2004 蒲谷敏KOREA REPORT 3月号  

KOREA REPORT (3月号)

―― KOREAN IN AUSTRALIA (後編その1) ――

 

 今日は天気の良い月曜日、お休みです。どうして?って、韓国の大切な国民の祝日だからです。私が初めて韓国に出張で来たのは漢江がカチカチに凍っていた‘86年2月下旬でしたが、朝テレビを観ていると日本でいえば『お母さんと一緒』みたいな幼児番組に、日帝時代の日本兵がチマチョゴリの娘さんを虐めている人形劇が放映されていました。1919年3月1日、当時日本帝国の植民地であった朝鮮半島で一斉に起った反日独立運動です。独立宣言文がソウルのパゴダ公園で読み上げられ、全国で反日抵抗(万歳)運動が1年間にわたり続きます。3月1日はハングル読みで、サム(3)・イル(1)・ジョン(節)と呼ばれ国民の歴史的重要記念日です。ということを私もこのときの出張で知りました。

 

       


昨日はもちろん日曜日で、我が家のアパートの前を太極旗(テグキ;韓国の国旗)を抱えてアズマ(おばさん)が売り歩いていました。街頭や各家々にはそれこそ翩翻と太極旗が翻っています。でもサッカーW杯の時より少ないみたい。それでも明日のサミル・ジョン本番の準備が着々と行なわれています。当日は反面主役の日本人である私は部屋の中に閉じこもっておこうと考えていましたので、前日は何かと外出したくなるものです。そこで戦前は三越百貨店だった、新世界百貨店(シンセゲ・ペクファジョン)で札幌物産展があるというので出かけてみました。

 

地下の食品売り場特設会場には北海道特産の毛カニやウニやホタテ、ジャガイモ、バターなどを所狭しと並べて大売出し...のはずだったのですが、お持ち帰りの寿司と焼き鳥、イカ飯、イクラやホタテの冷凍物、大判焼き、オムスビがあるくらいで、札幌西山ラーメンのハッピを着たおじさんは讃岐うどんを売っています。札幌ラーメンはどうしたのか?と聞くと、今回の企画はうどんになったそうです。なんで? 寂しく大判焼き(北海道特産か?)を買って帰ったのでした。

 

そんなことで欲求不満が溜まった私たちは、今度は日本書籍が置いてある教保文庫という本屋に出かけました。日本でも映画で評判の『シービスケット』(奇跡の米国競走馬と3人の男たちの物語らしい)が欲しかったのですが、この頃頓に充実してきた日本書籍コーナーですが残念ながらありませんでした。またまた欲求不満が溜まった私は、日本文化開放はどうなったのか?とCD売り場にも行ってみました。

 

今年の1月1日から日本文化物(映画、書籍、CD、演劇など)の輸入制限を大々的に緩和したということです。これまで草薙剛がハングルでCDを出している状態でしたが、J−POPのコーナーが新設され、ウタダ・ヒカルやラルクアンシェル、ドリカムや最近の有名歌手のもの(ソウル在住のオジにはさっぱり分からん!)が並べられています。J−POP特選集みたいなCDも出ています。日本で買うより安いようなので、韓国でも根強い人気の安全地帯(韓国読みはアンジョン・チデ)の2枚組みCDを買いました。(1500円くらい)

 

 さすがに今朝のテレビは直裁な日本批判の番組はなくて、ウニの生態紹介番組!や、20歳でソウル大学を辞めて家出同然にラスベガスに単身留学し、25歳の現在は年商1300億W(約130億円)の会社社長になった女性(スタイルの良いアグネス・チャンみたいな美人)のトーク番組をやっていました。午前10時からは、先週土曜日にウィーン・フィルを素手で楽譜なしで小澤征爾氏が指揮したソウル世宗文化会館に、第85周年3・1節記念式で盧武鉉大統領が挨拶に立たれました。

 

『日本が1945年に戦争に負けたから韓国が開放されたという人がいますが、85年前のこの独立運動があったから現在の韓国があるわけですし、韓国の基本精神がこの運動にあります。月日が経とうともこの独立精神の理念は色褪せることはありません。その当時3・1節でひとつになった我が国民の心が現在の韓国を造ってくれました。我々も今また心をひとつにして世界的な艱難に立ち向かわねばなりません...』

 

大統領の言葉は続きます。(つたない私の語学力ですので、想像がかなりあることをご了承ください。)

『ただ残念なことはその後半世紀、我が国は南北に分断され未だに統一の道筋が明らかではありません...

日本に忠告したいことがあるとすれば、私たちの心を傷つけることをこれ以上言ったり、したりしないで頂きたいということです。東アジアの平和と発展の盟友として韓国、日本、中国は手を携えて協力してゆかねばなりません...』

 

どうも小泉首相の靖国神社毎年参拝宣言を批判してのコメントのようです。植民地時代の歴史を正すという盧武鉉大統領と戦前の日本史観を明確にできない日本政府のギクシャクは当分つづきそうです。

 

昨夕は教保文庫を出たあと、ロッテ百貨店でサムゲタンの夕食を取りました。明日の3・1節を知っている日本人観光客はどのくらい居るんだろう?とエレベーターの中で話している時に、免税店帰りの中年男性と韓国人女性ガイドが入ってきました。

 

『明日は休みだって、月曜日はいつも休みなの?』

観光客らしい日本人男性は無邪気にガイドに聞いています。

『いいえ、明日は祝日ですから』

『へえ〜 何かいいことでもあるの?』

『明日は日本の植民地だったとき、韓国人が抵抗した記念日で...』

『ふ〜ん...』

決まり悪そうに、私より少し年輩の男性はエレベーターを降りて行きました。

 

 

そして、私達は韓国人と豪州団体旅行の二日目、ブリスベーンでの朝を迎えました。(この辺で豪州旅行記の続きにしましょう。前書きがホントに長くてスミマセン。)

カールトンクレスト・ホテルのロビー前に昨日のマイクロバスがやってきて、前日どおり席取り合戦があって前日とおり私達日本人は一番後ろの席になって、一路ゴールド・コーストに向けてバスは高速道路を走ります。

 

ゴールド・コーストに住んでいるという千種ガイドは昨日と同じように豪州暮らしの良いところ、悪いところを話します。トヨタや三菱の車が私たちのバスを左右から追い越してゆきました。例のテキサスに留学していた奥様は懸命にメモを取っていらっしゃいます。もうひとつの4人家族は、KB(国民銀行)光洲支店の部長さん家族で、中学生と小学生の娘さんがいらっしゃいます。下の娘さん(サランちゃん)は今日の今日まで、私達が日本人だとは分からなかったらしいです。無口な韓国人だと...

 

時間合わせか営業目的か? 途中でマイクロバスはロイヤル・オパール社に立ち寄りました。韓国人支配人が皆をレセプション・ルームに案内して、豪州オパールの説明をします。日本人団体旅行客はメモも取るし研究熱心なので説明は1時間かかるけど、韓国人客は聞かないので10分で終わるとジョークを言ってます。因みに私はKOREA REPORTの為にメモを取ってます。テキサス奥様はもちろん真剣です。

 


笑顔も引きつるコアラ抱っこ

 

オパール鉱山の坑道のジオラマを観た後は、韓国人店員(アジュマ)が出てきてオパールの指輪やネックレス、ブローチの販売に入ります。オーストラリアのオパールはブラック・オパールと呼ばれ光を当てる角度によって赤や緑、黄、青などさまざまな色が石の中で輝く『遊色』が特徴なんだそうで、豪州に来たら是非買わなくては、今日は旧正月の元旦だからこんな目出度い日には奥様に記念に宝石を買ってあげなくては、といらぬ節介をやく。

 

オパール販売攻撃をやっとかわして、本日のテーマ・パークはオージー(豪州人)の伝統的な牧場生活が体験できるという、パラダイス・カントリーにやってきました。皆で一緒に入場し、まずはお決まりのコアラ抱っこ写真を撮ることになりました。コアラはユーカリの木の葉しか食べない動作緩慢な静かなぬいぐるみのような動物ですが、とても神経質で飼育は大変なんだそうです。

 

係員が抱いて登場したコアラはお尻の毛が円形脱毛症のようにところどころ禿ています。まあ、毎日毎日知らない観光客に抱かれた日にはストレスで変になりますよね、誰だって。動物も人間も変わりません。耳鼻咽喉科の先生ご夫妻が抱いて写真を撮るときまでは良かったのですが、KT(韓国通信)ご一家のお父さんが抱いた時、おしっこをしました。次はどうなるかな?と思っていると、私達の番の時には家内に抱かれるときにウンチをしました。写真の家内の笑顔が引きつっているのはその為です。誰のところでコアラが粗相をするか?ロシアン・ルーレットのようなコアラ抱っこでした。(これで有料13豪州ドル)

 

家内談によるとコアラのウンチは大変臭くて洗ってもなかなか落ちないそうです。そのまま次のイベント、羊の毛刈りショーに行きました。韓国人のおばさんが通訳をして、オージーが面白可笑しく羊の紹介?と電気バリカンで羊毛刈りを見せてくれます。それにしても300人は入る木造家畜小屋風会場は韓国人ばかり。どこからこんなに集まってきたんだろう?

 

今日はこの牧場テーマ・パークは、アジアン・デーだそうで中国人と韓国人と少数の日本人だけです。白人観光客はご遠慮してるようです。今やBSEで牛丼が希少価値になった日本ですが、ここ豪州では牛肉も大丈夫。お昼はガーデンテラスで次から次に焼かれるオーストラリア牛のステーキでした。もちろんサラダや果物も付きますが、キムチがどっさり用意してあります。

 

新聞などでよくいわれているように韓国や日本、米国牛に比べると豪州牛は少し固めで、脂身がすくないようです。もう一組のご夫妻はセメント会社の重役さんで、飛行機の前の席でシートを倒したままで食事をされていたのがご主人でした。旅なれたご様子で、韓国から持参されてきたカクテギ(大根キムチ)とコチュジャン(唐辛子味噌)をどうぞ、と分けてくださいましたが、固い豪州ステーキにカクテギは合いません。ステージでは豪州バンドが、『スキヤキ・ソング(上を向いて歩こう)』、『サーランヘ(愛してる;韓国の歌)』、『夜来香(これは中国の歌ですね)』を分け隔てなく演奏して、それぞれの来客から拍手を貰っていました。

 

お昼の後は、犬の羊追いや豪州伝統野外紅茶、牛の乳搾り、ブーメランの実演などの牧場ショーまで時間があるので、芝生に放し飼いにしているカンガルーにドッグフードのような餌をやったりしますが、毎日毎日同じ餌を出されるので、または昼食後なのか、差し出す餌に見向きもしません。カンガルーも面白くないようでしたが、こちらも面白くありません。千種ガイドは気を遣って集合写真を撮りましょうとか、チャペルの前でご夫婦で記念写真を撮りましょうとか誘います。写真を撮ること、撮られることには日本人の5倍くらい生きがいを感じる韓国の人達ですから、国民銀行家族のご主人は奥様をコアラの時より高くお姫様抱っこしてピースまでしちゃいました。独身アガシは面白くなさそうです。

 

午後のショーを見る間、1時間半ほど南半球の夏の紫外線をたっぷり浴びて、ぐったりしてバスに乗り込みました。韓国通信ご家族が一番後ろの席はご不自由でしょう?替わりましょう、と言われて二つ返事で替わっちゃいました。韓国団体旅行に紛れ込んでる変な日本人に韓国の人々もいろいろ気を遣ってくれます。

 


憧れのゴールド・コースト

 

さあ、憧れの白い砂浜ゴールド・コーストかと思っていると、バスは工業団地の一角に止まって、またまた駐豪州韓国人経営の羊毛カーペット屋に案内されました。ウールは9ヶ月の子羊のものが最高級だそうで、夏は涼しく冬は暖かい、親孝行にはとっておきの羽毛布団みたいです。2mX2mのベルサーチ柄のカーペットは198万W(約19万円)もするそうですが、セメント会社の奥様は早速購入されました。

 

ゴールド・コーストは綺麗なビーチが南北に延々42Kmも伸びる世界有数の海浜公園です。白い細かな砂は、はるばるハワイに輸出されてあのワイキキビーチを造っています。そのメイン・ビーチにバスが到着すると、この砂浜は裸足で歩かないと価値がない、千種ガイドに全員裸足になれと言われ無理やり私もデッキ・シューズを脱ぐはめになりました。

 

でも、本当に裸足で歩くと足の裏で細かな砂を感じて、いい気持ちです。日は西の空に少し傾いて海岸沿いに建っている高層リゾートマンションの影を海に向かって延ばしています。蒼い空には無数のスカイ・サーフィン(?なんていうんだ)の色とりどりなカイト(凧)が飛んでいます。これはウィンドサーフィンの帆を凧(パラグライダ―みたい)に代えたようなもので、海岸に並行の風の中、2本の長いたこ糸?に引っ張られてボードに乗った人間が海の上を滑るのは当然のこと、波を飛んだり、宙返りしたりしています。古の昔、ウィンドサーフィンのインストラクターだった家内は血が騒ぐようで、やってみたいと言ってました。

 

行けども行けども白い砂浜に秒速8mくらいの風が砂を飛ばしています。波打ち際をピタピタ歩くと子供の頃に返ったようです。中国人観光客もそう思ったのか、いきなり服を脱ぎだして白い下着で泳ごうとしていると、バギーカーに乗ったコースト・ガードに注意されました。下着姿がいけないんじゃなくて、黄色/赤の遊泳可能の旗の間以外は禁止だそうです。まあ、トップレスもボトムレスもOKの国ですからね。

 

先ほど高価なベルサーチ羊毛カーペットを買われたセメント会社夫妻も波打ち際を並んで歩いて行かれます。行き違った後振り向くと、ご主人が奥様にキスされてました。千種ガイドがバスの中で冗談半分に、海外旅行に夫婦で行くと仲良くなりますよね、でも帰ると一緒ですけどね、と言っていたのを思い出させる熱いシーンでした。それにしても60歳近いご夫妻であんなこと日本人にはできないよなあ、韓国人の愛情表現はやっぱりスゴイと、先ほどのチャペル前の韓国銀行夫妻のお姫様抱っこまで引き合いに出して再確認するのでした。

 

散々紫外線に焼かれて皆顔を赤くして、足についた砂を落してバスに乗り込みます。用意の良い韓国人はサンダルを履いていますが、私はざらざらの気持ちの悪い足をデッキ・シューズに突っ込むのでした。今夜の夕食はゴールド・コーストの街中に取りました、とバスを降りて瀟洒なショッピング街を千種ガイドの後を付いてゆくと、BBQの釜山屋の隣、新羅食堂(シイラ・シクタン)に入って行きます。今日は完全な韓国料理店かよ〜(昨日もKOREAN JAPANESE RESTAURANTとは書いてあったが、完全な韓国食堂だったけど)

 

キムチチゲ(鍋)に舌鼓を打ち、皆がお金持ちと納得したセメント会社重役のご主人が今夜は私がビールを奢ります、と太っ腹のところをみせて、私は独身アガシとまたまた、XXXXビールを旨い美味いと注ぎ合いしました。

『あ〜美味しいキムチチゲ! 韓国に居るみたい』

という、独身アガシの感極まった声に韓国人は皆笑っていたけど、日本人の私達は笑うことが出来ませんでした。

 

帰りのバスの中はお腹も韓国料理で膨らんで、遊びつかれた皆の寝息が聞こえます。暗くなってホテルに着くと電気コンセント用ソケットがホテルに1個しかないと騒いでいます。デジカメ、ビデオはみんな充電が必要だし、朝の身だしなみにはヘアードライヤーや電気シェーバーが必要で、どこの国に行ってもコンセントにプラグを接続しなければなりません。豪州はAC240Vでコンセントの穴はハの字になっています。韓国は〇二つ、日本はご存知のようにニの字(電圧は違いますが近頃のデジカメやビデオ、パソコンの変圧器はAC100〜240Vで電圧フリーになっています。)ですから、中間にアダプター・ソケットが必要なのです。

 

結局1個の豪州→韓国または日本用アダプター1個を皆で使いまわすことになりました。最初は私達の部屋でデジカメの充電に1時間使用したあと国民銀行家族に廻しましたが、疲れきって寝ていたはずなのに、あれからご家族でホテルの室内プールで泳いでいたそうです。なんとも充電が早い韓国人パワーにまたまた圧倒されたのでした。

 

ということで、豪州二日目はコアラとカンガルーとキムチチゲだけでした...トホホ。

もちろん明日?につづく・・・

 

 ソウルより 蒲谷敏彦


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