞在ビザも簡単に出るのか?なんて、とても専門的?なお話をしてました。

 

ということで、この韓国発のシドニー/ゴールドコースト5日間の旅は単なるオーストラリア観光旅行ではなく、豪州への移民・留学検討ツアーでもあったのでした。ガイドさんのお話は続きます。人種差別はありますか?の質問に、はっきりあります、と明言しました。ガイドさんが銀行の窓口などで白人の後回しにされて、よほど抗議しないとずっと待たされるなど、日常的に差別はあるようです。

 

ご存知のようにオーストラリアはイギリスの植民地として発展してきましたが、1901年オーストラリア連邦を結成し、白人優位の白豪主義を基本政策に置きました。その後イギリスから自治権が認められ、二度の世界大戦への参加(第二次世界大戦では日本と戦い3万人の犠牲者を出している)の経験から国威掲揚のため移民受け入れを奨励しますが、世界的な人種差別反対の時流に押され、非白人移住の差別を撤廃したのは1973年のことでした。

 

ですから、今やどこの移民もウエルカムで日本人も韓国人も中国人も多く住む国で、またアジアからの観光客も非常に多いのですが、どこかしら白人になんだか微妙に差別されているような、胡散臭い気配を感じるのでした。

 


       ご存知バイキング in 豪州

 

 ともあれ、豪州旅行の初日は海洋テーマパークのシーワールドで昼食となりました。アジアン・テイストのバイキング料理は、中国;お粥、日本;味噌汁、韓国;キムチがしっかり揃っています。日本人団体旅行も食事を取っています。こちら韓国人団体旅行団はキムチを取り過ぎないようにと注意を受けました。

 

このテーマパークは水上スキーの公演とイルカのショーが売り物なのですが、昼食後はちょうどその水上スキー・ショーが始まっていて芝生の上に座って、南半球のきつい日差しの中お兄さんやお姉さんの華麗なジャンプや前転、後転、人間ピラミッドの演技を見ました。さあ、これから自由時間かと思いきや、千種ガイドはここに来たらこれに乗らなくちゃと、皆を集めてキャプテン・クックの帆船の前を通り、なんと!バイキングの前に連れてゆきました。

 

韓国人はこの船型大ブランコが大好きで、行楽地には必ずといっていいほどあって、韓国人と遊びに行くと何が何でも乗せられます。まさか豪州に来てそんなと思ったのですが、時既に遅く、子供も大人も女も男も老いも若きも、韓国団体旅行ご一行様は全員無理やりバイキングに乗せられたのでした。こんなものでも乗ってみると、童心に還るというか、やけになるというか開き直るもので、こうなったらこの遊園地のアトラクション全部ゆくぞ〜 という気分になるのでした。

 

そこが千種ガイドの目論見だったのか、その後一糸乱れ団体行動は、ウォーターシュートの現代版(後ろ向きのウォーターシュートは怖い!)やジェットコースター、偏光メガネをかけて見る3D映画(蛇やサメが飛び出してくるやつ)を全員(ガイド2人を入れると17人)で次々とクリアーし、イルカショーの開演まで引っ張るのでした。そうか!このイルカショーのために私達は延々とバイキングなんか乗せられたのかと後で分かったのでした。

 

と、大きなプールを見渡す観覧席に座ると勉強熱心だった奥様家族の上のお兄ちゃんが居ないようで、あなたがみてたんじゃないの? お前が一緒だったんじゃないのか!なんてご夫婦でもめています。先ほどの3D映画館を出たところで分からなくなったようです。ガイドさんを含めてあちこち捜していると、ひょっこり遠くの観覧席に心ぼそそうに一人で座っているお兄ちゃんがみつかりました。

 

他の家族も迷子になったお兄ちゃんの心配をしていたのですが、イルカのショーが始まる前に見つかって良かったです。5頭のイルカの華麗なジャンプや前転、後転、横転? 立ったままの人間を乗せたまま泳ぐ律儀なイルカなどを心おきなく観賞できました。ショーが終わる頃には亜熱帯にも夕暮れがやって来て、観客達は三々五々家路に着くようです。またまた我が団体旅行団はわざわざ園内を一周するモノレールに乗って出口に向かいましたが、唯一一人で参加している、髪の長いお姉さん(後で聞いたところによると37歳独身)は、あ〜絶対面白くない、どうして子供の好きなとこばかり行くのよ〜と文句たらたらです。

 

ブリスベーンへの帰りのバスでは、豪州民謡をガイドが歌うわけはなく、右の桟橋付のマンションは日本人がオーナーだとか、左の超高級ホテルはロビーだけでもスゴイので新婚さんが記念写真だけを撮りにくるとか、ゴールド・コーストにゴルフ・トンネ(町内)があって、そこは有名なプロゴルファーが集まって住んでいて、もちろんゴルフコースも完備で、町内の慰安会でゴルフコンペをするらしい、左のプール付豪邸は有名人が住んでるだとか、そんな話ばかりで、溜息が出てくるけど、例の勉強熱心な奥様は必死にメモられてます。

 


         ブリスベーン市庁舎の時計台

 

今日は大晦日(旧暦の)ですから、美味しいものを用意しました、と連れてゆかれた市内のレストランは、ガラス窓にSASHIMI、BBQ、KOREAN JAPANESE RESTAURANTと書いてあるんだけど、中に入るとブルコギ、カルビサルなどハングルで書いてあって、紛れもない韓国料理店でした。そこで、今夜の晩餐はブルコギ(焼肉)です。もちろんキムチ付で。

 

飲み物は各自払いでお願いします。と言われて、コーラは500円くらいするので、まだビールの方が安くて、小ビン入りのXXXX(フォーエックスというらしい、ここクイーンズランド州では定番の英国風ビタービール)を皆が頼みました。テーブルに2〜4本出されるのですが、韓国スタイルですから、注いだり注がれたりですぐ無くなって追加注文して、それも注いだり注がれたりして、誰が何本飲んだか判らない状態です。向かいに座っている一人参加の独身アガシ(お嬢さん)は特にビールが好きらしく、美味しいよねこのビール、どうですか? ってしきりに私にも注いでくるので、二人でたいがい飲んでしまいました。

 

お勘定はどうなるのかな?と思っていると、申ガイドさんが今日は大晦日ですから私がおごります、となってご馳走さまでした。それにしても海外?で食べる韓国料理はどうして情けない(美味しくない)んだろう。海外で食べる日本食より情けない、どうして日本人の私達がブリスベーンでブルコギを食べなきゃならないの!と思うからますます情けないんだろうか。と、キムチをあてに美味しいXXXXビールを飲むのでした。

 

時計台で有名な市庁舎の隣のホテルに着くととっぷり日は暮れて、部屋に荷物を置いてから、ブリスベーン市街は何も見ていないので二人で街に出て見ました。街の商店は週末以外は午後6時で閉まるようでショーウィンドウにカラフルなチョコレート屋や、お茶の葉のお店、素敵な陶器の店、デッキシューズなどの皮製品の店も見つけたのですが、ガラス越しの恋でした。

 

明日も8時30分にはホテルを出るらしいので、この商店街には縁がないの、と家内はとても不満顔でした。開いているのは、パブと深夜レストランとコンビニだけで、日本人や韓国人や中国人の若者達が夜の街角に屯しています。ふっと入ったセブン・イレブンでは、韓国の辛ラーメンと日本の豚骨ラーメンを見つけて感慨に耽りました。アジアのカップラーメンも若者もブリスベーンでどうにか、遣ってるのかと。(豪州の生活も精神的になかなか大変らしく、アジア系留学生の夜の徘徊が問題になっているとも)

 

ということで、豪州一日目はイルカとバイキングとブルコギだけでした...トホホ。

もちろん明日につづく・・・

 

 ソウルより 蒲谷敏彦

             
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