2004 蒲谷敏KOREA REPORT 5月号  

KOREA REPORT (続5月号)

―― ソウルで津軽三味線かよ ――

 イラクの刑務所もやっぱり怖いところだったんですね。ナチスドイツの捕虜収容所みたいだと報道されましたが、こちらでは日帝時代の韓国人刑務所のようだと報道されて閉口しています。小泉さんは北朝鮮から拉致家族五人を連れ帰って、それなりに成果を上げたように思うのですが、激しい非難を受けています。中途半端な仕事より何もしない方が良いみたいな日本です。それにしても、イラク人質事件では被害者が大変な批判を受けましたが、今回の北朝鮮拉致被害者の家族は厚い支援を受けられるようですね。自ら出国して人質になったのと、日本で拉致された違いでしょうか? 自己責任の違いでしょうね。私たち海外駐在員が海外で拉致された場合はどちらになるのでしょうか。


アパート団地の薔薇の生垣


 さて、アパートの生垣の薔薇がこの世の春を謳歌しています。アパート団地の生垣は赤い薔薇がポピュラーです。チャンミ(薔薇)アパートというのまであります。土曜日の夕方、そんな満開の薔薇を眺めながら地下鉄に乗って南大門市場に行きました。今夜は21階建てのMESAビルの10階ライブホールで、紅白歌合戦にも出演したという吉田兄弟の津軽三味線のライブコンサートがありました。日本から何か来るといえば、新居浜の太鼓台だろうと、高倉健さんの映画『蛍』だろうと、大相撲ソウル場所だろうと取材に行ったソウル特派員ですから、吉田兄弟の公演に行かないわけには行きません。

 

でも、この公演があるのを知ったのは前日の韓国の新聞でした。前夜に電話でチケット予約したのですが、まだ残っていました。先日の安室奈美恵のコンサートはガラガラだったそうなので、今度も不人気かと心配したのでした。が、会場につくと結構いっぱいです。日本のTBSが主催だそうでロビーでは韓国人にいろいろインタビューしています。

『どうしてこのライブに来られましたか?』

『カン・ウンイルのファンだから...』

今夜は有名なヘグム(女子十二楽坊で有名になった二胡に似た韓国の伝統楽器)の女性演奏家が競演するらしい。

 


            ただいま取材中

 

30分遅れで開演した、吉田兄弟のソウル公演は立ち見も出る盛況で愛媛県民文化会館の小ホール程度ではいっぱいです。兄弟津軽三味線にドラムにパーカッション、キーボード、エレキベースに尺八で演奏する、たんと節や竹田の子守唄などの日本民謡は古いようで新しい。日本から来られた白いスプリングセーターの追っかけ風のお姉さんも韓国人も、それぞれ自分のペースで楽しんでいるよう。津軽三味線といえば、雪の舞う東北の厳しい情念をばちに込めたような激しい楽曲を想像したのですが、案外優しいギターのような音色も響かせて、エリック・クラプトン調もあれば、スペイン音楽風、ケルト民謡まで幅が広いです。

 

吉田兄弟は北海道登別生まれで、良一郎は27歳、弟の健一が25歳。子供の頃から父親に三味線を与えられ、津軽三味線の大家・佐々木孝氏に師事し、数々の賞も受賞し現在最も注目されている新進兄弟演奏者だそうです。しかし、韓国では?

『ヨロブン、アンニョンハセヨ(皆さんこんばんは) ウリヌン ヨシダヒョンジェ イムニダ(私達はヨシダ兄弟です)』


             吉田兄弟初来韓公演と書いてある
 

たどたどしいけど、一生懸命ハングルで話をする兄弟に韓国人聴衆も好意的です。静かな曲よりそれこそ弦とばちが火花を出すようなアップテンポの激しい曲の方がノリがいいです。そんな18番の津軽じょんがら節は、おっかけのお姉さんも私たちも待ってました、と掛け声を掛けたいほどでしたがなぜか韓国人には受けません。拍手が沸き起こるはずの超高度の三味線のテケテケ演奏も静かなままです。やっぱりソウルで津軽三味線は無理かなあ、と思っているうちにラストの曲も終わりました。

 


              TV時代劇『大長今』の一場面

韓国の人は付き合いはいいので、アンコールの拍手も付き合い程度にはしてくれます。もう一度出てきた兄弟は、いきなり昨年こちらで大人気を博したTV時代劇『大長今(テチャングン;李朝時代の女性宮廷料理人の話)』のテーマソングを演奏し出しました。これには韓国人聴衆は大喝采です。ペンライトまで振っています。最初からこれをすれば良かったのに...

 

『アルンダウン バン イムニダ(美しい晩です)

(津軽三味線とヘグムは)遠いと思っていたけど、思ったより近かった。』

カン・ウンイルさんの挨拶はそのまま、日本と韓国、アジアを意味するなあ、と思う美しい夜でした。

 

                ソウルより 蒲谷敏彦


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