読書日記 2004年〜2014年

2015/7/4  「ローリング・ストーンズを経営する」 プリンス・ルパート・ローウェンスタイン 河出書房新書

☆ 

2014/11/2 創元  「ヴァイオリン職人の探求と推理」   ポール・アダムス 創元推理文庫

☆  著者はイギリス生まれのミステリ作家で、このステリが初の邦訳作品。腕のいいバイオリン作りの職人が、友人の刑事に協力して事件解決に挑む。

2014/9/6  「フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠」 マイケル モス 日経BP社

☆ 巨大食品企業が売り上げをのばすために行っている驚くべき製品開発やマーケティングの実態と、ライバルとの激しい競争や株価対策などで健康的な製品を出したくても出せないジレンマを当事者への徹底的な取材と内部資料により、解き明かした迫力あるノンフィクション。
ピュリッツァー賞ジャーナリストの著者が巨大食品企業の欺瞞と苦悩を丸裸にする。
☆ 、例えば、「飲みたい! 」という気持ちを起こさせる新しい清涼飲料を開発するには、「至福ポイント」を見つけ出せばよい。
糖分や塩分や脂肪分の配合量がある値にぴたりと一致していると消費者が大喜びするというポイントがあり、業界内部の人々はこれを至福ポイントと呼んでいる。
(本書プロローグより)
企業が提供する安価で手軽でそれなりに美味しい食品に抵抗するのは難しい。けれどその食品を選択するのは我々一人ひとりの責任。

2014/2/16  「知の最先端」 シーナ・アエンガー、フランシス・フクヤマ、カズオ・イシグロほか PHP新書

「知の逆転」が理系の知の巨人のインタビュー集だったのに対して、本書「知の最先端」は、どちらかというと文系のトップランナーたちのインタビューから構成されている。
どちらもその分野の巨人といわれるような人が解りやすく対話しているので、どの分野もとても興味深く触発されることばかり。対話に引かれそれぞれの方の著書も直接読んで見たくなる。フランシス・フクヤマ氏日本に対する見方にうなずかされる。
ダロン・アセモグル氏によると”安部首相は現在の権力構造を守る参入障壁を壊そうとしているようには見えない”そうだ。多分そうなんだろう。
クリスチャンセン教授のイノベーションに3つのタイプがあるとの説明は参考になった。
カズオ・イシグロさんの創作活動についての話も興味深かった。

2014/2/15  「爆速経営」 新生ヤフーの500日 蛯谷 敏 日経BP社

☆ITで成長している会社は、ダッシュで走り続けないと勝ち続けることはできないようだ。高速くらいじゃだめで「爆速」なんだ。
そのためには、経営者は常に最新の技術知識とバイタリティーの塊のような若い方が必要なのかも。アメリカのIT企業の経営者も若い人が多いし、創業者も比較的速い時期に若い人に経営を譲ってる。まあ、引退は億万長者になって遮二無二働く必要がなくなるからかもしれないけど。
YHOOのような経営スピードの速そうなIT企業でも”不易流行”が会社の将来を決するようだ。
ヤフーの社長交代による経営改革の奇跡を日経の経済記者であるライターが追跡した。

2014/2/9  「イノベーション・オブ・ライフ」 クレイトン・M・クリステンセン 翔泳社

2014/2/8
 「楽園のカンヴァス」 原田 マハ 新潮社

☆ 原田マハさんは、森美術館に勤務経験のあるキュレーターで作家。
ルソー作の「楽園のカンヴァス」をめぐるミステリー
画家と絵画をめぐるエピソードと絵画をめぐるミステリーと両方楽しめて面白い。
絵画1枚でここまで楽しいミステリーを書けるんだから、作家は偉い。
美術館で絵画をながめるのもこんな背景やドラマが1枚の絵それぞれにあると思うと楽しいね。美術に限らずスポーツやその他のものでも基礎体力とゆうか知識や技能があればずっと奥深いものとして鑑賞やプレイができるだろう。

2014/2/2
 「知の逆転」 ジェームズ・ワトソンほか 吉成 真由美「インタビュー・編」 NHK出版新書

☆ ジャレッド・ダイヤモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・トレイン、ジェームズ・ワトソン、現代最高の英知といわれる6名が、人類の未来をどう予言しているのか語る。人工知能の創設者マービン・ミンスキーは、膨大なメモリーにばかり頼って方向を誤ったために、役にたつロボットを福島の原発に送ることができなかった、現代のコンピュータ研究を批判する。
ネットで何でも簡単に知ることができるけど、どう判断すればよいかには戸惑が伴うことも大いにある。
物の本質を見極めるために、基本となる考え方を知の巨人たちに思考の踏み台として示してもらうことができれば是非知りたいと思う。サイエンスライターの吉成真由美さん(ノーベル賞科学者利根川進氏の妻)がインタビューアー。この方もものすごく博学なのがインタビューで感じるね。

2014/1/5  「問答有用」 中国改革派14人に聞く 吉岡 桂子 岩波書店

☆ 中国で改革派と言われる19人の官僚・学者・ジャーナリスト・経済エリート・NGO活動家らに「日中のいま」「日中のこれから」を聞いたインタビュー集。朝日新聞中国駐在員の著者がインタビューしている。
中国は、共産党の一党独裁の強権的なイメージのため負のイメージが強いが、この19人のように中国にはしごく真っ当と思える考えの人たちが居ることに驚くとともに安心もする。
いかに自分が中国のことを知らないのかとも思うが、マスコミでは中国の強引な姿勢を批判する報道が多いので、受身で報道を受け入れると間違うとも感じた。
この19人は、中国の現状をかなり憂慮した自国に批判的ともとれる発言もしているが、外国のメディアにこうした発言ができる状況でもあるんだ。
こうした勇気あるいは良識のある人々を孤立させることのなく両国が議論をお互いの未来についての議論をかわせるように日本国も我々も胸襟を開いていかないといけないね。最近の国内のソーシャルメディアなんかを見てると短絡な意見が多くて気になる。

2013/12/14  「キャプテンの責務」 A CAPTAIN'S DUTY リチャード・フィリップス ハヤカワ文庫

☆ ソマリア沖の海賊は数年前から悪名高いけど、この人はアメリカの商船「マークス・アラバマ号」の船長としてソマリア沖のアデン湾をケニアのモンバサに向け航海中にこの海賊に襲われ拿捕される。5人の海賊と渡り合う緊張の中、海賊の出方を読む冷静な心理戦で、乗組員たちを商船内に隠し通し、自分が捕虜となり救命ボートに海賊と乗り移る。
アメリカ海軍特殊部隊のシールズが海賊を射殺し救出するまでの過酷な5日間。
沈む船から最後に降りると言われる船長の責任の重さだが、このキャプテンは責任を見事に果たし生還した。
”キャプテン・フィリップス”として映画化されている。
高野秀行さんの 「謎の独立国家ソマリランド」 にソマリアの海賊は、なんとお金をだせば雇うことができ、仲介屋もいることが書かれている。本のソマリア事情も日本のメディアで見ることは無く貴重なこれは貴重な情報本です。 

2013/11/17
 「ライス回顧録」 ホワイトハウス 激動の2920日 コンドリーザ・ライス 集英社

☆ ブッシュ政権、47歳で国家安全保障担当大統領補佐官を努め、2期目のブッシュ政権で、国務長官に就任する。オバマ政権に引継ぎをして現在はスタンフォード大学に復学。
2001.9.11に始まり2008年の金融危機の対応に終わる激動の記録である。
イランの原爆開発問題、北朝鮮の核開発、リビア、インドとパキスタンの紛争、アフリカ各地での部族間紛争、イスラエルとパレスチナの領土紛争、あらゆると思える重い紛争にかかわる。情勢が混沌の中に陥ってゆくプロセスの舞台裏を明かしてゆく。
危機管理のトップとしてそれらに対応し、当事者たちをあの手この手で交渉のテーブルに着かせるために奮闘した日々の記録。
交渉の現場にいるような臨場感が伝わってくる。
問題の種は尽きない。それに対応し続けるのは普通のタフさじゃない。この人たちのモチベーションを保っているのは何?
ベスト アンド ブライテストの人々の世界。

2013/9/15  「アップル帝国の正体」 後藤直樹 森川潤  文芸春秋

☆ アップルファンだけど、なんともすさまじい会社である。なんか寂しくなりました。
日本のそうそうたるメーカー、ソニーやシャープ、ソフトバンクでさえアップルに、いつ使い捨てにされるかわからない。
日本の最先端技術や匠の技をくまなく使い(零細企業だろうが、大企業だろうが関係なく発掘し)ある日突然使い捨てにする。ソニーでさえ、デジカメの最先端技術である、電子の目、イメージセンサーの技術をアイホンに提供している。ソニーが誇る技術で進化したアイホンのカメラのおかげで、デジカメの販売台数は劇的に減少している。
パソコン業界も生産激減、音楽業界のアイチューンストアの格安料金でCDは壊滅状態。
カーナビ市場も時間の問題か。出版社は電子書籍に必死の抵抗だが。ゲーム機市場も悲惨で任天堂は大赤字。
著者いわく、アップルは世界中から常に次々と登場する製造技術からソフトウエアの新潮流まで貪欲に吸収続ける事で世界中をカバーしする素晴らしいネットワークを築いている。このことがアップル支配力の源泉だ。これは、一つのインテリジュエンス(知性)といってもいいかもしれない。この欠落こそが日本の家電メーカーが世界のルールチェンジについてゆけづ凋落の未知を辿った理由でないか。家電に限らずだろうけど。
この最近は、日本メーカーも海外の大手企業とM&Aとか積極的になってきた。革新するしか生き残れないのだろう。

 
2013/6/23   「ぼくとビル・ゲイツとマイクロソフト」  ポール・アレン  講談社

☆ マイクロソフトとビル・ゲイツとともに創業したポール・アレンの半生記の自伝。
前半は、マイクロソフト創業時代のこと。中高一貫の私立高校で2年後輩のビルと出会い黎明期のパソコンにのめりこんでゆく。もともとプログラマーの二人がOS市場を押さえて、パソコンソフトの標準となるのは有名な話だが、二人は互いを認め尊敬しながらも確執があり、結局ポールは、7年でマイクロソフトをやめる。マイクロソフト社が時代の先端を走りながらソフトの標準となるよう市場を押さえ、同業者がたくさん消えてゆく過程も興味深い。
その後、マイクロソフトは上場し、株式の3割程度を握っていたポールは富豪となる。
☆ 後半は、世界的な富豪になったポールの人生。投資会社で新しいネットビジネスに投資しお金を増やし続けるが、ケーブルテレビ会社の相次ぐ買収では時代に速すぎ失敗し、7000億円の損失。科学・文化事業の育成にも尽力し、NBLとNBAのオナーになる。学生時代からのギター好きが高じて、ジミヘンのミュージアムを設立。年間の維持費は20億円の126mのヨット建造し世界中を旅して廻る。カール・セーガンの地球外知的生命体の探査に資金援助、脳の地図作りプロジェクトに世界の頭脳を集めた研究所設立・・。

2013/6/15  「謎の独立国家ソマリランド」  高野秀行 本の雑誌社

☆ 最高に面白い。目から鱗のアフリカ事情でした。角旗さん同様、早稲田大学探検部OBの著者だったので、期待して読んだけど期待は裏切られなかった。ソマリアの海賊が請負仕事で、金さえ出せば海賊志願者が集まり、外国商船を拿捕できる。ヤバイビジネス
この著者のような人は、未開の商圏である外国を開拓する尖兵として超一流になるのだろうけどそれではやはり寂しいね。

2013/2/11   「督促OL修行日記」  榎本 まみ  文芸春秋

☆ 著者は、就職氷河期に大学新卒で何とか信販会社に就職するも配属先は、督促部署のコールセンター。
100名採用され、うち13名の一人として支払い延滞者への督促部署に配属される。いきなり、分厚い電話帳のような督促者名簿を渡され、1時間に60本の督促電話をかけるようノルマをかけられる。「てめえ、殺してやる!」とかめちゃくちゃ罵倒され精神を病んだり、突発の難聴になったりして次々と会社をやめてゆく同僚。
そんな同僚を見て、一念発起し気弱な自分でも言い負かされず回収できる独自のノウハウを開発し、クレジットカードの回収部門にて300人のオペレーターを率い、年間2000億円の債権を回収。督促業務の地位向上と後輩や同僚たちを守るためこの本にノウハウを執筆。といっても魔法の手があるわけではなく、厳しい督促電話でも要所に気持ちのこもる言葉を使うなど、相手、状況に応じた会話のテクニックを会得することが大切。
これは督促に限らずどんな状況でも大切なことですね。
この業界の労働環境は苛酷すぎてほんと?と思うとこもあるけど、ポジティブにがんばって職場に適応する姿勢には元気をもらえました。この本、フィクションじゃないよね、って感も。

2013/1/12   「ランダム・ハウス物語」  出版人ベネット・サーフ自伝 ベネット・サーフ ハヤカワ文庫

☆ アメリカのランダム・ハウス社を興した著者の自叙伝
司馬遼太郎さんの紀行文「ニューヨーク散歩」の中で、この本がとても面白くてニューヨークへ向かう飛行機の中で夢中になんて読んだと。気になり購読する。
1925年ランダムハウス社の前身となる出版社を友人と二人で設立し成功させた。そういえば、最近、日本法人のランダム・ハウス社は、出版不況で会社更生法を申請していた。
当時の出版業界のビジネス慣習や作家の著作権料率なども垣間見たが、当時の著名な作家たちとベネットとの交流を通じて、ものすごく個性的なたくさんの一流作家(ノーベル文学賞やピューリッア賞など授章の)の素顔が描かれており、興味が尽きなかった。
特に「ティファニーで朝食を」や映画「冷血」で有名なトルーマン・カポーティは万人を虜にする人間的魅力を備えた人のようだ。カポーティの本も読んでみよう。

2012/10  「探検家、36歳の憂鬱」   角幡 唯介 文芸春秋

☆ 大宅賞作家による初の冒険エッセイ集。受賞作『空白の5マイル』の舞台となったチベット・ツアンポーの探検が面白かったので、このエッセイ集も購入
早稲田大学の探検部出身で一度は朝日新聞に就職するが、探検魂忘れがたく、退社し空白の5マイルの冒険に。
空白の5マイルの他、今秋書籍化される『アグルーカの行方』の舞台、北極、その他これまで冒険してきた各地で感じたことと今につながる意識。また、雪崩に三度遭い、死の淵で味わった恐怖、富士登山ブームの考察、東日本大震災の被災地を訪ねて、様々な場所へ旅させます。
最後に収められた「グッバイ・バルーン」では、朝日新聞の記者時代に取材した冒険家、神田道夫さんの生き様を、いま再び浮かび上がらせます。

2012/9/
 「マイルス・デイビス自叙伝T・U」   マイルス・デイビス   宝島社文庫

☆ ジャズの帝王が残したただ1冊の自伝
クスリ・女・金そして音楽・ジャズ・。ジャズ・ジャズ
音楽に一生を命をささげたマイルスが思いを赤裸々に語っている。
マイルスは、歯医者の息子に生まれ当時の黒人では、比較的裕福な家庭に育ち、バークレー音楽院に入学しても、金銭的な援助を受けれる家庭であったが、音楽院の白人中心の教育に反発しまた、学ぶべきものはここには無いと退学する。
尊敬するバードとともにライブで活動をともにしながら音楽を学ぶ。そのバードのクスリ中毒の酷さ。マイルス自身もヤク中毒で廃人寸前になる。音楽への情熱がマイルスを中毒から立ち直らせたのかも。常に新しい音楽を追求し続けた帝王。
当時の黒人差別と黒人ミュージシャンの日常がマイルスの視点で語られる得がたい自伝。

2012/8/  「解錠師」   スティーヴ・ハミルトン   ハヤカワ文庫

☆ 2013年版 海外編このミステリーがすごい!第1位作品
8歳の時に言葉を失ってしまったマイクには、才能があった。絵を描くこと、どんな錠も開くことができる才能だ。
高校生のときにプロの金庫破りの弟子となるハメに。犯罪者の世界に巻き込まれ抜き差しなら無くなる。思いを寄せる少女に出会い、彼女を守るためにも犯罪者の世界で生き抜く決意をする。非常な犯罪者の世界の中で、愛する人との出会いで生きる希望を得て、生き抜いてゆく。

2012/7   「日本でいちばん大切にしたい会社」 坂本光司 あさ出版

☆ 金銭や利益以外の価値が何かを教えてくれる。
心を打つ五つの会社の物語。こんな会社が存続するんだ。それもお客さんから沢山の支持を受けて。こんな会社で働けたら、こんな会社を経営できたらと思わずにはいられない会社が登場する。
働くことの価値は、生活することはと自問せずにはいられなくなる書。

2012/6/  「大本営参謀の情報戦記」 情報なき国家の悲劇 堀 栄三 文春文庫

☆ 大本営の情報参謀が、戦後40年近くの沈黙を守って、戦中情報がどう扱われたか、の体験を語る貴重な記録
「太平洋各地での玉砕と敗戦の悲劇は、日本軍が事前の情報収集・解析を軽視したところに起因している」―太平洋戦中は大本営情報参謀として米軍の作戦を次々と予測的中させて名を馳せ、戦後は自衛隊統幕情報室長を務めたプロが、その稀有な体験を回顧し、情報に疎い日本の組織の“構造的欠陥”を剔抉する。
「戦略的失敗は、戦術的成功で、回復できない」など示唆に富む言葉が随所にある。ビジネスの世界でも貴重な教訓だろう。読み返し事象の本質を見る目を養いたい。

2012/5/18  「グーグル ネット覇者の真実」 IN THE PLEX How Google Thinks, Works,and Shapes Our Lives
 スティーブン・レヴィ 阪急コミュニケーションズ

☆ 「世界で最も影響力のあるネット企業の思考を読み解く最高の入門書」と、書評がピッタリする。ネットの神童たちが、作り上げる凡人に想像すべくもないグーグルの創造の世界の凄さに感動した。
世界中の知識と情報を集めることは、同時に世界中の個人情報も獲得している。既存勢力としての権利団体とのバトルも興味深い。グーグルマップのストリートビューや世界中の本を電子化しあらゆる人がアクセス可能にするプロジェクトでのバトル。
このグーグルも今日、ナスダック市場に上場したフェイスブックを追う立場になった。ネットの世界の創造と革新に伴うバトルと栄枯盛衰が始まるのか興味深い。グーグルは、フェイスブックを軽く見ていた。あまりにも簡単なプログラム(週末に書くプログラムで間に合う程度のものだった)で書かれたフェイスブックに脅威は感じていなかった。フェイスブックにグーグル検索と広告を提供することを考えたいたが、マイクロソフトに入札で負け提供できなかった。
巨大になったグーグルを嫌いベスト・アンド・ブライテストのITエンジニア達が、フェイスブックに移って働いている。彼らは、ストックオプションと2度の上場経験で、2回億万長者になった!アメリカンドリーム×2

2012/3/25  「中国経済あやうい本質」 浜 矩子 集英社新書

☆ 世界の経済全体が不穏となる中、中国が存在感を増しているが、その中国も新旧二つの世紀の狭間で、国の運営に綱渡りのような状況を続けている。
グローバル経済の中で、世界の工場となり、大量の投資マネーを招きいれバブルを膨張させながら19世紀的労働条件・生活環境を庶民にしいて経済成長を追い求める中国。中国が舵取りを誤り、バブルが崩壊した時は、世界はタダではすまされない。
中国は、巧みな舵取りで困難な時代を乗り切り、そして日本は中国とお互いの利益のためにうまくやって行けるのか。

2012/3/10  「日本人の戦争」 ドナルド・キーン 文春文庫

☆ 先日、3.11の震災を機に日本に帰化されたドナルド・キーンさん。
日本人の作家たちが太平洋戦争突入から敗戦までをどう受け止めたのか?作家たちが残した日記から、国家の非常時に日本の精神をあぶりだす。
帯に「惨禍の時代に日本人であることとは」
戦時中、アメリカ軍の兵士は、情報が敵に漏れることを恐れ日記を付けることを禁止されていたが、日本軍は、日記を推奨されていたので多くの日記が残されている。上司が検閲し、思想チェックに利用していたそうだ。キーンさんは、太平洋戦争の時代から占領後と日本軍兵士の日記を英語に翻訳する任務を負っていた。良質な日記を通じて、日本人の兵士と心を通わせていた。

2012/3/3  「ぼくはお金を使わずに生きることにした」  マーク・ボイル 紀伊国屋書店

☆ イギリスで1年間お金を使わずに生活する実験をした29歳の若者がメディアで紹介されるや、世界中から取材が殺到し、大きな反響を呼んだ。貨幣経済を根源から問い直し、真の「幸福」とは、「自由」とは何かを問いかけてくる、現代の『森の生活』。
不用品交換で入手したトレーラーハウスに太陽光発電パネルをとりつけて暮らし、半自給自足の生活を営む。手作りのロケットストーブ(一斗缶2個を重ねた)で調理し、歯磨き粉や石鹸などの生活用品は、イカの甲を乾燥させたものや植物、廃材などから手作りする。衣類は不要品交換会を主催し、移動手段は自転車。
1年間なんとか食いつないだではなく、ある意味豊かに暮した生活の実証、自分の信条の実践であり、読んでいて惨めさなど全く無く面白かった。助け合う仲間を持つことも「無銭経済」大きいようだ。
 ヨットでクルージングに出ることは、不自由な生活を体験、楽しむことでもあり、陸に上がって日常生活での当たり前の生活の便利さやありがたさを知るためにかかせないが、通じるものがある。

2012/2/5  「いねむり先生」  伊集院 静 集英社

☆ 著者が、ギャンブルの神様にして作家、色川武大と過ごした温かな日々を綴った自伝的小説。妻である夏目雅子さんを若くして癌でなくし、自暴自虐になっていた時期に色川さんと出会い過ごした日々。色川さんは、場所と時間を選ばず眠りに落ちてしまう眠り病のほかに、自分と同じように突然襲ってくる妄想に苦しみながらも作家生活を送っていたことが、一緒に過ごす時間が増えるに従って見えてくる。
色川さんと過ごすことによって、人生を取り戻してゆく過程と2人のギャンブルの旅を通しての交流と出会いが温かい。人は人によって救われる。

2012/1/29  「かばん屋の相続」  池井戸 潤  文春文庫

☆ 著者は、三菱銀行勤務を経て作家デビュー。帆布カバン屋さんをめぐる兄弟の事業の相続による二人の争い。親父さんの遺言で事業のあとを継いだ銀行家の兄だったが、兄にとって意外な落とし穴があった。
以前、手縫いの帆布カバンで有名な店(一澤帆布だったかな)で、兄弟が相続を争って、別々の店を開店させたのが話題になったことがありましたが、あれはこんな事情だったのかな?

2012/1/22  「大人の流儀」  伊集院 静 講談社

☆ 何十年か昔、平凡パンチに開高健の人生相談だったか、ご意見番の連載があったが、これは伊集院先生版といった感じ。自信をもって人生観を言えるようになるにはそれ相応の人生があったんだろうな。「人はそれぞれ事情をかかえ平然と生きている。」これは伊集院さんの言葉ですが。
25年前に亡くなった奥さん、女優の夏目雅子さんとのことを25年たって初めて著者自身が書いた文書は、なんと言うか切ない。

2012/1/15  「リトル・シスター」  レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 早川書房

☆ かわいい女』として日本では知られていた”The Little Sister”の村上春樹訳。
原文『リトル・シスター』、作中のオーファメイ・クエストを指す「妹」という意味だそうです。
チャンドラーの作品は、清水俊二さんの訳で読んでいますが、アメリカ文学が好きな作家、村上春樹さんが最近、訳されるようになり、こちらも楽しみに読んでいます。ハードボイルドは、かっこよくていいですね。つい読み終わるまで眠れなくなり、翌日、大変なのですがやめられない。

2012/1/8  「春嵐」  ロバート・パーカー  早川書房

☆ 私立探偵スペンサーシリーズも39作目のこの作品で最終作となった。2010年1月に著者ロバート・パーカー氏が逝去したことにより。
1973年に登場したそうだが、以来ずいぶん楽しませてもらいました。今回の作品は、”Z”と呼ばれるネイチブアメリカンの元フットボール選手がスペンサーのもとで尊厳を取り戻すストーリーだが、励まされたり慰められたりで、このシリーズ作品らしい、よい出来でした。

2011/11/12  「職業は武装解除」  瀬谷 ルミ子  朝日新聞出版

☆ 1977年生まれと未だ若い女性だが、アフガニスタンのように戦争や紛争の終結した国で、兵士に武器を捨てさせる武装解除(DDR)のプロとして活動している。<DDR−兵士の武装解除(Disarmament),動員解除(Demobilization)、社会復帰(Reintegration)>すでにスーダン、シエラレオネ、ソマリア、ルワンダ、バルカン地方など多くの紛争地域で活動実績がある。紛争地域の兵士には、兵士でしか生活の道はない。しかし、武装解除しなければ、その国が平和に経済的発展を遂げて行くスタート台にはつけない。兵士を武装解除するため部隊のボスと交渉し見返りを与え、、兵士を説得し職業訓練のシステムを作ったり、農業に復帰する支援をしたりプロとしての高いスキルが要求される。こんな職業?があったのか驚く。以上に日本の若い女性が紛争地域を渡り歩くようにして自分のスキルを高め、この道のプロとして活動する姿勢に感心した。日本の若者(特に女性は強い)に素晴らしい人がまだまだいる。
生きること自体が過酷な地域では、どんなに訓練を積んだ人でも、現場の辛い現実に直面し打ちのめされることが多いのだろうけど、タフな人だ。
「世界の紛争も、日本社会の問題も、自分の人生だって、行動しなければ何も変えられない」が、この人の一貫したポリシー。この決意の積み重ねが彼女を新しい紛争地域に駆り立てる。生き方を自由に選べる環境を届けるために。
現在は、NPO法人「日本紛争予防センター」事務局長(YouTube)として、紛争地域で活動を続けながら後進の育成もされている様子。

2011/11/6  「わが外交人生」  丹波 實  中央公論新社

☆ 外交官の回顧録。平成14年に退職するまで、米中ロの三大国の大使館に勤務した経験がある。三大国にみんな勤務は珍しいそうだ。ロシアのエキスパートで、橋本首相とエリツィン大統領の北方領土交渉で外務省の黒子として中心的な役割を果たした。
外交官の回顧録は、マスコミ経由でしか知らなかった歴史を現場にいた当事者の目から見た生きた歴史の講義を受けるようで興味深い。国益を背負った外交最前線の交渉では、相当な能力と苦労が必要。普段の相手国キーマンとの関係づくりも大切で、これはビジネスマンにも通じる。国益を守る胆力のある政治家と外交官が今、日本に一番必要な時と思ってしまう。
そんな政治家や外交官を生み出す気概や風土が、日本あるいは、日本人に無くなってきたのかもしれない。

2011/10/2  「稲盛和夫のガキの自叙伝」 稲盛 和夫  日経ビジネス人文庫

☆ 京セラの創立社長で、KDDIも創業し、現在はJALを再建中の稲盛さんが、自分の言葉で生い立ちから、現在(2004年74歳)までを綴った。
出発はセラミックを製品化した優れた技術者であるが、経営者として素晴らしい人だ。原動力は、利他の精神と一貫した情熱で、社員を鼓舞し、死に物狂いで難題を解決させる。アジテイターとしても一流な人。
志の高い中小企業の親父さんが、その情熱を保ったまま世界的企業の経営者となったようだ。

2011/9/26  「東京震災記」 田山 花袋  河出文庫

☆ 著名な作家が1923年9月1日の「関東大震災」を記録した。
優れた作家が、地震直後の東京の街を歩き回り、壊滅した市中で動揺する民衆の声を拾い集めたルポタージュ。新聞記事のような記述と説明ではなく、恐怖や絶望が匂いたつような描写があり、街の気分が伝わってくる。作家の文章とは、こんなにも素晴らしいものなのかと感心してしまった。

2011/9/19  「決断できない日本」 ケビン・メア  文芸春秋

☆ 米国務省日本部長だった著者が、「沖縄はゆすりの名人」と発言したと報道され、解任される。一切の弁明や反論を禁じられたため国務省に辞表を提出し、この本で報道元の共同通信記者に反論する。辞表を上司に伝えた翌日に、東北の大震災が発生。アメリカの「ともだち作戦」の日本との調整官として働いたあと国務省を辞任する。日本で19年間生活し、長く日本通として働いた経験がり、沖縄の基地問題を中心にアメリカ政府の本音を告白する。
主張は「決断できない日本」に集約されるが、民主党の鳩山政権への失望、小沢一郎は安保オンチで自分の選挙に勝ち、自分の派閥を強化することしか考えてない。と厳しいご意見。
沖縄の普天間基地の借地料として23年度は918億円が日本国から地権者に支払われており、毎年その金額は値上がりしている現実。普天間飛行場の近くに小学校建設を許可ておいて、小学校があるからこの飛行場は危険だと騒ぐ、地方の革新系政治化の実態。
アメリカ側からみた、日本で報道されることのないなさけない実態。
東日本代震災でアメリカの緊急援助にたいする日本の驚くべき悠長な反応:平和ボケといわれても仕方がないのかも。

2011/9/18   「なぜリーダーは「失敗」を認められないのかー現実に向き合うための8つの教訓 
リチャード・S・テドロー  日本経済新聞出版社

☆ ハーバードビジネススクールの著名教授が、「否認」(前の現実を認められない)が原因で危機によ陥った有名企業の実例を解き明かし、それを避けるためにリーダーが取るべき行動と「不都合な真実」を受け入れるための8つの教訓を説く。
明白な事実に向き合いたくないがために、それを無視してしまうことは、人生ではよく起こる。「経験と歴史から分るのは、民衆も政府も、歴史から何かを学んだり、そこから導き出される原則に基づいて行動することはない、ということだ」と語ったのは、ドイツの哲学者ヘーゲル

2011/9/11   「経営戦略の教科書」 遠藤 功  光文社新書

☆ 早稲田大学ビジネススクール教授が、講義で行った「経営戦略」の内容を本にまとめたもの。15コマの講義内容に企業の実例をあげ解説されている。実際の講義では、実業界からゲストスピーカーを招き、臨場感タップリに生きた経営戦略を体感するようになっており、学生たちに刺激を与えているそうだ。今からでも受けてみたいこんな講義。

2011/9/4   「いま、知らないと絶対損する年金50問50答」 太田 啓之 文春新書

☆ 年金の仕組みはわかり難いので敬遠していたけど、この本のお陰でとに角、年金に加入しておいて損はないことが良くわかった。たちまち年金が破綻する状況でもないようで安心もした。年金問題は国民にとって大きな問題でマスコミでもしょっちゅう取り上げられているが、報道する側もよく判ってないから、判りにくい報道になっているのだろう。国民に正確な情報が伝わらないと、目先の利益だけで判断され、個人も国も大変なことになってゆく。

2011/8/21

 「エロティック・ジポン」 アニエス・ジアール 河出書房新社

☆ 著者は1969年生まれのフランスの女性ジャーナリスト。2006年にフランスで出版された「日本のエロティックな想像力」の邦訳で、フランスでは今でも順調に版を重ねているそうだ。
ロリコン、援助交際、セクハラ、制服、人形愛、コスプレ、メイドカフェ…どころじゃない絶句するような性文化の数々…日本人でさえ理解しきれない「奇妙で豊饒な性文化」を論じる、気鋭のフランス人女性による大胆な〈性の日本論〉!
普通の日本人であれば知らないような性風俗が、日本固有の性の文化として紹介されている。しかも相当な熱意で、性風俗が網羅されている。その緻密さと徹底的な範囲の広さに驚く。これがフランス人女性による著作であることにも。アニメだけが日本のソフト文化なんかじゃなくて、背景にこんな厚みのある文化が存在する。もう一つの日本を目のあたりにする。300点にのぼる写真などの資料添付も貴重品

2011/8/20  「未曾有と想定外」 東日本大震災に学ぶ 畑村洋太郎 講談社現代新書

☆ 「失敗学」の権威、畑中洋太郎博士が、震災後に考えたことをまとめた本。
「未曾有」は、歴史上かってなかったことに本来使われるべき言葉である。今回のような東日本の地震は、個人的には初めてでも歴史上では経験しているので「未曾有」といった言葉は使うべきではない。三陸地方を襲った地震では1896年の「三陸沖大地震」では、2万人以上の犠牲者を出してる。今回を加えると100年余りの間に4回も三陸地方は大津波に襲われている。少なくとも地震の専門家はこの程度の地震が起こることは考えておかねばならなかった。その意味では福島原発の4基もの事故は、人類史上初めてとなる「未曾有」の事故であろう。
今回の原発の事故に東電・行政・原発推進学者など関係者が「想定外の事故」と言うのは、大変な違和感がある。想定外で免罪されるような軽いものではない。原子力にかかわる者は、あり得ること、起こり得ることをすべて想定するといった程度のことは、ふつうにやっているのが当たり前である。想定するのが「専門家の責務」であったはず。今回の事故に世間の人が不信感や怒りを覚えるのは、想定外という言葉を使う無責任さにある。
「日本で生きるということは、自然災害と折り合いをつけながら生きること。最後は、自分の目で見て、自分の頭で考え、判断し、行動できる人間が強い。今回の津波でも、地震直後に自分で判断し、高所に逃げて生き延びたたくさんの人々がいた。」
巨大な防潮堤を張り巡らし、たくさんの人々が逃げるのを怠ったために防潮堤ごと流された町もあった。自然の猛威をもを押さえ込んでしまおうと考えるのは愚か。

2011/08  「原発のウソ」 京都大学原子炉実験所助教 小出裕章 扶桑社新書
  ☆ 伊方原発裁判などで放射線被害を受ける住民の側に立って活動してきた人。ユーストリームなどでインタビューを聞いてこの著者の発言が一番納得できると感じていたので、この著者の本も読んでみる。どうも原発が少なくとも地震国日本にあるのは非常にヤバイようだ。中止にしてゆく方がよさそうだが、すでに生み出された膨大な放射性廃棄物の処理方法も怪しい様子。なんとも酷い状況だ。
怖かったのは、JOC臨界事故で被爆し死亡した2人の作業員は、細胞が再生されず、苦しみぬいて83日目に死亡した。(最初に運び込まれた国立水戸病院は、放射能汚染の被爆者受け入れを拒否)DNAの複製機能が放射能被爆で破壊される。
2006年にロンドンで毒を盛られて暗殺された元KGBの職員だったリトビネンコさんに使われたのは、「ポロニウム210」という放射性物質。用いられた量は「100万分の1グラム」にも満たない量だった。放射性物質に安全な被爆量はないと言うことだろう。
 2011/08  「デフレの正体」−経済は「人口の波」で動く 藻谷浩介 角川oneテーマ21
  ☆ 「生産性の上昇で成長維持」というマクロ論者の掛け声ほど愚かに聞こえるものはない。現実は内需にマイナスに働いているからだ。
「現役世代人口の減少」、日本の問題はここにある!誤った常識を事実で徹底的に排す。」
著者は、政策投資銀行の松山支店に勤務経験があるそうな。
2011/07  「ユニクロ帝国の光と影」 横田増生 文芸春秋゙

☆ 「努力します」「考えます」は許されない。総崩れの日本企業のなかで、唯一気を吐く柳井正率いるユニクロ。だが、これまで、独自調査によって柳井経営を精査したメディアはなかった。
なぜ、執行役員が次々と辞めていくのか?なぜ、業績を回復させたにもかかわらず、玉塚元一は、追い出されたのか。なぜ、中国の協力工場について秘密にするのか?柳井正の父親による桎梏とは何なのか?誕生の地・宇部から、ユニクロ躍進の秘密を握る中国へ、そしてライバルZARAの心臓部スペインへ。グローバルな取材であぶりだす本当の柳井正とユニクロ。
ユニクロは、名誉毀損でこの本を訴訟したがそれほどの内容とも思えない。
ユニクロのちょうちん記事ばかりが多いので、こんな本もたまには。

2011/07
 「国連運輸部・鉄道課」の不思議な人々 −鉄道エンジニアの国連奮闘記ー 田中宏昌 ウエッジ

☆ 1984年、当時、国鉄のエンジニアだった著者は、バンコクの国連に派遣される。若くして長逝したM君とともに「アジア鉄道近代化プロジェクト」のために獅子奮迅する日々をユーモラスに活写する。
登場人物のプライバシー(国連での蓄財活動など)に配慮して、関係者が居なくなる?今頃まで出版を見合わせていた。
組織に問題はつきものだが、世界のお役所から公務員的な方々が派遣された組織で、それに外交官特権や各国の利害がからめば、どんなすさましいバトルがあることやら。

2011/06  「疾走中国」変わりゆく都市と農村  ピーター・ヘスラー  白水社

☆ 2000年〜2007年「ニューヨーカー」北京特派員として中国で暮らした著者。北京郊外の農村に一軒家を借り農民とともに生活しながら、レンタカーで中国の辺境までドライブし見聞、交流した住民たちの物語。中国語を流暢に喋れる外人として、中国の人たちの尊敬を得て、受け入れられておりまた、中国の人たちへの愛情が、このレポートをより味わい深いものにしている。田舎から出稼ぎで都会の工場で働く女工たちの過酷な勤務状況に触れながらも彼女らの逞しさや向上心に感服し、彼女らの将来を応援している気持ちが伝わる。

2011/06  「そうだったのか中国」 池上 彰  集英社文庫

☆ 中国の存在感は増大する一方だが、中国の現代史を体系的に学べる機会は少ないので、興味深かった。特にこの数十年の中国はすごいスピードで変化して存在感を増してきているので、この巨大な隣国を理解するために役に立った。
2005年の反日運動の検証、チベット問題(チベットの抑圧)、天安門事件、台湾問題、経済格差、共産党の一党独裁体制など。中国が沈黙する影の歴史も。

2011/3/27  「イギリス近代史講義」 川北 稔   講談社現代新書

☆ 著者のエピローグより。
「世界で最初の工業国家」としてのイギリスの勃興と、20世紀後半に到来した「イギリスの衰退」とは、同時にこれをみるのでなければ、歴史の説明としてはあまり有効ではないでしょう。
反対に、この二つを同時に見てゆくことは、日本人にとっては、格別の意味があると思います「高度成長」と「日本の奇跡」を生み出しながら。「失われた10年」どころか20年を超える経済不振に悩まされている現代の日本は、イギリスが近世以来数百年に渡って経験したことを、ごく短い期間に追体験してきたようなところもあるからです。・・・

2011/3/20  「日本のいちばん長い日」 AUG.15.1945 半藤 一利   文春文庫

☆ 敗戦という大激震。8月15日の24時間を追った記録。昭和40年に当時生き残った関係者に取材し書き上げられた。敗戦という形で、建国以来はじめてといっていい大きな変化に直面したとき、全日本がいかにおおきくゆれたか。広島、長崎に原爆が投下され、もはや日本の命運もつきたが、徹底抗戦を叫ぶ陸軍におされ、ポツダム宣言に対し受諾の判断を決められない。日本人の精神構造がつくる真実のドラマ。

2011/3/13  「ニューヨーク散歩」 街道をゆく39 司馬 遼太郎  朝日文庫  

☆ 司馬さんが、ドナルド・キーン氏の退官記念の講演のため再訪したニューヨーク紀行。1993年週刊朝日に連載された司馬さんのエッセイ「街道をゆくシリーズ」の1編だが、新装版が現在も発売されている。司馬さんは、時間をおいて読み直してもいつも新鮮な感動がある。ニューヨークに住む日本人との出会いや、優秀な「日本」研究者たちとのふれあいが楽しい。

2011/3/6  「須賀敦子全集」 第1巻 須賀 敦子  河出文庫  

☆ 須賀敦子さんが、イタリヤで学び、結婚し、イタリヤに暮らした時代のエッセイ集。「ミラノ霧の風景」で、女流文学賞、講談社エッセイ賞受賞。他に「コルシア書店の仲間達」などのエッセイシリーズが収録されている。ほとんどのエッセイが、イタリアでのことだが、旅の途中や留学中の見聞録といったものではなくではなく、イタリヤ人と結婚し仕事、生活を送った時代のこと。日々、気ぜわしく時間に終われるように生活している時に読むと、心洗われるエッセイ集。

2011/2/20  「星を継ぐもの」 ジェイムズ・P・ホーガン  創元SF文庫  

☆ 1980年初版発行、2010年80版と長ロングセラーだけあって、ずいぶん面白いスケールの壮大なストーリーだった。月面で発見された真紅の宇宙服をまとった人類と瓜二つの死体は、5万年前に死亡したものだった。
一方、木星の衛星ガニメデで、地球のものではない宇宙船の残骸が発見された・・。
原子物理学者のハント博士も魅力的な人物で物語に厚みを与えている。
アーサー・クラークが小説版を執筆し、スタンリー・キューブリックが映画版を監督・脚本した『2001年宇宙の旅』を観た時の感動を髣髴とさせる作品でした。

2011/2/13  「そうだったのかアメリカ」 池上彰  集英社文庫  

☆ 池上さんの「そうだったのか○○」シリーズは、すごく判りやすく書かれていていい。
アメリカは、宗教国家だ、連合国家だ、帝国主義国家だ等々の9章と「オバマ大統領以降のアメリカ」で構成されている。
アメリカについての基本的なとらえ方が、テーマごとに興味深くまとめられていて、昔学校で習ったことなども多く思い出されてくる。存在感の或る大国アメリカについて、体系的に学び直し、またおさらいができた。NHKの週間子供ニュースを担当していただけあって、わかり易く説明できる技術にたけているんだろう。義務教育の場でも先生が、こんなに生活に関わりながら教えてくれると、子供の頭にもいっていたんだろう。自分の理解能力のなさを棚にあげてだが。

2011/2/11   「マネーの進化史」 ニーアル・ファーガソン  早川書房  

☆ ハーバードの歴史学者・金融史家が、信用の創造から、銀行制度の発達、保険の発明、証券化、ヘッジファンドの誕生にいたるマネーの進化、金が世界を動かしてきたプロセスをドラマチックに再現する。
過去の実話が引き合いに出されているので、最後まで興味深く読めた。
この「金融の惑星で」生きてゆくうえで、必要な知識と知恵を伝えてくれるベストセラーとの書評にひかれ読んだが面白かった。
保険と債券市場の進化によって金融が活発になり、ヘッジファンドのような投資会社も誕生し活躍の場ができた。最近のサブプライムローンは金融の証券化やヘッジファンドの跳梁に拍車をかけ大崩壊した。
Conversations with History - Niall Ferguson(著者のインタビュー:ユーチューブ)

2011/1/29   「淳之介さんのこと」 宮城まり子 文春文庫
  「淳之介の背中」   吉行文江  港の人(新宿書房) 
  夫、淳之介が家を飛び出した妻とその夫が一緒に暮らした宮城まり子さんのが綴った本を一緒に読む。 宮城さんの本は人を愛することが感動的に伝わってくるすばらしい感性の文章だけどどちらが強く愛していたのかは判らない。 

☆ 「淳之介さんのこと」は、文芸春秋’95年から’00年に18回にわたって連載されたものが平成13年に単行本として出版された。作家吉行淳之介との37年にわたる宮城まり子さんの愛を綴る。「一日も逢わずにいられない それがはじまりだった。」出会いからその死まで、三十七年にわたり、いつも傍らで作家・吉行淳之介を見つめてきた著者が、思い出すままにつづる作家の生活 と淳之介への思い。

☆ 「淳之介の背中」は、妻、吉行文江さんが、結婚してから、淳之介が「あじさいの人」(文中、宮城まり子のことをこう呼んでいる。)の元へ出て行ってしまうまでの15年間の生活のことを語ったもの。淡々とした調子で語られているが、淳之介の妻は自分であるとの強い思いが伝わってくる。何か鬼気迫るような迫力がある。2004年に出版されている。「淳之介さんのこと」が出版されたことへの対抗心がありありと伝わってくるような。

2011/1/23  「夜も昼も」 ロバート・パーカー  早川書房  

☆ 熱き警官魂と男の弱さをあわせ持つ警察署長ジェッシイ・ストーンの活躍を描くシリーズ最新作。(パーカーは2010年に亡くなったのでこれが最後となる) ジェッシイが中学校に呼ばれたのは、女性校長が女子生徒のスカートをめくらせ、「不適切な」下着をつけていないか検査した騒動のためだった。法律違反とはいえないが、少女たちの心は傷ついた。その際に会った少女が、両親がスワッピング・クラブに参加するのをやめさせてほしいとジェッシイに頼みにやってくる。成人が自由意思でスワッピングに参加することもまた、法律違反ではない。しかし、ジェッシイはこのままにしてはおけないと感じる。
探偵フィリップ・マーロウの台詞「タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない」を思い出すジェシイの生き方

2011/1/22  「苦役列車」 西村賢太 新潮社 今年の(第144回)芥川賞受賞作品  

☆ 「平成の私小説作家ついに登場!」と帯に。
中卒学歴の19歳の「貫多」が日雇い人夫仕事で日々、何とかやり過ごしながら無為な日々を送る。日雇い日当は、その日の飲み代やソープ代に消え、アパート代も踏み倒し、追い出され住処を転々とする。少し金が残れば翌日の仕事は休む。日雇い先で、知り合った同僚?ともうまくやれない。
まあ慣れてしまえば、結構気楽で心地のいい生活ではあるんですよね。こういう自堕落なのは。

2011/1/16   「全ての装備を知恵に置き換えること」 石川 直樹著  集英社文庫  

☆ 著者は23歳で北極点から南極点までを人力で踏破、24歳で七大陸の最高峰の登頂に成功した。探険家で写真家の彼は、その後も世界各地を旅し続ける。極地で飲んだ安ワインやビール。山形でトマトと牛乳をくれた農家のおばあちゃん。チョモランマの僧の祈り声を運ぶ風。沖縄の合宿で食べた中味汁。アフガニスタンで見た天の川。それぞれの土地で出会い感じたことを清冽な文章と写真で語ったエッセイ集。
コンパクトなエッセイで出来上がっている。海、山、極地、大地、空、都市と目次では分かれているが、どこであろうと地球をまるごと旅し感動することが人生のテーマのような。

2011/1/15  「ブリムストーンの激突」 ロバート・パーカー  早川書房  

☆ 探偵スペンサー・シリーズの著者が、西部劇小説を書いた3部作の最後の作品。ワイアット・アープの真の姿を描こうとした最初の西部劇小説「ガンマンの伝説」を契機にこのシリーズが登場した。
主人公のガンマン、エベレット・ヒッチは、とある酒場で拳銃の名手ヴァージル・コールと出会い、以後15年間相棒となる。
バージルのもとを去っていったかっての女アリソン・フレンチを探して、西部の町を渡り歩き、ついにブルムストーンの街でアリソンを見付ける。安酒場で女郎となっていたアリソンをそこから救いだす。バージルは、アリソンを保護し見守る。しかし、アリソンは、新興宗教にはしり次々と男に身を任せる。凄腕のガンマンであるバージルはアリソンをすてることもできず戸惑うばかりである。西部劇をかりて男女のあり方とか女性の現代的な生き方を示唆しようというのだろうか。

2011/1/10  「プロフェッシヨナル」 ロバート・パーカー  早川書房  

☆ スペンサーシリーズ37作目の世界。
歳の離れた裕福な夫を持つ、美しい4人の若妻たち。彼女らはある男に誘惑されて関係をもったが、やがてその男は夫や世間に浮気をばらされたくなかったら大金をはらえと要求していた。なんとかしてほしいと4人の依頼をうけ、そのゆすり屋を追い始めたスペンサー。
レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウとスペンサーの違いは、著者曰く、
”スペンサーにはラブ・ライフがあり、背景(コンテクスト)があり、友達がいる。彼は不幸ではないし、孤独でもない。” ”孤独は、マーロウがマーロウであるために払う代償だ。純粋さを保つために距離をおかなければならないマーロウと違って。スペンサーはコンテクストの中で完全性を保つことができる。そこが彼らのいちばんの違いだろう。”
この違いは、作者自身が、夢の女性と長く幸せな結婚生活をしていることと無縁ではないだろうと訳者の解説にある。

2011/1/9  「灰色の嵐」 ロバート・パーカー  早川書房  

☆ スペンサーシリーズ36作目 
ロバート・パーカー73歳(2005年)の時のインタビューによると、プロットのことは心配せずにテーマだけ決めておいて(例えば、スペンサーが経済犯罪を調査するとか)書き始め、平日に10ページずつ書きためえていく。それが午前8時から午後2時まで。誰が犯人かは終盤になるまで著者自身にもわからないことがあるそうだ。とにかく行動を起こし相手の出方をみながら考えてゆく点で「わたしの執筆方法とスペンサーの調査方法は似かよっている。」と述べている。
1日の執筆を終えたあとワークアウト。週に3回ピラティスのトレーニング。週に2回、12階分の階段をのぼり、週に2回、2マイル歩くという。
村上春樹のインタビュー集でも、著作は体力が要求されるので毎日マラソンをして体力の維持に努めていると言ってたが、二人ともダシール・ハメットとレイモンド・チャンドラーを愛読しており、創作のスタイルが似ているようだ。

2011/1/8  「昔 日」 ロバート・パーカー  早川書房  

☆ スペンサーシリーズ35作目 
スパンサーは、妻の浮気を疑う夫から調査を依頼される。浮気の相手は、妻が勤める大学の客員教授で、テロ組織とつながりのある男だった。調査を進めるうちに、当の妻と夫が何者かに殺され、さらにスーザンまで危険が及ぶ。
スペンサーは、ホーク、ヴィニイ、チヨヨらの協力を得て、問題の男を追い詰めてゆく。

2011/01/2  「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」 村上春樹インタビュー集 文芸春秋  

☆ 村上春樹が語る村上春樹の世界。インタビュー嫌いで有名な著者だが、日本と海外のメディアからの質問に13年間にわたってインタビューなどの集大成。村上春樹の小説には、明確な答えがないように思うが、答えは読者それぞれが、見つけるべきもの。読者が感じるように感じればいいのだと作者の口から聞くと、リラックスして読める。目から鱗。いわゆる村上本を読んで他人の批評を気にすることもまったくなし。インタビュー集など出版したくなかったそうだが、読者(すくなくとも僕)を安心させる?ためにも、インタビュー嫌いの村上さんではあるが、この本は、有益だ。

☆ 毎日、朝、5時頃には起き、朝のうちに5時間余りの執筆をして、昼前には終了する。それからジョギングや水泳をしてり、音楽を聴いて読書をし夜9時頃には寝てしまう。規則正しい生活を続けている。著作は、自分の中にある深い井戸のような闇に降りて、精神の中から自然と湧き出す物語を紡いでゆく作業であり、健康な肉体をもってないと続けられない仕事である。少なくとも長く続けることはできない。毎日、机に5時間も向かって、著作をするのは本当にたいへんなことなんだ。(サラリーマン(僕)は、毎日8時間は机に向かってるけど、相当集中してないいだろうねえ。思い当たる)小説を書いてないときは、好きな作家の翻訳をする。(レイモンド・チャンドラー、フィッツジェラルド、カーバーなどの翻訳が有名)翻訳の仕事は精密な読書でもあり、ほんとうに著作の仕事には役立っている。
自分の中にある深い精神の井戸から物語を紡ぐのは、自由に夢を見ることができるようなもの。

2010/12/12  「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」 村上 春樹著 新潮文庫  

☆ ”ハードボイルド・ワンダーランド(科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた<私>が、その思考回路に隠された秘密をめぐって確約する)”と”世界の終わり(高い塀に囲まれ、外界との接触がまったくない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んでくらす僕の世界)”の二つの世界が、交互に展開し物語が進んで行く。現実にあるはずのない不思議な世界だが読み出してすぐに話の中に入り込んでいる。記号士、計算士、音抜き、ブレインウオッシュ、夢読み、一角獣、太った女の子、が現実のような世界に登場してくるが違和感がないのが不思議。

☆ 二つの世界は、最後に一つに繋がってゆく。素敵な村上ワンダーランドだ。

2010/11/7  「世界は分けてもわからない」 福岡 伸一著 講談社現代新書  

☆ 連続して変化する色のグラデーションを見ると、私たちはその中に不連続な、存在しないはずの境界を見てしまう。逆に不連続な点と線があると、私たちはそれを繋いで連続した図像を作ってしまう。つまり、私たちは、本当は無関係なことがらに、因果関係を付与しがちなのだ。・・ヒトの目が切り取った「部分」は人工的なものであり、ひとの認識が見出した「関係」の多くは妄想でしかない。私たちは見ようと思うものしか見ることができない。

☆ 科学者たちはなぜ見誤るのか?命の本質を見るのは簡単じゃない。・・科学の世界も難しいもんだなと思う。人の命の探求だから当然か。

2010/10/10〜  メグレ警視シリーズ  
 「メグレと殺人者たち」「メグレと口の固い証人たち」「ムグレと首なし死体」「ムグレと消えた死体」「メグレと火曜の朝の訪問者」「メグレ間違う」 
 ジョルジョ・シムノン 河出文庫 
  

☆  フランス司法警察のメグレ警視シリーズを読み出したら面白くて止まらなくなり、本棚に眠っていたこのシリーズをしばらく読み続ける。昭和51年に河出書房がメグレシリーズを出しはじめたものの復刻版。犯人や取り巻く人たち、特に女の心理描写や下層の生活者の描写がリアルに頭の中にイメージされる。メグレ警視が犯人たちを尋問で追い詰め事件を解決するスリルもいいが、登場する刑事や犯人たちの心理描写に引かれてやめられなくなる。犯罪を犯さざる得ないどうしようもない境遇の者たちへの眼差しも暖かい。

☆ 何十年か前にテレビでメグレ警視シリーズを放送していたのを楽しみに見ていたのを思い出す。メグレは事件でフランス西岸のラ・ロッシェルに出向き、現地の刑事の案内で海沿いの市場で牡蠣とワインを美味しそうに食べていたのを何故か鮮明に覚えているのだ。大人になれば出張のついでにこんな羨ましいことができるのかと思いながら見たのかもしれない?

2010/10/3  「ねじまき鳥クロニクル」 第1部・第2部・第3部 村上春樹著 新潮文庫  

☆ 3部作の長編で、何がテーマなのかはよく判らなかったけど(特にテーマなど気にしなくてもいいんだろうけど)日常当たり前に生活する中で、こだわりながら自分を見つめ、自分にとって大切なものを注意深く観察し、大切なものを守るために戦わなくてはいけないんだなとか感じる。
先日、読んだ1Q84の3部作では、このことがもっと明確に書かれていたようだ。

2010/9/26  「雨天炎天(写真編)」 ギリシャ・トルコ辺境紀行 村上 春樹 新潮文庫   

☆ 旅は空気を感じること、と作者が書いていたけど、そうゆうことかもしれない。
近境・辺境で村上春樹と同行した写真家の松村映三氏が今回も写真担当で同行している。写真がなくても優れた旅行記は、充分に楽しいが、作家の文章に同行した写真家の写真があるのもそれはそれで楽しめる。原作を読んだ後で映画をみて、ああ、映画も面白かったと思うようなものかもしれない。トルコの子供たちの目と顔が輝いている。すさんだトルコの紛争地域の人たちの眼差しはすくわれない。
ギリシャのアトス半島のギリシャ正教の僧院群の現実離れしたような厳しい雰囲気も写真から伝わってくる。(日本でも神田のニコライ教会が正教のの教会である)

2010/9/12   「日はまた昇る」 ヘミングウェイ 新潮文庫  

☆  そうか、『日はまた昇る』とはこういう小説だったか、と思い出しながら何十年ぶりかで読んだが80年前に書かれた小説なんて何も気にならない。20世紀の名作(新潮文庫20世紀の100冊シリーズとして」出版された1冊を購入)

2010/9/5  「辺境・近境」 「辺境・近境(写真編)」 村上 春樹 松村映三(写真) 新潮文庫  

☆  村上春樹の90年代前半頃の旅行記で、イーストハンプトン(作家の家や別荘で人気が高い)、メキシコ大旅行、讃岐・超ディープうどん紀行、ノモンハン鉄の墓場、アメリカ大陸横断、神戸まで歩く、の7編が収められている。

☆ 村上さんは旅行の好きな人で、有名人なのに結構危ない旅もしている。村上さんの感性を通してみる旅の印象になるほどと気づかされるようなことも多くて、自分で同じ所を旅してもこんな気づきはないよね、と言ったことがおおくて面白い。旅に同行した村上さんと同級生の村松さんの写真も面白く、同タイトルの写真中心の旅の本も一緒に読める。村上さんの旅行記を読んでから、村松さんの旅の写真を眺めるのも印象が深まってよかった。

2010/8/15  「インパラの朝」 ユーラシア・アフリカ大陸 684日 中村 安希 集英社  

☆  26歳、47カ国、2年の旅、45リットルのバックバックを担いで。
彼女の文章には、小気味のよいリズムと何かしら色気がある。アジア・中東・アフリカの市井の人たちの声に耳を澄ませ、彼女の感性がその声なき声を汲み取ってゆく。

☆ チベットの仏教寺院には、4何年間修行している彼女の姉がいた。毎日、早朝僧院でお経を読んで、それから終日、仏画と格闘している。夜、ろうそくの灯でサガンの小説を読んで寝る日々。その姉も会った事のないチベットの高僧に姉と共に面会する。高僧から最後に何か質問はないかと問われ「どうしても好きになれない人がいます。その人の言動を受け入れることも許すことも、到底無理です。どうすればよいでしょう?」仏教に裏打ちされた高潔なる助言を待った。
高僧は、「どうしても好きになれない人ですが、「かわいそうな人」だと考えてみるのはどうでしょう。あなたを不愉快にさせる言動は、その人が持っているちょっとした病なのです。その人もその病を治せないがゆえに損をしているのです。あなたに好かれないという損をね。」高僧から頂いた旅に平安を祈願するブレスレットに自分の信念(フェイス)をこめて旅の間身に着けていた。この彼女の信念が、精神の背骨となり旅行記を秀逸なものにしているのだろう。

2010/8/1  「雨天炎天」 ギリシャ・トルコ辺境紀行 村上 春樹 新潮文庫  

☆  ギリシャの辺境アトス半島を旅する。アトス半島はギリシャ正教の聖地であり、人々は神に近づくためにこの地を訪れる。だからこの地はギリシャの国内にありながら、宗教的聖地としてギリシャ政府から完全な自治を認められている。
アトス半島には現在のところ20の修道院が存在し2000人の僧がほとんど自給自足で昔と寸分変わらず厳しい修行を積んでいる。この半島に外国人の異教徒が入るにはギリシャ外務省の特別ビザが必要となる。興味本位の旅で訪れることのできる場所ではないが、この3日間の訪問の記録は興味深い。

☆  トルコ辺境紀行は、ランどクルーザーでこの辺境をめぐる旅だが、無事生きて帰れたのは幸運なようなすさましい場所である。世界の旅にもほんとうに色々である。読む旅としては興味しんしんだが、自分でやるなら多少お気楽な出会いを楽しめる旅でいいかな。

2010/7/25  「遊牧夫婦」 近藤 雄生  ミシマ社

☆  大学を卒業し、学生時代に知り合った人と結婚しそのまま夫婦で海外へ放浪の旅に出る。
旅を旅で終わらすのではなく旅自体を日常生活にできないかなんてことも考えながら旅を続ける。
結局5年間世界を旅することとなるが、その最初の1年間の旅行記です。
旅を始めたのは、世界を旅していた先輩にあこがれて。その先輩は、ニカラグアの旅から帰ると別人のようになっており、ついには自殺してしまう。
旅をやめることにしたには、アフリカのある国をおんぼろバスで、延々と移動中に妻の荷物一切が入ったバックパックを取られてしまう。
機敏な対応で、何とか取り返すことができたが、「こんなしんどいことをいったい何時まで続けるんだろう」と疑問がわいた時旅もそろそろ終わりにしようと思う。
この感じ、何となく判る気がする。気ままな旅でも知らない土地ではやはり日々結構なエネルギーが必要だろうから。
オーストラリアの西の端で半年ほどイルカを見るボランティアガイドをし、バンを購入しそれで寝泊りしながら北上し、独立戦争で独立を勝ち取ったばかりの東ティモールに渡りインドネシアに滞在するところまでが1年間。

☆  軽い乗りの文章を意識した旅行記で、沢木耕太郎「深夜特急」などとはだいぶ雰囲気も違うけど、こんな軽い雰囲気の旅もいい。若いうちにもっと旅を満喫したかった。この著者のようにもういいと思える何かを感じるまで。

2010/7/17  「響きあう脳と身体」 甲野善紀 × 茂木健一郎  バジリコ

☆  脳科学の最前線を知る茂木さんと武術的身体運用を極める甲野さんの知的な対談。人間が持つ極限の可能性について、脳科学と身体運用の巨人が語り合う。
甲野さんは、敗戦で廃れてしまった日本古来の武術を研究し道場も開いている。

2010/7/10  {ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」 ジェイ・マキナニー 新潮文庫  

☆ 主人公のきみは、羨望のマンハッタンにあるニューヨーカーの校正係りという地上で最も困難な職のひとつに就く(村上春樹がそう書いている)。
美人モデルと結婚し、毎晩クラブに繰り出し、コカインを吸いまっくて朝まで踊りまくり、疲れた体を引きずって仕事にでかける。
こんな1980年代の大都会の若者の生活が、当時、話題となりアメリカでベストセラーになった小説。

☆  村上春樹の「THE SCRAP懐かしの1980年代」で、今アメリカで一番注目されている若手小説家として紹介されている。

2010/6/27  ”THE SCRAP" 懐かしの一九八○年代  村上 春樹 文芸春秋  

☆  出版社から送られてくる80年代のアメリカの雑誌、新聞を読んで面白そうな記事があるとそれを毎月1か2回記事にまとめ日本の雑誌に掲載する。楽しそうな仕事だけど、実際著者もこの仕事は楽しみにしてやったそうだ。

☆  記事は、特にニュースバリューのあるようなものじゃなくて、なんとなく味わいのあるコラムやゴシップものばかり。平日の夜などに少しずつ読むのが楽しい。アメリカの知らない記事でも読んで思わずニヤッツとするこの感じ。

2010/6/26  「下流志向」 ”学ばない子供たち 働かない若者たち” 内田 樹 講談社文庫  

☆  なぜ、日本の子供たちは勉強を、若者は仕事をしなくなったのか。誰もが目を背けたい事実を鮮やかに解き明かす。

☆  「現代日本の基本的ルールは、家族の中で(会社の中でも?)「誰がもっとも家産の形成に貢献しているか」は、「誰がもっとも不機嫌であるか」に基づいて測定される。
現代日本の多くの妻たちが夫に対して示している最大の奉仕は夫の存在それ自体に耐えていることなのです。彼の口臭や体臭に耐え、その食事や衣服の世話をし、その不満や屈託を受け入れ、要請があればセックスの相手をする。これは妻たちにとってすべて「不快」にカウントされます。これらの不快の代償として、妻たちは家産の50%について権利を主張できる。子供たちもまた子供なりに「おつとめ(勉強しろ、塾に行け、習いごとも)を立派に果たしたことを示そうとします。父や母がそうしているように充分に不機嫌であることによって」・・・だそうです。

☆  「現リスク社会を生き延びることができるのは「生きることを集団目標に掲げる、相互扶助的な集団に属する人々」だけです。ですから「リスク社会を生きる」というのは、巷間いわれているように、「自己決定し、その結果については一人で責任を取る」ということを原理として生きることではない。「自己決定し、その結果については一人で責任を取る」というのはリスク社会が弱者に強要する生き方(というよりは死に方)なのです。
逆に言えば、効果的にリスクヘッジしている人々はすべてこのような相互扶助的集団にメンバー登録されています。」
 同じ階層の人たちが群れたがるのは、こういう本能みたいな知恵が働くからだったんですね?

2010/6/20  「疲れすぎて眠れぬ夜のために」 内田 樹 角川文庫  

☆  朝日新聞の土曜日のBe欄の特集で著者を知る。哲学者で武道家であり、独自の視点で注目を集めている人だった。面白そうな人なのでさっそく文庫本を数冊購入し読む。
この人の話を読んでいると気持ちが楽になる。やっぱりそうだよね。とか、この風潮はおかしいと思ってたけどやはりそうなんだ。といった感じです。目から鱗、的ですね。

☆  だから、いくらでも次々読みたくなるのですが、ちゃんと著者のブログ(内田樹の研究室)もあって、毎日のように読んでは、あーっ なるほどなあ、などと頷いている。

2010/6/6  「アフリカの日々」 イサク・ディネーセン 河出書房新社  

☆ デンマークで生まれた彼女は、結婚後に夫婦で農場経営のため1914年29歳の時にケニアに渡航しコーヒー農園を始める。夫の放蕩から自らが農園代表者となるが46歳で農園経営に失敗し破産者として帰国する。この間のアフリカで生活者として暮らした日々の記録。

☆  ケニアの農園は海抜6000メートルの高地にあり、比類稀な美しさをもった所。ただ、高地すぎてコーヒー栽培にはむかない土地であった。アフリカでの過酷だった運命をデンマークに帰国後、冷静に見つめ組み立て直し語っている。アフリカの自然がすばらしく美しく本に溶け込んでしまいそうだ。

2010/5/23  「走ることについて語るときに僕の語ることと」 村上 春樹 文芸春秋庫  

☆ 村上春樹は、作家には珍しく健全な?日常生活を送っている。早寝早起きの規則正しい日常生活で、早朝に集中して本を書き、後は日々10キロ程度のランニングをし、あとは、読書をしたりして過ごす。毎年ボストンマラソンなどのフルマラソンに出場しそれなりのタイムも記録する。専業小説家として、長い人生を送るためには体力を維持する方法が必要だと考えた由縁。33歳で走り始める。

☆  そんな作家が、作家としてはユニークだと思うけど、結構真っ当な人生観を語ってる。毎日、自分に課した距離を走る、規則正しい生活の意味を語っている。集中力を保って長く一流の仕事を続けて行くことは、自分に課した規律が必要なのは、どんな人生にも必要なことだろう。

2010/5/16  「犠牲」サクリファイス わが息子・脳死の11日 柳田邦男 文春文庫  

☆ 神経症を患っていた柳田氏の次男洋二郎君が、25歳の夏に自死を図った。彼は対人恐怖症などで、中学生のときから12年間心を病んでいたが、両親ははじめの6年間気づかなかった。混んだ精神科に何年も親子で通院できたのもいづれ、息子が社会復帰する日がくるであろう希望があったから。しかし、悲しい結末となる。

☆  脳死の息子に付き添った11日間、息子に語りかけ、だんだんと息子の死を受け入れてゆけるようになる過程がある。生前、息子がせめて世の中の役に立ちたいと望み骨髄バンクに登録していた意思を生かしたいと脳死状態での骨髄提供を希望する。骨髄は間に合わず結局、腎臓提供を行い息子の意思を生かす。「脳死」は人の死か?議論があるが、死かかどうか科学的な判断だけではなく、僕たちにとっては、科学より患者へのいたわりのあるケアが、残された家族が死を受け入れる時間としてとても大切であることを知った。癒しの時間

2010/5/3   「生き残る判断 生き残れない行動」 アマガンダ・リプリー著 光文社  

☆ 災害を生き延びた人たちへのインタビューから、深刻な災害、テロに襲われたときの人の反応と静止を分ける判断と行動。人はパニックに襲われたとき考えることを止めてしまう。異様に礼儀正しくなり優先して逃げるべき人々が後回しになってしまい手遅れとなる。9.11では非常階段に流れ込んだ人々は、下の階の人々が降りるのをじっと待った。そして逃げ遅れた。

☆  世界貿易センタービルに入居するモルガン・スタンレー社の警備主任だったリック・レスコラはベトナム戦争帰りの兵士だった。こらからの戦争の形は、テロとの戦いだと見切っていたレスコラは、このビルがテロに非常に弱いことを見抜いていた。彼は、何年も掛けて3000人の社員に避難訓練を強要し、非常時に備えていた。モルガン・スタンレーのエリート社員に顧客との電話の前を離れさせることは、信念がなければできない。彼は反発をものともせずやり遂げていた。

9.11のその時、レスコラは、「あわてず席を離れないで」とのビル管理会社の愚かな館内放送を無視して社員全員に非常階段から退避するよう指示した。訓練どおり上の階の住人から非難をさせ社員も訓練どおり行動した。タワーが崩壊したときモルガン・スタンレー社の社員2,687人は無事非難していた。その後、彼は、妻に感謝の電話をして再び館内に捜索に入り、タワーは崩壊した。
モルガン・スタンレー最高の投資は、彼を警備主任に雇ったこと。

2010/4/29  「うずまき猫のみつけかた」   村上 春樹著  新潮文庫  

☆ 村上春樹がアメリカのケンブリッジに住んだ’93年から’95年にかけての滞在記。毎年出場しているボストン・マラソンやフルマラソンを走ることへの思い。新しいフルクスワーゲン・コラードが盗難にあった話。盗難保険の請求で保険会社の担当の女性が日本では考えられないデタレメで、請求にエネルギーを費やされされ、遂に交渉上手な日本人の奥さんにバトンタッチし何とか請求完了する。仕事柄僕はここが一番面白かったけど。飼い猫や近所で見かける猫の話、小旅行の話など、村上ファンに結構サービス精神旺盛に書いてくれてるのが伝わってくるエッセイだね。

2010/4/25  「1Q84」 Book3  村上 春樹著  新潮社  

☆ 月が二つある世界へ入り込んでしまった、青豆と天吾は、その世界での試練を乗り越えて、運命的な再会を成しとげ、月が一つの”たぶん”もと居た世界に帰ってくる。
命をかけて守るべき二人の大切なものを抱えて。
人が本来いるべき世界から知らぬ間に逸脱して、迷い込んだ世界でもがいていることに早く気づいて全力で本来の世界に抜け出さなくてはいけない。
村上さんの世界観がわりと判りやすく表現されているのかな。牛河が1巻2巻の謎解きをしてくれ用心棒のタマルがチャンドラーのハードボイルド小説の登場人物のように渋いくて、楽しませてくれる。

2010/3/14  「男たちへ」 塩野 七重 文春文庫  

☆ フツウの男をフツウでない男にするための54章の副題がついております。
いまさら男は変えられないけど、「ローマ人の物語」で有名なイタリア在住の著者の辛らつにしてユーモアのあるコメントは、なかなか面白い。なるほど女はこう考えてるの・・とか、笑いながら?読める。世の中の女がみんなイタリア男と張り合ってる塩野さんと同じ感性とは思えないけど大いに参考にもなりました。
浮気弁護論、男が上手に年をとるために、インテリ男はなぜセクシーでないか・・などなど

2010/3/7  「花散らしの雨」 みをつくし料理帖」 高田 郁  時代小説文庫  

☆ 時代小説はもともと好きなジャンルで、料理ネタの小説も好きなので、この両方がマッチしたこのシリーズは楽しい。神田の町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。店を任された女料理人の「澪」は、幼い頃に大阪で両親を失い天涯孤独の身だが、つる家の老主人や長屋の人たち、贔屓のお客さんに助けられ日々成長してゆく。次々出会う試練にも持ち前の根性と料理で試練を乗り越える。
昔人気のテレビドラマ「おしん」の料理人番的なところも。
巻末に小説の中に登場した料理のレシピ集も。

2010/正月2   「1Q84」Book1・Book2  村上 春樹著  新潮社  

☆ 著者は、地下鉄サリン事件の被害者のインタビュー集とオウム真理教の信者のインタビュー集を出版している。被害者と加害者側の教団に属していた人々両方から話を聞きだしていてサリンやオウム事件のことを深く追求しているけど、この「1Q84」の物語は何かオウムのような得体の知れない新興宗教を土台として展開していてその描写がリアルでもある。短編集に登場するTVピープルや踊る小人をイメージしたようなリトル・ピープルも登場するが、特に空想的とも感じさせないうちに天吾と青豆の物語に引き込まれてゆく。物語のテンポもよくて心地よい音楽を聴くように楽しめた。
Question Mark 84年は、現実だった1984年ではない。Book3の発売がお楽しみ。

2010/正月1   「ハリー・ポッターと死の秘法」上下巻(シリーズ第7巻) J. K. ローリング著 静山社  

☆ 古書店で買ったシリーズの最終巻を読む。シリーズ1巻からずっとそれなりに楽しみながら読んで来たので最終巻は、正月休みの楽しみに。
「不死鳥の騎士団」に護衛されてプリベット通りを飛び立ったハリーに、どこまでもついていくロンとハーマイオニー。一方、あれほど信頼していたダンブルドアには、思いがけない過去が。分霊箱探しのあてどない旅に、手掛かりはダンブルドアの遺品だけ。
6巻くらいから物語は少々哲学的になってきた。1巻では、11歳で登場したハリーも、もう17歳となり読者の成長も意識されているかも。

2009/12/19  「帆船時代のアメリカ」上下巻  堀 元美著 朝日ソノラマ   

☆ 造船士官だった著者が、アメリカにおける帆船の歴史を描いた作品。船と海に対する愛情が溢れている。
新大陸発見から南北戦争、対英戦争までの帆船。帆船から機帆船による捕鯨船時代、軍艦とともに発展する海外貿易、ペリーの日本来航、さらに鋼鉄船による太平洋時代へと船の歴史が描かれている。船の歴史とともに海軍に守られた通商船団とともに国威発揚し発展した先進国の発展の歴史も興味深い。
海軍力なくしては、ヨーロッパやアメリカの今日の発展はなかった現実がある。

2009/12/12   「羆撃ち 」 久保 俊治著  小学館   

☆ 久保さんは、1947年小樽に生まれ、大学卒業と同時にライフルで羆などの獲物を仕留めるプロ猟師となる。子供の頃から、日曜猟師の父親に連れられ、自然と猟に馴染んでいたのだ。同級生が就職活動に明け暮れている頃、父親に猟師になることを宣言する。父は、特に何も言わず、うらやましがっている風でもあったらしい。
この世代の日本に獲物と1対1で勝負するこのようなプロ猟師が居たこと、その生き様に感動しながら読んだ。道東の雪の残る山中に一人、羆を追って、山中でビバークしながら何週間も真剣勝負の追跡をする。仕留めた羆を現場で解体し、最初のベースキャンプまで、時には、1週間近くもかけて何往復もし持ち帰る。昔読んだシベリヤの猟師の物語「デルス・ウザーラ」を思い起こす。

☆  久保さんは、羆や鹿、雷鳥を売って年収80万円位で充分に生活していたそうだが、厳しい自然環境の中で猟に没頭する生活は充実し、豊かだと感動させるものがある。こちらは遊びで比較は適当でないが、冬の海のセイリングに満足を感じるのに通じるものがあるかも。28歳の時にプロハンターの本場、アメリカのハンティングガイド養成学校に東洋人として初めて入学、校長に1000人の卒業生で最高のハンターだと言わしめる成績で卒業。アメリカでハンターの経験もする。現在は、北海道標津町で牧場を営む。
久保さんの文章表現もたいしたもので、山の動物の気配や植物の息吹、雪山にビバークする時の冷たさや朝の感動が、読む者に伝わってくる。狩猟犬として自分の分身のように育て上げたアイヌ犬「フチ」との濃密な交流も読ませる。

2009/11/22   46年目の光「視力を取り戻した男の奇跡の人生」 ロバート・カーソン著 NTT出版  

☆ 3歳の時に薬品をかぶる事故で失明し、回復不能と言われていた男(メイ)が、46年目に最新医学(幹細胞移植)による手術により、視力を取り戻した。
さぞ、メイは感動と幸福に満ちた人生となったろうと思ったら、さにあらん。
 目の機能は完全に回復したはずなのに、人の顔が識別できない。ものの動きと色はほぼ完璧に見て取れるのに、人間の顔はなにも意味せず、奥行きを理解できず、物体の識別もすんなりできなかった。世界は、色とりどりの物体が常に飛び交っているコンピュータのスクリーンセイバーのようにしか見えなかった。(実際、長年の失明のあと視力を取りもどした人は、うつで自殺する人が多かった。) 何故か?
☆  カリフォルニア大学の若き女性科学者が、このなぞを解き明かす。
「動きと色」は、単純であり、世界に対する複雑な知識を必要としない。
「顔、奥行き、物体」は、複雑であり、微妙な違いが重要で、手がかりは頻繁に変化したり、事前の知識がないと理解できなかったりする。世界に対する複雑な知識を大量に必要とする。そうした知識は、幼いとき絶えず世界とふれあい、思考錯誤を続けなければならない。 しかし、オトナになってから再学習は難しい。それは、ニューロン(神経細胞)の性格による。ニューロンの結びつきにより、異なる知覚、感情、思考、記憶が生み出される。学習を行うための膨大なニューロンを持つのは赤ちゃんで、役割を与えら得るのを待っている。だが、大人には、学習に利用できる大量のニューロンがない。また、電気信号が入ってこなくなるとニューロンは役割を替えてしまう。
つまりもう学習用に大量のニューロンは大人には残されていない。役割を変えてしまっている。そこで、メイは手がかりを片っ端から記憶し、脳内のカタログを充実させていった。
電池のパッケージは、黒い2本の線に赤色、とか。男女の性別は、眉毛の手入れ具合、口紅の色ほお骨の角度の違いで学習。遠近感は、どうしようもなく、杖と盲導犬を利用。

2009/10/  「チャンドラー短編全集1 キラー・イン・ザ・レイン」 レイモンド・チャンドラー 早川書房

☆ 「チャンドラー短編集」の当代の翻訳者による新訳短編全集。全4巻の第1巻。1933年のデビュー作「ゆすり屋は撃たない」他
チャンドラーは、何回読んでもかっこいい。

2009/10/  アンダーグラウンド 村上 春樹著  講談社文庫

☆ 1995年3月20日の朝、東京の地下でほんとうに何が起こったのか。同年1月の阪神大震災につづいて日本中を震撼させたオウム真理教団による地下鉄サリン事件。村上春樹が、62人の関係者にインタビューを重ね、62名の62通りの思いや人生が鮮やかに伝わってくる。

2009/10/  「約束された場所で」 村上 春樹著 講談社文庫

☆ 地下鉄サリン事件の加害者側であるオウム真理教の信者や元信者へのインタビュー集。被害者へのインタビュー集である「アンダーグラウンド」の続編。彼らは、何故現世を捨てて、オウムに何を求めて入信したのか。サリン事件にかかわっていない一般信者へのインタビューを通じて、彼らの、現代社会のかかえる心の闇を探る。

2009/10/17  なぜ選ぶたびに後悔するのか「選択の自由」の落とし穴 バリー・シュワルツ

  ランダムハウス講談社

☆ 「選択の自由のある豊かな社会の中で、選択の結果に満足できないのはなぜか?ありとあらゆるオプションの中から、よくよく考えて選んだつもりなのに、何か物足りない。買っても買っても満足できない。わたしたちはいったい何が欲しかったのだろう?」満足できない要因は何か?満足すなわち幸福を獲得する方法。

1.               選ぶときを選ぶ

生活の中で向き合う選択肢のうち、何が本当に重要か見極めてそのに時間とエネルギーを注ぐ。オプションを制限すれば、選択の負担を軽くでき、満足を味わえる。

2.               つまむひとではなく、選ぶ人になる。

いい判断を下すには時間と注意力が必要だ。必要とされる時間と注意力を捻出するには、選ぶべき場面を選ぶしかない。

3.               満足を心がけ、最大化を控える。

まずまず、を受け入れられるようになれば、意志決定が単純になり、もっと自分の決断に満足できるようになる、満足できる機械を捉えてそれに感謝することだ。ただし、決断を迫られたとき、自分のしっかりした基準が必要だ。

4.               機会コストを機会コストとして考える。

決断したときに退けたオプションの魅力について考えるのはいいがほどでやめるようにするのが正解だ。選ばなかったオプションの魅力を考えると選んだオプションが物足りなくなる。

5.               決断は取消不能にする。

いちど決心したら取り消せないのだと覚悟していれば、いつも横目で出口を探すのではなく、いまの関係をよりよくすることにエネルギーを注ぎ込む事ができる。

6.               感謝の心を実践する。

選んだ品なり経験なりのいい面にもっと感謝して、悪い面にあまりがっかりしないように意識して努めることで、主観的な評価はかなり違ってくる。

毎日寝る前に感謝する事を5つ書き出す。

寝室の窓からさしこむ日光、友人の暖かい言葉、アジが絶妙にうまく焼けた、雑誌で役に立つ記事を見つけた・・。

7.               後悔しない。

後悔を恐れる余り判断が狂ったり、判断を避けるまでになれば、なるべく後悔しない方法を考えるのが正解だ。

8.               順応を見越す。

なんにしても手に入れた時の喜びは続かないとわが身に言い聞かせる。

9.               期待を管理する。

決断の結果に高い期待をかけすぎない。

10.           他人との比較はほどほどに

自分を幸せにすること、自分の生活に意味を与えるものに注意を向ける。

11.           制約を歓迎する術を学ぶ

毎日が、選択との戦いにならないようルールに従うと決め、節約した時間をルールを適用できない選択や決定について考える時間に振り向ける。

2009/7/11  「ハイブリット」 木野龍逸著 文春新書

☆ ハイブリット車プリウスの開発に挑んだ経緯とエンジニアたちの開発過程の物語。トヨタの車は好きでなかったが、この開発物語を読んで見方が変わった。プリウスは奇跡で誕生したような車だった。大企業トヨタのイメージとは違って、いい加減さがあったり、とんでもないような意思決定があったり意外にファジーな?感じがいい。トップの車社会の未来を見つめた車の開発をとの号令で、プロジェクトがスタートしたが、誰もが、ハイブリット車は「99%無理だ」と思っていた。しかし、誰も自分がプロジェクト中止のストップひも(工場で製造ラインを緊急に止めるためのひも)を引いた汚名だけは着たくない。開発期限をどんどん切られ、追い込まれながらもチームは、開発の成果を出してゆく。
☆  やっと試作車が完成し試走したが、動かない、やっと動いたらシャフトは折れる、バッテリーが爆発する、トラブルの嵐。社長が試乗に来たときには、車ごと冷やしてバッテリーの温度を下げ、爆発しないような対応。ハイブリット車プリウスの先進技術は、他のメーカーを周回遅れにする蓄積がある。最近、環境対策車のブームで開発を始めたメーカーには、とてもかなわないだろう。GMも環境車で再生すると謳っているが、今まで燃費無視の大型車を作ってきて、これから一朝一夕に開発できる技術ではないだろう。
で、僕も世界最先端の技術を体感したくてプリウスを注文した。

2009/7/4  象の消滅 」 村上 春樹著 (短編選集1980-1991) 新潮社   

☆ アメリカで、出版された村上作品初期の短編17編が、英語版と同じ作品構成で、日本版として出版されたもの。村上作品は、アメリカの雑誌「ニューヨーカー」で高く評価され、1990年に日本人として初めてニューヨーカーに作品が掲載された。この後、93年に大江健三郎氏、04年に小川洋子さんの短編作品が掲載されている。ニューヨーカーに掲載されることがどのくらいすごいかは、ニューヨーカーを根城に輝かしいキャリアを積んだ偉大な作家が、トルーマン・カポーティ、J.d.サリンジャー、アーウィン・ショー、ジョン・アップダイク・・と綺羅星のごとくいることだ。さらに93年には、ニューヨーカーに優先的に作品を掲載する契約を勧められ、結んでいる。

☆  「象の消滅」「ねじまき鳥と火曜日の女たち」「パン屋再襲撃」・・17の短編は、どれも日常を題材にした作品で、違和感無くスッと物語に入ってゆけるのだけど、何かしら不思議で奥深い世界を持っている。作家の持つ引き出しの多さとか感性の豊かさを感じさせられる。また、この短編集の装丁も中身を反映したようにモダンでいかにもニューヨーカーの趣味のようでもあり本棚に残しておきたくなる一冊。

2009/6/27  コロンブスそっくりそのまま航海記 」 ロバート・F・マークス著 朝日新聞出版   

☆ トレジャーハンティングの会社も経営する水中考古学者である著者の1962年の航海「Voyage of NINAU」が、何故か今年4月に翻訳されたもの。
コロンブス最初の1492年8月の航海は、3隻の船で行われた。「サンタマリア」「ピンタ」「ニーニャ」である。今回の「ニーニヤU世号」は、「ニーニャ」をそっくり複製したものだが、大きさは半分の40フィート程。1962年10月、このバランスの悪い復元船に9人が乗り込み、コロンブス最初の航海である、カナリヤ諸島からバハマ諸島まで航海した。

☆  コロンブスの時代の天文航法を使い、コロンブスと同じ食料を積み込み、服装も同じに。出発の日も同じにこだわったため、かなり準備不足でぶっつけ本番の航海となり、やっぱりトラブルの嵐に見舞われる。乗組員は、公募で集まったスペインの人々だが漁師はいても帆船の経験者はいない。食糧不足、水不足、嵐で沈没の危機、乗組員のトラブル、木造船が腐り始める、位置をロストする。トラブルのかなりの部分は、準備不足が招いたものだけど、最後にはアメリカのバハマ諸島になんとか到着し盛大な歓迎をうける。航海は、まず、出航してしまうことも大切なようだ。

2009/4/29  スプートニクの恋人 」 村上 春樹著 講談社文庫   

☆ 22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。
広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。ミュウとすみれと僕の不思議な恋の物語。

☆  とてもありえない不思議な物語だけど、物語にシンクロしながら引き込まれてゆく。特にギリシャの小島でのすみれとミュウそして僕が登場してのストーリーがいい。

2009/4/26  「意味がなかればスイングはない 」 村上 春樹著 文春文庫   

☆ 著者初の音楽エッセイ。シューベルトのピアノソナタからスタン・ゲッツ、ブルース・スプリングスティーン、Jポップのスガシカオまで11名の音楽シーンを村上春樹の愛情あふれる名文で語る。音楽を聴くように言葉をかみしめ一文一文楽しみながら読み進む。

☆  この文章には思わず頷く。
気持ちのよい日曜日の朝に、大きな真空管アンプ―なんていうものをあなたがたまたまお持ちであればということだが―があたたまるのを待ち(そのあいだに湯を沸かしてコーヒーでも作り)、それからおもむろにターンテーブルにブーランクのピアノ曲や歌曲のLPを載せる。こういうのはやはり、人生にとってのひとつの至福と言うべきだろう。・・・・・・たとえほんのささやかなものであれ、世界のどこかに必ずなくてはならない種類の至福であるはずだと、僕は考える。

2009/3/28  予想どうりに不合理 」 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
   ダン・アリエリー著  早川書房 

☆ 経済行動に大きく影響しているのにもかかわらず、これまで無視され誤解されてきた、ひとの不合理さを研究するのが、行動経済学というあたらしい分野である。
これまでの経済学の仮定では、人間の決断はすべての情報にもとづいた合理的なものであり、あらゆる品物やサービスの価値と、あらゆる決断によってもたらされるだろう幸せ(効用)の大きさについての正確な観念によってくだされる。こうした仮定のもとでは、誰もが収益を最大にしようとし、経験を最高のものにしようと努めると考える。

☆  一方、行動経済学の考え方では、人々が身近な環境から余計な影響を受けやすく、関係のない感情や浅はかな考えなどさまざまな形の不合理性にも影響されやすいと考える。
上等の靴下が必要だったのに、一足ぶんおまけされていた安物の靴下を買ってしまった。とか、同じ味でも雰囲気のいいカフェのコーヒーにより高いお金を払うとか。
こう認識することで、こうした失敗が改善の機会も与えてくれるということだ。わたしたちみんなが決断するときに規則正しい失敗をするのなら、新しい戦略なり道具なり方法なりを開発して、わたしたちがよりよい決断をし、全体的な幸福感を増せるようにできると考える。
ひとの理性を惑わす要素を理解するとき、ビジネスや投資、政治の世界でも、驚くほどのチャンスがもたらされるだろう。

2009/3/22  世界一高いワイン”ジェファーソンボトル”の酔えない事情 」 真贋をめぐる大騒動
    ベンジャミン・ウォレス著  早川書房 

☆  アメリカ第3代大統領、ジェファーソンが所有していたとされるビンテージワインが1985年にクリスティーズのオークションで3000万円で落札されるが、このボトルの信憑性に疑問の声があがる。このボトルの発見者が怪しいが証拠がない。誰も手を出せない。
他の出所が怪しい高価な希少ワインも、この人物が出品したものだった。しかし明確な証拠がなくワイン界で著名人であるこの人に誰も手を出せない。

☆  この人物を私的捜査網を駆使して調べ上げ、遂に2006年に告訴したのは、1992年アメリカズカップ優勝艇アメリカキューブのオーナー、ビル・コークだった。この人物からたくさんの高価なビンテージワインを購入していたため白黒つけないと許せなかったのだ。
ビンテージワインの世界を背景に、まるで探偵小説の様に楽しめるストーリーだった。
それにしてもアメリカズカップを戦うような人は、何をやっても徹底してる!
ビンテージワインが愛好者たちの手を離れ、社会的ステイタスの象徴のようになり、値段が高騰したため偽造ワインが多くなる背景があるようだ。

2009/3/14  生物と無生物の間 」 福岡 伸一著 講談社現代新書 

☆ プロローグで著者は学生時代に教師が問うた言葉を紹介する。
「人は、瞬時に、生物と無生物を見分けるけれど、それは生物の何を見ているのでしょうか。そもそも、生命とはなにか、皆さんは定義できますか?」その当時、答えは示されなかったが、二十数年後の今、分子生物学者の著者は答える。「生命とは何か?それは自己複製を行うシステムである。」そう、DNAの自己複製システム。

☆ ここからノーベル賞を獲得したワトソンとクリックのDNA2重ラセンの論文が紹介され、DNA発見にまつわるドラマが語られる。DNAについては、生物の時間に習ったような内容を判りやすく、エピソードも交えながら文系の読者にも興味を切らさないように工夫しながら解説されている。
後半は、「命は動的平衡にある流れである」ことについて。
「生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化してやまない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。」

2009/3/7  精神科医は腹のそこで何を考えているか 」 春日 武彦著 幻冬舎新書 

☆ 人の心の闇と向き合う精神科医とはどんな人たちなんだろう。と思ってこの本を読み出した。100人の精神科医が登場して100タイプの医師を語る。ほとんどの医師は、この著者の分身であるようだけど、結構本音で語ってくれているようで、医師の葛藤もリアルに伝わってくる。あえていただけない医師のタイプも登場させており参考になる。

☆ 48番目の医師のささやきは分かる気が:
「当たり前のことをして褒められるのは、さして嬉しくない。ただし、少なくとも彼が満足してくれたのだから、その点には医療者としての喜びを感じるべきなのだろう。そして、こうした日常診療の一齣に心が弾むか否かが、おそらく開業医に適正があるかどうかの試金石となるだろう。」

2009/2/22  巨龍・中国がアメリカを喰らう欧米を欺く「日本式繁栄システム」の再来 
   エーモン・フィングルトン著 早川書房

☆ 著者曰く、現在の日本の繁栄があるのは、先進国アメリカの先進の技術移転を受け、ものづくり立国として、開放されたアメリカ市場に輸出を行い、自国の市場は貿易障壁で巧妙にガードし貿易黒字を溜め込んだお陰である。この「儒教国家」特有のずるがしこい繁栄システムを模倣して、東アジアの儒教国家である韓国、台湾もまた、繁栄を手に入れた。
同じ「儒教国家」の仲間である中国が、今度は、このシステムを模倣し途方もない繁栄を手に入れつつある。アメリカのものづくりのアウトソーシングの基地国として、先進技術の移転を受けアメリカや世界の製造業の基地の立場を手に入れた。

☆ 先進国の技術を盗み安い労働力で、製造業を起こし輸出で国を潤わすアンフェアな国々。かなり過激に日本をはじめ東アジアの国を攻撃しているが、今、日本が中国に漠然と感じている近い将来には日本の製造業を盗られてしまう恐怖を、この著者はアメリカを初めとする西洋に警鐘を鳴らしているようである。こんなものの見方をされているのは、日本人として理解しておくべきことだろう。サブプライムローン問題でアメリカ経済が破綻しかけている今、不況の不満は、日本や東アジアにきそうだ。アメリカの雇用を守るため製造業を返せと。
自社の苦境を逃れるためシャープが日本生産に拘っていた液晶画面の製造をこの機会に中国に移すそうだが、日本もやがて中国に製造業を盗られたと叫ぶ日がくるのか。

2009/2/7  密謀」 藤沢 周平著  朝日新聞社

☆ 上杉謙信の義の心を受け継ぎ、戦国の世を駆け抜けた上杉家知謀の執政・直江兼続。豊臣秀吉を魅了し、徳川家康を畏怖させた傑物の生涯。上杉景勝の執政として上杉家を守る。秀吉の遺制を次々と破り、勢力を増大していった徳川家康は、石田三成の策に乗って天下分け目の”関が原の戦い”を起こすが、上杉景勝は、石田と呼応し家康挟み撃ちにすべきとの兼継の進言にも関わらず、自領会津を動かなかった。
徳川が天下を盗った後、家康に降伏した上杉は辛うじて家名を残すことができたが大きく領地を減らされた。

☆ 直江兼続の心中には、主家の命で進軍せず、後に家康が天下人となったのを認め降伏したことに複雑な思いを残す。上杉が兵をあげれば、家康は、関が原の戦いに全勢力を注げず、日和見的な勢力も家康に参戦せず、天下の趨勢は反対に向ったはずだ。しかし、主君上杉景勝に天下を獲る気概はなく、兵を収め家名を残すことを最優先した。傑出した名参謀も主君と天下の大きな流れには逆らえない。直江には、そこまで転がり込んでいた天下取りの大きな仕事をあと一歩で成し遂げれなかった不運の想いがあるのでは。

2009/1/31   最後の冒険家」 石川 直樹著  集英社 

☆ 熱気球の冒険家「神田道夫」は、熱気球での長距離世界記録、滞空時間世界記録を達成し、西ヒマラヤ最高峰ナンガパルバット越えに成功し2000年の植村直己冒険賞を受賞した。2004年に神田氏と著者の二人で行った太平洋横断は失敗し、太平洋に着水、運よくパナマ船籍のコンテナ船に救助される。2008年1月31日2回目の太平洋横断では、同乗者を見つけられず神田一人で太平洋に飛び立つが、2月1日午前3時の更新を最後に消息を絶ち、未だ発見されていない。
神田は、役場勤務の公務員で有給休暇を目一杯利用し勤め人の傍らで冒険を実行した。

☆ 本田勝一氏は、冒険の条件として「命の危険性」と「行為の主体性」の二つをあげているが、勤め人が仕事の傍らにスポンサーもなく自己資金で、手作りの熱気球に籐のバスケットを吊り太平洋を横断するのは、まさしく冒険だろう。バージングループの会長リチャード・ブランソンが1991年に熱気球で唯一太平洋横断に成功しているが、気密ゴンドラに乗りハイテクを駆使してたぶん資金もふんだんに使って行っており、神田の冒険とは全く趣が異なる。
自分のやりたい事に徹底的に執着し、諦めない、最後は自分一人になってもやり遂げる生き様は、神田のような冒険家の必須条件だろう。決して一緒に行動はしたくないタイプが。ヨットの世界にはこんなタイプの冒険野郎は一杯いそうだ。

2009/1/18    ネームドロッパー」上・下巻  ブライアン・フリーマントル著  新潮文庫 

☆ ネームドロッパーは、他人の個人情報を盗み出して本人になりすまし、ネット上から財産を騙し取ってしまう詐欺師のこと。イギリス人のジョーダンは、一仕事終えて、ニースにバカンス、そこで出会った美しい人妻アリスと楽しい休暇の一時を過ごす。それっきりの関係のはずだったが、帰国した彼を待っていたのは、「姦通罪」での訴状。ジョーダンと敵との知的な攻防戦がスリリングで途中で読むのを辞められない。ネット詐欺の全貌もわかり面白い。

☆ 著者は、東西冷戦の終結後、得意のスパイ小説から、ロシアマフィヤの活動など新しい分野でも次々書いているが、毎回、背景の取材が緻密で、ストーリーとその世界の様子を存分に共に楽しめる。

2009/1/17    前線 捜査官ガラーノ」  パトリシア・コーンウェル著  講談社文庫 

☆ シリーズ第2弾。捜査官ガラーノは、眉目秀麗なヒーローで、ブランド品で身を包んでいる。でも、そのブランド品は、古着屋から買ったもの。車はハマーに乗っていたが、ガソリン代の値上げでハーレーに買い換えたりもする。高級アパートに住むが警察の特権を利用して安く契約したり、適当に要領のいい庶民的なヒーローで親しみがある。

☆ 野心満々の非常なエリート検事にこき使われるが、その検事の窮地も救い、貸しを作ったりして事件を巧く解決してしまう。著者も「検視官」シリーズよりかなりリラックスして書いと思う警察小説。退屈なな週末を乗り来るのにぴったり。

2009/1/11   笑いと治癒力」  ノーマン・カズンズ著  岩波現代文庫 

☆ 著者は、アメリカ人のジャーナリストで米有数の書評・評論誌「サタデー・レビュー」編集長を30年務め、その後カリフォルニア大学大脳研究所教授となる。
専門医から全快するチャンスは、五百に一つと言われた難病の膠原病から、全快した著者の闘病体験記録。

☆ 医師に回復の見込みが薄いことを宣告されてから、積極的に自分の病気に関わり自分で何とかしなくてはと、強い意志で病気の回復に努める。お笑いの本やビデオで気持ちを明るく前向きにし、ビタミンCを摂ったりし奇跡的な全快をする。
著者の真意は、笑いやビタミンで難病が直ってしまうといったことではなく、人間の「生への意欲」。生あるかぎり、あらゆる力をふりしぼって価値ある人生を生きようとするその意欲を持つことが大切だと言う事だろう。
90年に亡くなる前の講演でも「重要なのは、我々が生きている間に何を行うかである。人生の最大の悲劇は死ではなく、我々が生きている間に、我々の内面のものが死に絶えることだ。」と語っている。

2008/12/30  インド厄介な経済大国」  エドワード・ルース著  日経BP出版センター 

☆ 経済新興国として話題になる事が多い最近のインドは、マンガ「島耕作」と一時人気のインドファンドで知るだけの経済発展著しい国であった。実際は、経済的にも文化的にも宗教でも大変厚みがあり、また極端な両面性のある一筋縄ではいかない国のようだ。経済では、優秀なIT産業や鉄鋼業、製薬業など非常に先進的な技術を持ち、世界の先端産業にソフトや製品を供給している。インドのIT産業が生み出すソフトウエアを締め出しては、アメリカの金融業やIT産業も成り立たなくなるほど、深く入りこんでいる。日本の自動車メーカーに鉄板を輸出するほど鉄鋼業の技術力もある。

☆ インドの産業が、IT産業を含めて高い技術力を持っているのは、法律で労働者の権利が強く保護されているため一度雇った従業員は、容易に解雇できないので、中国のように安い労働力を使って安物を大量に作り輸出する産業では成り立たない。そのため精鋭をそろえ、高い技術力のある産業で世界に進出していたのだ。インドも中国と一緒で安い労働力にたよる輸出産業の国と考えていたが、この点が中国と大きく異なるインドの産業の強みだ。

☆ また、インドは民主主義が尊重されている国で、激しい貧富の差やカースト制での差別、異なる宗教の民などの問題があるが、選挙では多数をしめる下位のカーストの人々や貧しいが多数を占めるモスリムの意見が選挙を通して反映されている。厄介な問題を山ほど抱える国であるが、これらを巧く克服して発展すれば、将来は中国に伍する大国になる可能性も秘めている国だ。

☆ しかし、農村部を中心に凄まじい貧困層があり、インドのような極貧が実質ゼロの日本はなんと恵まれた国だろう。日本で問題の格差社会なんかのレベルじゃなく、生きれるかどうかの格差がインドには現存する。

2008/12/7   人間交路」  長倉 洋海著  毎日新聞社 

☆ シルクロードを旅した写真家「長倉洋海」氏の写真紀行
古代文明が栄え、交易の道となったシルクロードの街々を訪ね、そこに暮らす人々や遺跡の写真でつづられている。ページをめくりながら写真の風景などを眺めていると過去の栄華は充分に想像できるが、何か寂しい景色でもある。老人の貌に刻まれた深いしわの笑顔は、穏やかで実直に生きてきた男の深みがあるし、子供の笑顔はあまりに純真でかわいい。しかし、栄華の過ぎ去った街で暮らすのは主に老人と子供たち。何千年も前の宴のあとの寂しさを感じてしまう。

☆ 長倉洋海氏は、「マスード 愛しの大地アフガン」などアフリカ、中東、アジアなどの紛争地域を撮った写真集で有名だが、この写真集はシルクロードの街々で暮らす人々を愛情をこめて撮った写真集となっている。

2008/12/6   こころ」  夏目 漱石著  角川書店 

☆ 大正三年作。「漱石後期三部作の終曲であるばかりでなく、漱石文学の絶頂をなす作品。誠実ゆえに自己否定の試みを、自殺にまで追い詰めなければならなかった漱石は、そこから「則天私去」という人生観にたどりつく。」と文庫本の解説。

☆ 若き日の先生は、寡婦と娘が暮らす家に下宿していたが、貧乏な友人Kを好意で連れてきて隣の部屋に住まわす。Kは次第に娘に恋心を抱き、先生に告白するが、先生は、その告白で自分も娘に好意を持っているのに気付く。
あわてた先生は、Kには自分の気持ちを伏せたまま、勉学の道半ばで軟弱な奴だと、K強い非難を浴びせる。Kは、自分を責め自分に絶望して自殺してしまう。やがて先生は娘と結婚し、この秘密を隠したまま結婚生活を送る。
そんなある日、私(主人公)は、先生と出会う。世間との関係を絶っていた先生も私には心を許すが、私に若き日の友達への裏切り行為を綴った遺書を残し自殺してしまう。

2008/11/30   臨床瑣談(りんしょうさだん)」 仲井 久夫著 みすず書房 

☆ 題名は、臨床経験で味わったちょっとした物語といった意味。著者の専門である精神科以外の医学や病院やその周辺のことについての想いが綴られれいる。著者は1934年生まれの方なので、最新の医療情報が描かれているわけではないが、その経験からの見識に共感することや考えさせられることが多かった。
先日、立花隆さんの「がん患者になって」と題する講演を聴いてからこういった話題も興味をもって読むようになった。

☆ 病名を告知された患者側ができる有効なことは何かに主眼がある。
「現代は、容赦なく病名を告知する時代である。告知の時代には、告知しただけの医師の覚悟も必要であり、また、告知された患者も茫然たる傍観者ではなく、積極的に何かを行いたいだろう。。患者もその家族、知己も、いつまでも手をつくねてドアの外で待つだけの存在では済むまい。」
自然回復力の大切さと有限性も視野にいれながら、医学の可能性と限界をくっきり描き出している。

2008/11/23   ぼくは猟師になった」 千松 信也著 リトルモア 

☆ 京都の山の麓に住んで猟師になった千松さん。
京都大学を卒業して、京都の山々でイノシシやシカを狙った「ワナ」猟が専門の猟師になってしまった千松さんの猟師生活の報告です。
京都の裏庭のような山々に沢山の動物が生息しており、猟の解禁時期になると獣道にワナをしかけ、毎日夕方にワナを調べて廻る。ワナにかかった獲物は、棍棒で頭をくらわし絶命させる。その場で血抜きと内臓を取り除く。家に持ち帰り、皮を剥いで解体する。
肉は、冷凍庫などに保管したり、ジャーキーやみぞれ煮、ハムなどに加工して保存食とする。日本では、シカやイノシシなどの獣肉の流通ルートがなく、販売は難しいので、ほとんど自家消費とするしかないそうだ。

☆ 猟師生活を続けるため、定時に早く終われる運送店で働きながらの生活だが、狩猟期に捕獲した肉を保存し、四季折々の山菜や川魚の捕獲、海にも出かけ素もぐりで、漁もする。質素だが、こんな風に豊かな生活が、京都の街外れに暮らしながら出来ることに驚きだ。グローバルな時代の奔流に惑わされず、僕らが忘れてしまっていた昔ながらの人間らしい生活だ。

2008/11/16   ニューヨークのとけない魔法」 岡田 光世著 文春文庫 

☆ ニューヨーカーは、お節介で、おしゃべりで、図々しいけど憎めない。
大都会ニューヨークで人と人の触れ合いを温かい目で見つめるエッセイ。
毎日の仕事に追われユーモアを忘れていた自分もニューヨークの魔法にかかったようにニューヨーカーの何気ない温かさとゆとりが伝わってくる。ニューヨークの洒落た画を眺めているような気持ちいい気分にしてくれるエッセイ集だ。

☆ 東京の大学を卒業後、ニューヨーク大学で勉強し新聞記者など経て作家になった人だが、ニューヨークでこんな生活をしている日本人もいるかと思うほど、都会の街に溶け込んで自然体でニューヨークの生活を楽しんでいる。
水面下で一生懸命水かきをして努力しているんだろうけど、そんなことちっとも感じさせない。

2008/11/2   プロ弁護士の思考術」 矢部 正秋著 PHP新書 

☆ ではアマ弁護士はどんなん?とタイトルを見て思う。
法律に忠実なだけで、現実の多様さに想像力を働かせることができず、柔軟な対応が出来ない人といったことになるようだ。そのポイントは、後述の七つの思考方法ができるか否か。これは、弁護士に限らず、ビジネスマンの仕事や決断も同じ。
1943年生まれ国際法務専門のインターナショナルな活躍をしている弁護士が、「物の考え方」を七つのコンセプトに集約して解き明かす。誰にでもわかりやすく書ける(説明できる)のもプロ弁護士の特技なんだろう。

☆ 七つの考え方の一つ一つは、そのとおり、と思うことばかりで特別なことはないように思うが、日常の思考の中で体系的に使いこなせることが、凡人でない所以なんだろう。さて、思考に必要な七つのコンセプトとは、
「具体的に考える(話の根拠をまず選りすぐる)」「オプション(選択肢)を発想する(考えもしなかったことを考える)」「直視する(疑うことで心を自由にする)」「共感する(他人の正義を認めつつ制する)」「マサカを取り込む(不運に対して合理的に備える)」「主体的に考える(考える力と戦う力を固く結ぶ)」「遠くを見る(今日の実りを未来の庭に植える)」

2008/10/13   さらば財務省」 -官僚すべてを敵にした男の告白- 高橋 洋一著 講談社 

☆ 小泉政権時代の郵政改革に竹中大臣のブレーンとして、財務省官僚から派遣される。経済財政諮問会議などで異能を発揮する。財務省では、東大法学部がエリートコースだが、著者は、東大数学科卒業後経済学科も卒業し、財務省の変人枠で入省したそうだ。入省後プリンストン大学に3年間留学し、著名な経済学者の薫陶を受ける。
郵政改革には、財政投融資や郵貯の難しい数学的な理解が必要だったが、この経歴が役に立ち、郵政民営化を達成する礎を作った。
予算の総本山である財務省が文系の東大法学部だけに牛耳られているのも変だな。

☆ 財務省では3人しかいない理数系の人で、財務省の先輩が制定したものでも自分がロジカルに解明した結果をそのまま公表して、財務省からずいぶん不興をかったようである。財務省などが隠す今話題の「埋蔵金」を見つけ出し暴露したのもこの人。
小泉政権のあと請われて安倍政権下でもブレーンとして働いていた。安倍政権では、公務員制度改革に手を着けたが、これが官僚の強い反発を招き、安倍政権は持たなくなった引き金のようだ。
著者は、安倍政権崩壊のあと、古巣の財務省に帰れず、大学で学者となる。

208/10/3  秘められた貌」   ロバート・B・パーカー著 早川書房 

☆ パラダイス署の署長ジェシイ・ストーンのシリーズ第6作
田舎町パラダイス署の署長だが、敏腕のジェシイが事件を推理し、解決してゆく。他のロバート・パーカーの作品の登場人物と同様に事件の展開と平行して、主人公が妻や恋人との関係を続けるのに悩み苦労し心理カウンセラーにかかったりしてもしている。愛しているが一緒に暮らせないとか、他の人にも惹かれてしまったり、そのあたりのドラマも面白い。そんな生き方もハードボイルドなのか、憧れもするのだ。
元妻のジェンが仕事関係の相手と関係を持つのを気にしながらもお互い忘れられず、縁りを戻して、寝たりもする。

☆ 事件も男女の愛憎が引き起こす。したたかな女に惚れた元警官が、その女を愛しているゆえに指図を断り切れず、遺産相続で女に利害反する人々を殺してしまい、最後までその女を庇い、罪を引っかぶって最後には、ジェシイに撃ち殺されてしまう。悲しい男の物語。

2008/10/2  異邦人」  パトリシア・コーンウェル著 講談社文庫 

☆ 検視官ケイ・スカーペッタシリーズも15作目では、独立して法医学コンサルタントとしてチャールストンに移っている。女子テニスのスタープレイヤーが休暇先のローマで惨殺された。遺体は酷く切り刻まれ、くり抜かれた眼窩には砂を詰められていた。イタリア政府から依頼を受けたスカーペッタは、法心理学者のベントンとともに事件の調査に乗り出す。最新の捜査技術を駆使し、遺体や犯行現場の残留物から犯人を追跡する。捜査に関わる人々の会話が絡み合い伏線となりながら捜査は進んでゆく。ハイテクを駆使した最先端の捜査手法が興味深い。

☆ 長年の仲間だった元刑事マリーノとの間に深刻な齟齬が生まれる。長年の秘書ローズは、末期がんに侵されていた。コンピュータの天才ルーシーも深刻な病魔を抱えている。ハッピーエンドかと思ったベントントとの関係もスムーズには行かない。この章では、スカーペッタを取り巻く人たちの環境や関係が劇的に変化してゆく。深刻な状況のなかで最後にたどり着く結末に驚かされる。

2008/10/1  殺意のコイン」  ロバート・B・パーカー著 早川書房 

☆ 私立探偵サニー・ランドルシリーズの6作目
殺人現場に必ず小銭を2、3枚残してゆく「物乞いキラー」と呼ばれる連続殺人犯が20年ぶりに犯行を再開した。サニーの父親の刑事が担当していた事件を今度は、娘の私立探偵サニーが協力して犯人に迫ってゆく。
サニーの直感から犯人に目星はついたが、今度の犯人は、20年前の犯人とは別人であった。サニーは自分を囮ににして犯人と対決してゆく。

☆ サニーは、分かれた恋人と縁りを戻そうとするが、お互いの関係に自信が持てず精神科医のカウンセリングを受けている。その先生は、探偵スペンサーシリーズのスペンサーの恋人スーザン。刑事もボストン市警や州警察の刑事など共通の人物が登場する。ロバート・パーカーの作品を読むときの楽しみの一つ。

2008/9/28  ドリームガール」  ロバート・B・パーカー著 早川書房 

☆ 私立探偵スペンサーシリーズの三十四作目
このシリーズも三十四作目とは、もう何十年もこのスペンサーシリーズを愛読していることになる。今回久々にエイプリル・カイルが登場した。彼女は、昔家を追われ、十代で売春を初め、何度か窮地に落ちた時、スペンサーに救われている。この時、高級娼館を経営するアトリーのところに預けられた。
成長して高級娼婦となったエイプリルは、独立し経営する娼館が暴漢に教われるようになり、また、スペンサーに助けを求めてきた。

☆ 売春は、スペンサーとスーザンの純愛の対極にあり、探偵のスペンサーとしては容認できないが避けて通れない問題。スペンサーは、エイプリルを救おうと最善の努力をするが、エイプリルは最後まで、心を開かない。男に依存する生活から抜け出すために男の手を借らざるえず、ジレンマに陥る。利用したつもりの男に利用され、自身の破滅へと進んでしまう。物悲しい結末。

2008/9/14  フロスト気質」上・下巻  R・D・ウイングフィールド著 創元推理文庫 

☆ フロスト警部シリーズ第4弾
仕事中毒でとびきり下品で下ネタ連発のフロスト警部が連発する難事件に四苦八苦しながらもみごと解決してゆく。今回は、自己保身の塊の上司、デントン警察署長の他に勝気な女性部長刑事が登場。てんこ盛りの事件に不眠不休で下ネタの連発をどんな深刻な場面でも忘れず立ち向かう、しかし心優しき警部。

☆ 4年に1冊くらいしか出版されないシリーズだけど、こんなに大笑いさせてくれ、読み出したら止まらない本はすごい。文庫本1冊1155円の値段もすごいけど。

2008/7/20  悩む力」 姜尚中 集英社新書
  

☆ 人生論  個人をめぐる現代の問題は、100年前の夏目漱石と社会学者マックス・ウエーバーが直面したものと同じと著者は言う。
100年前に漱石がぶち当たったのと同じ壁に我々もぶつかっている。
漱石は、明治維新の急激な変化にぶつかり、留学先のイギリスでも日本でも悩み考え抜いた。今、我々もグローバル化や情報化の猛烈な変化の壁にぶつかり、どう生きればいいか大いに悩んでいる。
著者は、こうした状況に漱石やウエーバーをヒントに悩みを手放すことなく、徹底的に悩みぬき、悩みの果てに突き抜けたら横着になってほしいと。
そんな新しい破壊力がないと日本の未来は明るくないそうです。
まず、自分の未来を明るくしたいものだが。

2008/7/12  「深夜特急」 第1巻から4巻まで。
 1巻 香港・マカオ 2巻 マレー半島・シンガポール 3巻 インド・ネパール 4巻 シルクロード   沢木耕太郎著  新潮文庫
 

☆ 昭和22年生まれの沢木耕太郎26歳の時の旅物語。若者の貧乏旅行は、もう当たり前というか、普通に行われているし、類似の多くの旅行記やテレビ番組でも多く放映されていて情報は一杯ある。しかし、どういった訳か今やルポライターの大家となっている著者の若き日のこの旅物語が書店で目に留まり、なにかしらの懐かしさのような気持ちも動いて手に取る。
しかし、心時めかせながら読み進むことはさすがになかったし、もうこんな好奇心一杯の貧乏旅行はできないだろうなと覚めた感覚で読んだが4巻までそれなりに面白く読めた。
貧乏旅行は、ある面では、「人の善意を食べながら」旅行が成り立っている。と著者が書いていたけど確かにそうかもしれない。これも若者(或いは旅人)の特権だろう。

☆ 旅は、第5巻トルコ・ギリシャ・地中海 第6巻南ヨーロッパ・ロンドンへと続いているが、今回は、4巻読んでなんとなく納得した感じで終了した。アジアのエネルギーを感じてもう充分といった感じ。
もし、青春時代に帰れるなら、旅をしたい。とメガヨット”シャラタン”のオーナーが言っていたのを思い出した。

2008/5/6  ロスチャイルド家と最高のワイン」 名門金融一族の権力、富、歴史 ヨアヒム・クルツ著
 日本経済新聞社
 

☆ 物語は、ロスチャイルド家の勃興から始まる。フランクフルトの貧しいユダヤ人横丁で生まれ起業したロスチャイルド家の始祖マイヤー・アムシェルから2代目で、事業を発展させた5人の息子達。1800年代にすでにこの息子達は、パリ、ナポリ、ウイーン、ロンドンに分家している。グローバル事業の先駆者達だ。ユダヤの迫害と金融帝国を築き上げていった手腕など興味深い。
後半が、ボルドー5大シャトーのうちロスチャイルド家が所有するラフィットとムートンのストーリーだ。
パリ分家の2代目ジェームスが死の間際1860年頃にシャート・ラフィットを手に入れる。
シャトー・ムートンは、2代目ロンドン分家ネイサンの3男ナサニエル・ロスチャイルドが1853年にパリの銀行家から手に入れる。

☆ クライマックスは、シャトー・ムートンを名だたるブランドワインとして成功させたフィリップ・ド・ロスチャイルドの物語。当初の格付けは、1855年パリ万博の時に制定された2級シャトーだったが、これに我慢できず、20年ご遂に1級シャトーとして認めさせた執念。ワイナリーを農家から一流のグローバルなビジネスに成長してゆく過程も描かれて面白い。現代のワイナリーはさらにグローバル企業により経営され、洗練され儲かるビジネスとして確立されてきている。ワインのロマンはももう飲む側のノスタルジーだ。

2008/4/27  不機嫌な職場〜なぜ社員同士協力できないのか」 河合 太介 (著), 高橋 克徳 (著), 永田 稔 (著) 講談社現代新書

☆ 職員の数を減らされ最小人数で仕事をせざる得ないと、自分の仕事に日々に追われる。廻りの職員も似たようなものだから、自分の事をまず片付けないと仕事が溜まる一方だ。そんな中で、お互い協力しろと言う方に無理があるように思う。
協力しあっている職場の例も紹介されているが、報告・連絡・相談を密にして、お互いの仕事の負担を軽減し、また、仕事への満足感も持てるようなシステムを作る必要があるようだ。仕事での満足感がなければ、モチベーションを持ち続けることも無理。

2008/4/20  「ミラノ 朝のバールで」 宮本 栄子著 文芸春秋社 

☆ 著者が小学生の頃、お姉さんから贈られた「イタリア」の写真集。その時から日記のようにその写真家(西川治)に手紙を書き続けた。大学生の時、偶然、その写真家の家の前を通りかかり、面談した。緊張で何を話したか憶えてないけどその後も手紙を書き続けた。家業の倒産で大学3年生のとき、退学し、新聞でたまたま見つけたイタリアでウエイトレス募集の広告に応募し、24歳のこのとき初めてイタリアに行く。

☆ イタリアのレストランで、イタリア人のカメリエレ(給仕人)と出会い、結婚。今は、彼の経営するレストランを手伝いながら2人の子供の母親である。日本での噂どおりのイタリア人の情熱といい加減さなどに翻弄されながら、イタリアを丸ごと愛するようになった著者が日記のように書き綴った54編のエッセイ。
何処の世界へ行っても、様々な出会いがあり、愛され、励まされ生きている。

2008/4/12   治療を超えて」 バイオテクノロジーと幸福の追求
  大統領生命倫理評議会報告書  青木書店
 

☆ アメリカ合衆国大統領の諮問委員会の報告書の日本語訳である。原文はサイトでも公表されている。バイオテクノロジーの発達により、今まで考える必要もなかった様々な倫理問題が発生してきていることは、日本のマスコミでも頻繁に見聞きするようになった。この翻訳版は、2005年10月出版なので、さすがにアメリカでは、かなり前からこの問題について大統領が諮問委員会を編成して取り組んでいたようだ。委員会のメンバーは、医者博士を初め哲学者、法学博士など多彩なアメリカの英知を集めている。

☆ 報告書の要旨は、つぎのとおり、前書きに当たる大統領宛送付書にまとめられている。
バイオテクノロジーは病を癒し、苦しみを和らげる上で、明るくまた刺激的な展望を開いてくれる。しかし、まさに身体と心の働きに変化を引き起こす力が印象的であるがゆえに、ある種の人たちにとって、同じテクノロジーの「二重使用」の可能性が魅力的に映るのです。その人たちとは、病気ではないが、より若く見えるように、よりよく活動できるように、より多く幸福を感じられるように、あるいはより「完全」になれるように、そうしたテクノロジーを使えたらと考えている人たちです。バイオテクノロジーのこうした応用は、これまで取り組まれたことのない、そして非常に困難な課題をすでにいくつか私達に突きつけ始めています。そうした「治療を超えた」使用可能性、そしてその科学的根拠およびそうした使用法が引き起こす可能性が高い倫理的、社会的問題が当報告書で探求されています。
「より望ましい子供」「優れたパフォーマンス」「不老の身体や幸せな魂」といった目標を追求しようとするときに、多種多様なバイオテクノロジーがどのような仕方で私達を助け、あるいは妨害し、目標達成の価値を高め、あるいは貶めてしまうのかとゆうこと。

2008/3  藤沢 周平著作シリーズ 新潮文庫 文春文庫
 「用心棒日月抄、孤剣、刺客(三部作)」「漆黒の闇の中で(彫師伊之助捕物覚え」「たそがれ清兵衛」「蝉しぐれ」「よろずや平四郎活人剣」etc

 ☆ 3月は、藤沢周平の時代劇シリーズを毎日のように読む。市井の人々の人情、切ない恋心、藩内の権力闘争に巻き込まれる主人公達の生き様、悪徳代官と悪徳商人を懲らしめる主役達。
読み出したら止まらない魅力あるドラマばかりです。
2008/2/23  やがて目覚めない朝が来る」 大島真寿美 筑摩書房 

☆ 人生で避けられない死を意味したタイトルだが、物語は淡々と進みよい音楽を聴いた後のような心地良さが残る。
母は離婚で生活に困り、娘の私と共に父方の祖母の家に同居することになる。
この祖母は、有名な女優だった人で、ある作家との不倫で子どもができた。その子どもが私のお父さんだが、今は、家をでて他の女性に養われているらしい。
この家にあつまる人たちは、みんな一癖あるけど愉快で、人情にあふれた人達。

☆ この人たちとの交流と父親との再会、そして死別。誰にも「やがて目覚めない朝が来る」けど、人情味あふれた人たちに取り囲まれた人生は捨てたものじゃない。

2008/2/11  バベットの晩餐会」 イサク・ディーネセン 筑摩書房 

☆ デンマークの女流作家が1950年にアメリカの雑誌で発表した作品。
以前、この映画を見てとても気に入っていた作品だったので、活字でも読んでみる。
フランスの革命を逃れてデンマークの寒村のある牧師の家に女中として住み着いたパリの天才女シェフ”バベット”。宝くじで当たった多額の賞金をすべて使って、パリから食材を調達し、12人の村人と休養でたまたま村に来ていたある将軍のために晩餐会を催す。

☆ バベットの創る芸術品の料理の数々は、質素な信仰生活を長年続け、すでに年老いて、気難しくなり不和の耐えない人たちに言い知れぬ幸福感をもたらし、長年のいさかいもどちらからともなく氷解させてしまう。
栄華を極めた将軍も寒村での信じられぬ晩餐会に至福の時を過ごす。
賞金をすべて使ったと聞いて驚く、牧師の娘2人にバベットは言う「芸術家の心には、自分に最善を尽くさせてほしい、その機会を与えてほしいという、世界中に向けて出される長い悲願の叫びがあるのだと」

2008/2/10  二度目の破滅」 「束縛」 「虚栄」 ロバート・B・パーカー 早川書房 

☆ 女探偵サニー・ランドルシリーズ3冊を週末に一気読み。
元警官だが元旦那がギャング、しかし、正義感が強くて、自分に妥協しない美人探偵。
警察にも顔が利くし、ギャングにも元旦那の縁で顔が利く。身に危険が及ぶ困難な調査が多いが、警察やギャングのコネクションを利用した安易な方法は選ばない。
自分の知恵と力で解決しようと一生懸命で危険も顧みないから、警官やギャングからも一目置かれ影に日向に応援される。もちろん僕ら読者が一番応援したくなる。

☆ 元旦那とあえて離婚したが、今も自分の気持ちに確信が持てず、カウンセリングを受けながらもギャングファミリーの元旦那とも縁が切れず交際中。
事件で出会う魅力的な男性にも引かれ、大人の恋も楽しむ。
週末にビールでも飲みながら楽しむのに打ってつけのシリーズ。

2008/2/9  冷蔵庫のうえの人生」 アリス・カイパース  文芸春秋 

☆ 変わったタイトルの本だが、この本の文章は、シングルマザーと15歳の娘の冷蔵庫の扉に張った連絡メモだけ。
産婦人科医として勤務する多忙の母と娘は、家ですれ違いばかり。冷蔵庫に張るメモが二人の大切なコミュニケーションの手段。最初は、遊びたい盛りの娘と心配性のお母さんの微笑ましいメッセージの応酬だったが、やがて、お母さんに乳癌が発見され、深刻な状態になって行く。ストレスを抱えた母と娘のメモが時に激しい言葉になったり、諦めや励ましになったり揺れ動く。

☆ 母と娘のメモだけの文章で、二人の心配や喜び、お互いに支えられる人の居る安心感がかえってストレートに伝わってくる。毎日ゆっくり会えなくても、何気ない伝言も文章にして日々、伝え合って、親子の絆は強まってゆく。
悲しい結末だけど家族で読みたい,こころ温まるいい本だった。

2008/1/6  捨てられるホワイトカラー―格差社会アメリカで仕事を探すということ」
 バーバラ・エーレンライク
東洋経済新聞社 

☆ アメリカ人の中年女性ジャーナリストが、ホワイトカラーの失業者を装って、就職活動をするルポ。
就活中に就職コンサルタントの高価な有料アドバイスやキリスト教系の就職セミナーに通うが、結構な出費と教会の説教は聞けても成果はなし。
事前の想像通り、1年間の就職活動でもなかなか仕事は見つからない。やっと見つかったのは、生命保険アフラックのセールスおばちゃんと化粧品のセールスくらいの現実。
格差社会のアメリカじゃなくても中年のおばちゃん(おじちゃんでも)の事務員を雇うよりは、若い女性(男性)を雇うのは、世の常でしょう。
女性にしろ男性にしろ管理職だった人くらい再就職が難しい職種はないのかも。

☆ 中年のホワイトカラーには厳しい現実を突きつけられるが、ここから特段の社会的な提言がされている訳ではない。
会社のデスクに2、3日この本を置いていたら上司がみんな気にしてチラチラとタイトルを見てました。

2007/12/24  「財務3表一体理解法」 国定克則 朝日新書

☆ ビジネス新書のベストセラーとなっていたのを新聞の書評欄で見ていたのが出張先の東京の書店で目につき購入。「六本木ヒルズの人気ビジネス講座が本にー」とサブタイトルにある。
経営コンサルタントの著者が、新しい視点で、財務三表「損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書」の繋がりを判りやすく解説してくれる。
経済になじみのない人でもかなり判りやすく解説されている。
どんな分野でもベストセラー作家の条件は、判りやすく人に説明できる能力だろう。

☆ 最近の経済新聞でよく目にしていた「税効果会計」「企業の合併と買収」「のれんの処理」などの会計的な処理の意味がやっと理解できた(気がした)。ハウツーものの本で満足できるようになったのは、年齢のせいかなとも思うが。

2007/12/15  「獄中記」 佐藤 優 岩波書店

☆ 血肉となった哲学をもつ人は、逆境で強い。強いだけでなくますますその強さを昇華させてゆく基礎体力をもっている。不条理なことに追い込まれたときは、その哲学が自分を律して生きていくうえで背骨のように必要不可欠なものだろう。
佐藤さんは、同志社大学神学部でキリスト教学の他、哲学を深く研究し身につけていたため、514日間に及ぶ独房での接見禁止にも自分を見失わず、独房で思索を続け、国家や人間を見つめ続けていられたように思う。
キリスト(神)と向かい合い対話し、自虐的にならず、切り捨てられた組織(外務省)を恨まず、すでに命を奪われた外交官であろうとも、最大の国益のためにどう自分の裁判を闘うか独房で突き詰めつづけて人間の真摯な姿が迫ってくる。

☆ それにしても著者の勉強量の豊富さに驚かされた。外務省の情報分析専門官であるが、昼夜を徹しての仕事とそのための読書量に伴う博識に驚嘆した。学生時代に勉強した基礎体力もあったればこそだろうが、1日に1500ページの専門書を読破し、その後ワープロで読書ノートをつける。毎日まともな睡眠時間なく自分を高める努力をするプロ意識に脱帽するばかり。キャリア外交官でも勉強不足の者も多く、その国の新聞の論説もまともに読めないくせに外交官として通用している人も多いらいが。
もちろん我等サラリーマンにとっても人を批判できるほど、睡眠時間を削って日夜、飲みこそすれ、必死で勉強している人は少ないだろうが。

2007/11/24  「国家の罠」外務省のラスプーチンと呼ばれて 佐藤 優 新潮文庫

☆ 鈴木宗男議員と著者の逮捕を「国策捜査」と著者は呼ぶ。国がその時代の求める風を感じとり、風に乗れず旧態依然の体質で活動する者たちを時代のけじめをつけるための生贄として断罪する。最初に有罪ありきの捜査のこと。そういえば、北方領土返還に全力を傾けた著者と比べると、かなり卑しく書かれているが「守屋次官」のゴルフ接待事件もそんな感じを受ける。単なる破廉恥なごっつあん犯かもしれないけど。
国(特捜)が全力で捜査し状況証拠を作り上げる力を翻すことは不可能のようだ。適当なところで、作られた罪を飲んで、執行猶予の判決を受け第二の人生をさっさと目指すのが頭のいい人達らしいが、著者は、五百日以上の独房生活に耐え有罪を拒否し続ける。何十年か後に公判記録が公表された時の自分の間違いの無い発言を世に問うために。
また、外務省の仕事ぶりがリアルに判る。著者の活躍したロシアの政治家の生々しい姿も興味深い。

☆ 接見禁止に土日も無い連夜の検事の取調べに耐え、検事とバトルを繰り広げる。検事と互いに人間同士の尊敬の念をも抱くようになる。検事の仕事ぶりも興味深い。
拘置所の食事が意外とうまそうなのも意外で、初日の夕食は、ご飯にチンジャオロースに野菜と小エビたっぷりのスープ、高菜だった。正月3ケ日は大層なご馳走でビックリ。我が家の正月の食事よりはかなりご馳走。人間大抵のことに慣れるというのが、僕が飯場生活で経験、学んだことだが、著者も4ヶ月もすると独房生活にすっかり慣れる。

☆ 新聞とテレビネタでニュースを判断するのは禁物。事件の背景は見えてない。著者におもねる記事やコメントばかり聞いているのは怖いことと改めて知らされた。
東京拘置所の独房の隣人は、30年前共産党革命を目指して大事件(浅間山荘?)を起こした死刑囚だった。その生き方を垣間見て、著者同様、感動させられた。

2007/11/11  「殺人にうってつけの日」 ブライアン・フリーマントル 新潮文庫

☆ フリーマントルは、スパイ、チャーリー・マフィンシリーズで大ファンになったので全部読んでるが、この作品は、これとは独立した物語。CIAを裏切ってKGBの手先となった男が、KGBのアメリカでの連絡役の男に妻も寝取られたうえにCIAに売られ、15年間服役。その間、二人に復讐することだけを考えていた。男はしかし、元妻を虐待していた大悪党とプロットはそう単純ではない。
出所後、復讐を開始し、まず、この二人の最愛の息子を交通事故子に見せかけひき殺す。次は、悲しみに沈む元妻の番だが、

☆ イギリスの諺に「どの家のクローゼットにも棺おけがある。」(それぞれ人に知らせられない事情があるといったことだろう)と言うのがあるそうだが、この作品でも元スパイ同士の復讐劇以上に二人の心理戦の描写や元KGBの男と妻の窮地に追い詰められるほど広がってゆく、二人のミゾの描写が秀逸で、読み出したらやめられなく一冊

2007/11/10  「慰安婦達の太平洋戦争」 秘められた女達の戦記 山田 盟子 光文社NF文庫
 

☆ あまりにムチャクチャで、辛い運命の女性達の物語に最後まで読む気にならなかった。平和と経済的安定の得られない時代は酷い。特に社会的な弱者ほど。
軍の中国・東南アジアへの進軍とともに、戦地の前線に慰安婦として駆り出された女性達とそれを組織的に行ってきた軍部。

☆ その数、数十万人、陸軍は、慰安婦、海軍では特要員と呼ばれ、その存在も、生死さえも闇の中に閉ざされた”軍機の女達の足跡”を現地取材を重ね追い続けた著者の執念の著作。

2007/10/28  「過去からの弔鐘」 ローレンス・ブロック  二見文庫
 

☆ 元刑事の探偵マット・スカダー・シリーズ
大都会ニューヨークの片隅で生きる人々の哀歓を鮮烈に描き出して人気のあるハードボイルド・ミステリ 1987年初版発行

☆ ビレッジのアパートで切り刻まれ殺された娘の過去を探して欲しいとその父親からの依頼を受けるが、犯人は、逮捕され独房で自殺していた。
犯人の父親である厳格な神父との難しい親子関係。性倒錯者の犯罪など重苦しくなるテーマだが、抑制された筆致で淡々と描かれている。
真犯人の神父を追い詰める探偵マット

2007/10/20  「グルメ探偵」 ピーター・キング バベル・プレス
 

☆ 著者は、フロリダ在住のシェフ。グルメ関係専門の探偵が活躍するシリーズ第1作。事件のスリルに美食が付きまとうおいしい本。シェフだけあって、事件と一緒においしそうなレシピも満載されている。
有名シェフから敵対するシェフのレシピを盗むことを依頼されたり、入手困難な食材を探し出したり。

☆ 有名な美食の会で、死人がでた。探偵は、得意の舌で事件に迫ってゆく。食欲の秋の夜長に読むのに最適な読書と美食の混ざった一冊。

2007/10/7   「捜査官ガラーノ」 パトリシア・コーンウェル 講談社文庫
 

☆ 検視官シリーズのコーンウェルの新しいシリーズ。
ブランドものの古着とロレックスを見にまとい、訳ありで購入したハマーとハーレー。非白人の美男子で、何故か謎の警察官ガラーノが主役の警察小説。

☆ 検視官シリーズのような全編に漲る緊張感がなく、久しぶりのこの著者のシリーズを楽しみに読んだ割にはちょっとガッカリ。DNA捜査が登場はするけど、重要な要素でもなく目新しい捜査方法でもない。キャリアの美人検事が、同僚の科学捜査研究所所長の差し金で、強盗にレイプされ殺されそうになったりするプロットは、検視官シリーズを思い起こす意表をつかれる展開だったが、そこまでの感じ。この著者にしては物足りない1冊でした。

2007/9/29  「スクール・デイズ」 ロバート・B・パーカー 早川書房
 

☆ 探偵スペンサーシリーズ33作目で、既に33年続いているシリーズ
相変わらずスペンサーは、タフでかっこいい。歳も重ねて無い様なので、読む側と違って何時までも昔のままのヒーローだ。

☆ ボストン郊外のハイスクールで起こった生徒2名による銃乱射事件。犯人の生徒は自白して事件は明白なはずだが、どこかしっくりしない。無実を信じる少年の祖母の依頼で調査を開始したスペンサーが、少年を取り巻く生々しい事実を暴いてゆく。
このシリーズでは、ホークも恋人のスーザンも居ないが、いつもの様に楽しめたシリーズ

2007/9/17  「経済財政戦記」 官邸主導 小泉から安部へ  清水 真人 日本経済新聞社   

☆ 小泉内閣で有名になった「骨太の方針」。
正確には、政府が毎年、6月下旬をメドに閣議決定する文書「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」のこと。
骨太の方針は、年末の予算編成や税制改革の出発点となる。
この方針は、小泉首相直属の「経済財政諮問会議」が主舞台となって取りまとめが進められて行く。この決定プロセスを、日本経済新聞政治記者の著者が検証して行く。

☆ 竹中経済産業相と彼が任命した少数精鋭の匿名チームと与謝野薫、中川秀直、谷垣財務相らの激しい確執の中、小泉首相のリーダーシップで、骨太の方針が決定定して行く。決定されるまでの紆余曲折の過程とデフレと格闘しながら政府、自民党、閣僚らとの利害衝突をまとめ上げてゆく小泉首相のリーダーシップは、迫力がある。
経済論争も詳しく検証されており、内容を理解するのは、僕には少々難しすぎるが、国の経済政策が決まってゆく過程をかなりリアルに追ってゆくことができ、決定に携わる人々の努力と執念は、感動的であった。
竹中大臣や与謝野薫氏ら政治家のテレビで見る印象とは、全く違った面を知ることが出来たのは収穫。テレビや新聞の経済面の読み方を一変させられた本。

2007/9/9  「<病>のスペクタクル」 生権力の政治学  美馬 達哉 人文書院   

☆ 「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の躍進に努めなければならない。(「健康増進法」第2条)」 
健康も日本国民の義務として法律に決め付けられると、魅力に欠けた言葉となる。
この「義務としての健康」という考え方に対して、違和感を持つ理由は、個人の自由が尊重されるべきだと考えれれているから。
健康と病という個人の身体のプライバシーの根幹に関わることに対して、国家が、法律を後ろ盾として介入するのは異常といえる。
では、なぜこんな奇妙な法律が成立したのか?
背景には、「義務としての健康」を正当化し、健康増進を規範とする言説が流行していることにある。

☆ 病へのせりあげられた恐怖と病への予防が反照しあう「病のスペクタクル」
健康と病を勝ち組と負け組みに重ね合わせる発想が、格差社会を積極的に肯定する思想と共鳴している。

2007/8/12  「パリスの審判」 ジョージ・M・ティバー 日経BP社   

☆ カリフォルニアワイン VS フランス・ワイン
ワイン愛好家には、常識らしい「1976年パリ試飲会」について、唯一人、試飲会を無視せず取材に参加した当時タイム誌のレポーターにより、詳細に書かれた世界初の書籍。
パリ試飲会事件が世界に与えた衝撃の大きさについて、事件の現場にいたジャーナリストの克明な記録は、小説以上に面白い。
超名門ドメーヌ、ロマネ・コンティのある共同経営者は、審査員の一人に「馬鹿なことをしてくれた。おかげで、ここまで手をかけたドメーヌ、ロマネ・コンティの偉大なぶどう畑が、数百年前の状態に戻った。」と嫌味をいった。

☆ カリフォルニアワインが、フランスの名だたるワインをブラインド試飲会で破ったドラマに劣らず、感動的なのが、カリフォルニアのワイン生産黎明期に試行錯誤しながらワイン生産に打ち込み、フランスのワインに勝るワインを生産・醸造した人々のサクセスストーリーやほろ苦い物語だ。読み進みながら登場するワインを何時か味わうことを夢想して何度も、銘柄をメモしながら読み進んだほど、魅力的なワイン物語。

☆ 各章の末尾に記載された訳者の「訳注」が気がきいていて面白い。この本の題名「パリスの審判」の訳注:ギリシャ神話の故事にある元祖「美人コンテスト」 結婚式に招待されなかった「争いの神」、エリスが結婚式場に「最も美しい女神へ」と書いた黄金のリンゴを投げ込んだ。三人の女神がそれは私のものとケンカになり、ゼウスは、トロイアの王子、パリスを「選考委員」に指名した。最初のヘラ(ゼウスの妻)は、「私を選んでくれたら、世界の支配者にしてあげます。」と言い寄り、2番目の軍神アテナは、・・・・・・。とうん蓄も楽しめる。

2007/7/14  「ハリー・ポッターと謎のプリンス上・下」 J.K.ローリング 静山社  

☆ 全世界で3億部売れたこのシリーズの第6巻。第1巻の「賢者の石」から全部読んでいるけど、面白いのでやめられない。
児童文学で有名なエンデの「ネバーエンディングストーリー」も面白かったが、同じ空想世界でもハリー・ポッターのシリーズは、魔法世界の話ではあるが、ストーリーが身近で子ども達にずっと親しみやすいだろう。ストーリーは、著者が、ロンドンに向う汽車の中で、突然閃いて、到着までに登場人物もすべて出来上がってしまったそうだ。
この巻では、宿敵ベルデモートとハリーポッター達との派手な戦いの場面はなく、ベルデモートの出生の秘密が明かされる。最終章第7巻へ期待が高まる章だ。

☆ 童心に帰って夢中になって読んでいる自分がいるのに気づいて楽しい。魔法学校のダンブルドア校長先生の死も気になる。

2007/6/30  「密航魚夫」 吉田亀三郎の生涯 小島敦夫 集英社  

☆ 明治末年、愛媛県保内町の海から日本人初の帆走船による太平洋自主横断の記録。保内町の腕のいい漁師吉田亀三郎が、1912年(明治45年)漁船(打瀬船)で新天地アメリカでの割のいい仕事を求めて密航する。
この漁船は、ジャンク式の帆船であるが、バウにジブのような帆があり、風上に切りあがることが出来たようである。保内の海では、舷側から網を流して風下に帆走し、漁を行っていた。
翌年1913年(大正2年)東行丸での2回目の密航、53フィート程度の船に26名もの密航希望者を乗せ、アメリカ西海岸上陸に成功している。
堀江謙一のヨットマーメイド号での太平洋横断は、1962年とずっと後のことである。

☆ 世界では、1898年退役船長のスローカムが、改造漁船スローカム号で単独世界1周を完結させている。

2007/6/3  ファンドーリンの捜査ファイル「リバイアサン号殺人事件」 ボリス・アクーニン 岩波書店  

☆ 「アキレス将軍暗殺事件」のような華々しさはないけど、ポアロのシリーズのような緻密な推理ゲームを楽しめた。
この事件でも、ドイツ留学から帰国途中の日本人が、登場し物語りに彩りを添えている。我々からすると日本人は、みんな武道の達人で、ニヤニヤしてて、毎日座禅を組んでいるように外人には見えるのかなと可笑しくなるが。

☆ パリで起こった一度に10人も殺害した凶悪犯人が、この船に乗っていた。この下手人を追うパリ警察の刑事も乗っていたが殺害されてしまう。果たして第2、第3の殺人が次々と船上で起こる。ファンドーリンの見事なお手並みと個性豊かな脇役の登場、意外な犯人と手の込んだストーリーに拍手。

2007/6/2  ファンドーリンの捜査ファイル「アキレス将軍暗殺事件」 ボリス・アクーニン 岩波書店  

☆著者は、ロシア人だが、日本語の「悪人」をもじったペンネーム。三島由紀夫をロシア語に翻訳して紹介した人。今やこの娯楽小説のシリーズでロシア一のベストセラー作家だが、日本通でこのシリーズにも個性の強い日本人が脇役として登場してそれなりに活躍している。この事件簿では、元「やくざ」のお兄さんが主人公のお供としてロシアで活躍する。
主人公ファンドーリンは20代の美青年で礼儀正しい外交官、ルパンやホームズの時代である19世紀を舞台に知性と冒険精神で大活躍をする。犯罪にノスタルジーを感じさせた古き善き時代の事件簿。ルパンとホームズの良いところを合わせたような素晴らしい出来栄えの小説で、流石、文豪の国ロシアの作家と感心してしまった。

☆ 赴任先の日本から数年ぶりにロシアに帰ってきた若き外交官ファンドーリンが、国民的英雄の「アキレス将軍」の死の謎に挑む。突然の病死と思われたが、背後には政治的陰謀が潜んでいた。権力闘争の闇に請け負った仕事は必ずやり遂げる白い目をした恐るべき殺し屋と「賭けには、一度も負けたことが無い強運の持ち主」ファンドーリンの戦い。殺し屋の生い立ちと高級コールガールとのはかないロマンスもいい。

2007/4/30   「ワインと外交」 西川 恵 新潮新書  

☆ 饗宴は、外交の重要な道具立てである。
饗宴とは、料理、それに組み合わせたワインやシャンパン、スピーチ、食卓での話題、食後の演出、儀礼やしきたりなどのプロトコル全体を意味している。
また、饗宴にはさまざまの政治的メッセージやシグナルが込められている。
この饗宴外交の各国での具体的なもてなしを解説。
会社レベルの接待飲食も国レベルの接待も基本的な目的は同じことではあるだろう。微妙な関係が、飲み会以後仲直りできたり、積極的な関係になったり。

☆ 饗宴外交では、食べきれない程の豪華なメニューのイメージがあったが、第二次大戦後は、首脳会談も日常的になり品数を減らした実質が尊ばれるようになった。ヘルシーと食の安全がキーワード。クリントン大統領時代にヒラリー夫人は、ホワイトハウスのフランス人料理長を解任して、野菜中心のカントリー料理を作るアメリカ人シェフを任命している。
国賓や首相をどのような待遇で迎えるかで昼食会や晩餐会のワインやシャンパンなどの飲み物の格付けも決まってくる。

☆ <99年オランダベアトリックス国王の天皇陛下歓迎晩餐会では、>
(料理)
 ロブスターのカクテル、キャビア添え、ライムソースで。
 鳩のコンソメ、鹿肉のロースト、タイムソースで。
 チコリとインゲンとアーモンド風味ポテトのフライ。
 チョコレートのムース。
(飲物)
 ビュリニー・モンラッシュ96年(ブルゴーニュの秀逸な白ワイン)。
 シャトー・ラ・ポアント88年(ボルドー地方ボムロール地区の赤ワイン、88年は「力強く濃厚で、トリュフの香りがする官能的な味わい」)。
 シャンパン・テタンジュ・ブリュット。

☆ <シラク大統領とシュレーダー独大統領のエリゼ宮での最後の饗宴>
フルー・ド・メ(海の幸の盛り合わせ)だけ!つまり、二人の親密度の証明。
ワインは、コルトン・シャルルマーニュ94年
(この白ワインが生産されたブルターニュ地方のコート・ドールの中程にあるアロース・コルトン村は、シャルルマーニュ大帝(カール大帝)が畑を所有していたことに由来する。大帝は、ドイツとフランスに跨る広大な領土を所有していた。つまり独仏共通のルーツを意味する)

2007/4/8   「女性の品格」 坂東 眞理子 PHP新書  

☆ 著者は、総理府から埼玉県副知事、オーストラリア総領事を歴任された人。現在は、昭和女子大学の副学長。
家人が読んでいたので、ついでに読んでみる。装いから生き方まで「強く、優しく、美しい女性になるための66の法則」として書かれている。
例えば、上品な女性は、「礼状が書ける」「型どおりの挨拶ができる」「恋はすぐ打ち明けない」「品格ある男性を育てる」などなど。

☆ 法則は、男女を問わず必要であろうもっともなことばかりだが、当たり前のことが、普通に出来ないのが我々凡人の所以でしょ。
こんな品格のある女性が職場の周りにいてくれると、人間関係は円滑で、仕事も順調にすすみ素晴らしいと思うが、プライベイトでは、こんな人たちばかりだと男も女もお互い退屈かも。と思うのは凡人の僻みかもしれないが。

2007/3/30   「ワインの帝王 ロバート・パーカー」 エリン・マッコイ 白水社  

☆ ワインを100点満点で評価する方法で、伝統と格式のワインの世界に革命を起こしたパーカーの評伝。
昨年ビデオで見たこのパーカー批判の映画「モンドビィーノ」が、ワインビジネスの世界をうまく描いて興味深かったので、この本が出版されすぐ購読。ワインの世界は、経済のグローバリゼーションそのものだ。アメリカが世界を牛耳っている。伝統の味とか地味とか生産者の愛着とかでは生き残れない時代なのだ。経済全般がそんな風で、特別な限られた商品と思っていたワインの世界でこそ、生産者や流通業者達は、激しいグローバリゼーションの洗礼を受けていたことが面白い。先日読んだ投資ファンドの世界にも共通している。

☆ 世界中でカリスマの影響力を持つパーカーの点数評価で、ワインの価格と販売量が劇的に変わる。既存の特権者たちの牙城を崩したパーカーの功績は大きいが、あまりに大きな影響力のために生産者と消費者の関係は、何か不安定で歪になったかも。点数の高いワインを購入できることがステータスになっている。ワインの楽しみは何?
天才の味覚をもつパーカーはすごい人ではある。ワイン好きな人には、めちゃ面白い1冊。
「パーカーのワインサイト」http://www.eRobertParker.com/

2007/3/21   「会社法入門」 神田秀樹 岩波新書  

☆ 東大の先生が解説した2006年5月1日に施行された会社法の入門書。企業買収ドラマのハゲタカを読んで、これからは、経済ニュースを理解する上で会社法の基礎知識は必須と感じ読む。
会社法は、上場企業から中小企業まで300万社以上ある日本の会社の基本法な訳だから。
会社法が改正されたのは、「敵対的買収」や「投資ファンド」など会社を取り巻く環境の激変で国も経済環境の制度的インフラ整備として改正が必要と考えたこと。二番目はIT革命で会社がグローバル化し、国を跨いだ合併や買収の時代となり、従来の会社法では対応できなくなったため。

☆ 日本の企業に「グローバルになった環境に対応し、競争力を高め、IT革命へ対応」できることがその基本精神のようだ。
著者がまとめで「変わる会社法の下で企業が発展してゆくためには、経営者には強い倫理が求められる。働く人を大切にする姿勢がかかせない。単純な人件費抑制で収益が上がったなどというのでは、会社法の理念ではない。」は考えさせられる言葉。

2007/3/18
  「ハゲタカ」上・下刊  真山 仁 講談社文庫  

☆ NHKの同名のドラマの原作。著者は読売新聞記者を経たフリーライター。ドラマも面白かったがこの原作の方がずいぶん面白い。
ハゲタカとマスコミに呼ばれる「外資ファンド」だが、ライブドアのニッポン放送株買占め事件や村上ファンドの派手な活動でファンドは一躍悪名を馳せた。
しかし、外資に限らずファンドは、死肉をむさぼる「ハゲタカ」とひとくくりに片付けられない。

☆ 債務超過で、身動きできなくなった企業を買い、再生させるファンドは経済再生に時代が求めたものだと思う。経営者や株主、従業員が恨むべきは、そんな状態までに企業を追い込んだ無能な経営者であって、買い叩くファンドではない。ちなみにハゲタカと言う鷹は存在しない。ハゲワシ類・コンドル類の俗称です。
買収する側とされる側と戦いにそれぞれの側の人間ドラマもうまく描かれていて久々に面白い本であった。外資ファンドの日本法人社長鷲津は、有能でクールな中にも人間味を見せファンになった。日光ホテルを再建した女社長と最後まで結ばれなかったのが残念。

2007/3/11   「徴税権力」 国税庁の研究 落合 博実 文芸春秋   

☆ 税は国家財政を支える柱であるが、それを支える巨大な国税組織と権力についての珍しいレポートだろう。職員数5万6千人、国税庁の下に11の国税局とその下に524の税務署を配置している。その権力は、よど号乗っ取り事件で人質になった会社経営者が、人質になったときより、国税の査察の方がよっぽど怖かったと言ったエピソードもある位だ。

☆ 93年に自民党のドンだった金丸信を脱税で摘発したときの攻防戦は、凄い。他にも有名芸能人の集中摘発やテレビ局の脱税調査など面白いエピソードにことかかない。著者は、元朝日新聞の記者で、国税担当が長かった人だけに、国税職員などにもニュースソースがあるようで、リアルな読み物であった。
国税と検察が協力して捜査すれば、向うところ敵無しかもしれない。ここまで国税に権力があるのはすごい。
国税が権力を発揮して怖がられているのは、5万余の職員が法に忠実に調査・査察を徹底して行う職務意識の高さから来ているようだ。勤勉で忠実な職員が、組織だって活動し最強の徴税マシンと化している。
大企業に比べ中小企業に厳しく、創価学会は税の聖域となっている現実もある。やはり、弱い立場の者にはより強い。

2007/2/25   「私の夫はマサイ戦士」 永松 真紀  新潮社   

☆ 福岡の短大卒業のお嬢さんが、マサイ族戦士の第二夫人として結婚
本のタイトルにえっ!と思いつい購入したけど、第二夫人になった理由と結婚後の二人のコミニュケーションの様子など新鮮で面白く読めた。
世界中、どんな辺境の地に行っても逞しい日本人が居るって話はよく聞くけどマサイ族の奥さんになる度胸にはちょつとびっくり。
夫の推定年齢30歳、7頭のライオンを仕留めたホンモノの戦士。電気もシャワーもトイレも無いマサイの村での新婚生活。

☆ 当然、二人に文化や習慣のギャップがあるんだけど、マサイの夫の相手の立場や文化を尊重する姿勢に助けられ、夫婦生活を営んでゆく。
新婦も劇的な変化の中にあるマサイの人々と文明社会の架け橋になれることを自分の重要な役割と心得て結婚。
ただ、理解できても急に埋めきれないギャップも多々ある。マサイの男は、一夫多妻制だけどセックスがすごく淡白で、前戯もなく挿入するだけですぐ果ててしまい女性のことなど全く関心がない。裏ビデオを夫に見せてセックスに目覚めさせようとするのだが・・。
花嫁(著者)のHPも面白いですよ。 http://www.masailand.com/

2007/2/12   「ヤンキースの広報」 広岡 勲  日本経済新聞社   

☆ 松井がヤンキースに行くとき、自分の広報として、著者の広岡を連れてゆくのを契約条件とした。広岡はハワイの大学を出てアメリカの大学院でジャーナリズムを学び日本の新聞社で松井番をしていた。

☆ 松井が、負けた試合でも試合後必ずインタビューしている理由がわかった。日本から大挙してやって来ているマスコミが、ヤンキースのロッカールームまで松井を追いかけない代わりに毎日、共同会見をすることにしたのだ。
また、松井主催の夕食会をアメリカ人の記者連中を呼んで開催したが、そんなことは前代未聞で、記者連中に大感激されたとか。
どんな仕事でも気配りが大切。

2007/2/4  「まっとうな経済学」 ティム・ハーフォード ランダムハウス講談社   

☆ この本に出てくるのは、為替や景気の循環の話ではなく、中古車市場の謎解きや、スーパーで無駄遣いをしないための知恵である。
読み終わる頃には、みなさんが今よりもっと聡明な消費者になって、いまよりもっと聡明な有権者になって、政治家が吹聴する話の裏側にある真実を見極められるようになっていることを願っている・・「はじめに」より抜粋

☆ 大都会のコーヒーの値段が高いのは、地代が高いから・・ではない。
客が利便性の高い(場所の)コーヒーに最高限度額を支払おうとするから地代が高くなるのであってその逆ではない。
運動靴のナイキが東南アジアの貧しい子供たちを雇って労働させる「搾取工場」は酷い話だが、子供たちには、その工場以上に条件のよい金儲けの手段はない。ナイキの不買運動をしても問題解決にはならない。
経済学は、ものごとの根底にある真実を明らかにする。

2007/1/7  「神の手」 パトリシア コーンウェル 講談社文庫   

☆ 検死官スカーペッタがリッチモンド市で検屍局長をしてた頃とがらりと環境が変わり、現在は、スパーレディーのルーシーが主宰する私的捜査機関で働く。
最近の作品は、毎回、何かしら雰囲気が変わるというか、趣向が違ううので、がっかりすることもある。今回の作品は、読者の興味次第か。
今回は、殺人犯の心理描写がメインテーマとして描かれている。その分、今までのスカーペッタシリーズのハラハラドキドキを期待して読むとストレスが溜まる。分厚い2冊を我慢して読み通した最後の最後に納得させられるのだが。
異常犯罪者の心理分析に興味があればかなり面白い。
ルーシーやマリーノなどの登場人物も個人生活や仕事の上でかなり、屈曲した心理問題を抱えるようになってきており、こっちの方も重たいが、興味のある読者には、いいのかも。最近は、とんでもない殺人事件が増えていることだし。

☆ ジムで自転車をこぎながら、毎分120の心拍数下で本を読むには、止められない魅力のあるこのシリーズがよかろうと読むことにしたが、今回の作品では、無理があった。夜、落ち着いてじっくりと読む方がよい。

2006/12/29  「姜尚中の政治学入門」 姜 尚中 集英社新書   

☆ 暴走する超大国アメリカと心中するのか、アジアの隣人たちとの共生を選ぶのか。

☆ アメリカ、暴力、主権、憲法、戦後、民主主義、歴史認識、東北アジアという七つのキーワードを取り上げて話を進めながら、現代の日本とその関係する世界を読み解く。

2006/12/24  「ローマの街角から」 塩野 七生 新潮社   

☆ イタリアのローマに腰を据えて、「ローマ人の物語」を執筆中の筆者が、日本の雑誌のために執筆したコラム集。
ローマに住んで外から見ていると日本はとてもかわいそうな国に思えてくるそうだ。
もちろんヨーロッパの一国ではない。かといって、内実からはアジアの一国でもない。同程度の国力をもち、相互に平等な立場で協力していける国々を近くにもっていない日本。
そんな日本に住む友人に書き送る思い。

☆ ローマ史をはじめ歴史や哲学を勉強することは、自分の生きてゆく時を見つめ決断をせまられたときの大きな指針あるいは判断材料となること。これからのグローバルな世の中で生きてゆく子供たちには、どの国の誰との議論にも耐えうる哲学的な素養を身につける教育が必要だ。

2006/11/26  「危険学のすすめ」 ―ドアプロジェクトに学ぶ―畑村洋太郎 講談社   

☆ 2004年3月六本木ヒルズの大型回転ドアに6歳の男の子が挟まれ死亡した事故の後、「事故の真の究明を行う」という趣旨のもとに発足したドアプロジェクトの報告。検察や行政の原因究明では、断罪のための犯人探しが目的となり、関係者は自分や周りのものに責任を負わされるのを恐れ、真実に口をつぐむ。
このドアプロジェクトは、賛同者が手弁当で勝手連的に集まった、個人プロジェクト。ドア、車、エレベーター、センサーなどのメーカーや、JR、小児科医師、学者(著者は東京大学の工学科教授で畑村工学研究所主催)など、ドアの事故に興味を持った人々が参加している。

☆ 大型回転ドアは、ヨーロッパから導入され、日本で独自の発展を遂げてゆく。巨大化するビルの施主の嗜好に合わせ、より豪華になる過程で大型化し、重量も飛躍的に重くなる。輸入時0.7トンのドアが2.7トンにまで大型化した質量のある回転ドアが回り、そこに挟まれればもう、殺人マシンと化す。
本来、「衝突力軽減のためには軽量化しなければならない」という重要な知識が忘れ去られていた。開発者が「技術の来歴」調査の必要性を感じていなかった。軽量化をせず、センサーを付加してその場しのぎの対応をしてきた。
三つの銀行が合併したみずほ銀行のシステムトラブルなども、付加設計によるその場しのぎの失敗の代表例。

☆ ヨットの開発においても、現在のデザインや技術に達するために数多くの事故を経験しており、何をどうすることで問題点を解決してきたのかは、技術の来歴をみることが大切だろう。その場しのぎの付加設計では、いつか必ず事故を起こす。

☆ このプロジェクトのように主体的に行動することを望んでいるタイプの人の活動が、社会や組織を変えて行く力になるのだろう。
一例では、このプロジェクトのメンバーだった子供の事故専門の小児科医は「事故サーベイランスプロジェクト」を立ち上げ、他のメンバーは「子供のための危険学」を立ち上げベネッセのホームページから発信されている。

2006/10/29  「未来を変える80人」 僕らが出会った社会企業家(ソーシャルアントレプレナー) 
   シルバン・ダニエル マチュー・ルルー著  日経BP社

☆ 1980年フランス生まれのダニエルと77年生まれのルルーの二人が、14ヶ月をかけ38カ国を訪れ、113団体を取材した。
「ただのお金儲けより、ずっと楽しい仕事がここにある!社会貢献しながら。しっかり稼ぐ現代のヒーロー、ヒロインたちに出会う素晴らしい旅。」

☆ 子供たちに<命ある地球>を残すためには、もっと環境を大切にし、皆が共存してゆく方法を早急に考えなくてはならない。そんな思いを胸に、社会を変えることを目指し、行動を起こしている人物に会うために世界中を巡る。
この旅で取材した素敵な人たちの紹介。
今年ノーベル平和賞を受賞した貧者のための銀行創業者ムハマド・ユヌスやインドで貧しい人々も経済状態にあった治療費で治療を受けられるファーストフード式白内障治療のアラビンド眼科病院創設者ゴビンダワ・ベンカタワミなども2004年にすでに取材済み。日本からも1名紹介されている。

☆ 既成概念(例えば、社会貢献と企業精神は両立しない)を壊し、未来のための解決策を実践する企業家達の会社が、こんなにすばらしい業績をあげているなんてこの本を読むまで想像もしなかった。
世界中を旅しながら、未来を変える新しい企業家に会ってゆくなんて!こんな夢のある素敵な本を子供たちの課題図書にすれば、日本でも夢をもった素敵な少年たちが育ってくれるだろうに。
詳しいことは、著者のサイト http://www.80hommes.com/

2006/10/15  「シャルビーク婦人の肖像」 ジェフリー・フォード ランダムハウス講談社

☆ ファンタジー小説でありミステリー小説。ほんとうの話かほら話かどちらともとれる変わった物語。

☆ 19世紀末のニューヨークが舞台。肖像画家のビアンボが受けた仕事は、シャルビーク婦人の肖像画製作。ただし、屏風の向こうで婦人が語る過去の話とその声だけで、姿、形を想像しなければならない、という奇妙な条件付だった。
婦人の荒唐無稽な話を聞くようになってからビアンボの廻りでも不思議なことが次々起こるようになる。

2006/10/9  「流星ワゴン」 重松 清 講談社文庫

☆ 著者は、2001年「ビタミンF」で直木賞受賞作家
この物語の「流星ワゴン」は、スーパージェッターに登場した流星号を思い出させる。登場するのは、ホンダのミニバン、オデッセイだけど。
 38歳の主人公永田の家族は、同い年の妻と中学受験を控えた一人息子で、東京の郊外マンションで暮らしている。平穏な生活を送っていたが、子供は、少し前から荒れ始め、妻は、得たいの知れない外出(結局テレクラで出会う男と手当たり次第寝ていたのが判る。)が増えてくる。その矢先に自分は、リストラにひっかかりまさかの失業。こわれた人生の歯車をどうすることもできず、永田の頭に「死」がよぎったりする。

☆ この永田が、ふとしたことで流星ワゴンに乗せられ、過去にタイムスリップする。(このあたりは、短い説明は難しい)永田は、過去の大切だったところに連れて行ったもらい、歯車が壊れる以前の大切な人たちと大切なひと時を共にする。そして、未来を変えることはできないけど一粒の希望をもって、もとの時間に帰って行く。
荒唐無稽な話だけど、この物語のように家族を持ってはじめて共感できる物語もあるんだなと、共感。

2006/10/7  「ニカラグアを歩く」 藤井 満 日本図書刊行会

☆ 著者は、88年に大学を休学してニカラグアをはじめ中南米を訪ねた。特段の思想があって中南米を選んだわけではなく、戦争も体験してみたかったそうだ。
この国は、90年にサンディニスタが大統領選挙に負け、親米派のチャロモ政権が誕生したが、この国の変貌を見たくなり96年に再訪した。
その時の旅行記。

☆ 革命がもたらした民主主義への希望と、経済の悪化による挫折感が、一人ひとりの心の中で渦巻いているのを先々で見聞する。中南米に限らないだろうが、親米派でないとアメリカに政権を維持させてもらえない現実もあるようだ。

2006/10/1  「無印結婚物語」 群 ようこ 角川書店

☆ 作者の群ようこさんは、独身女性のようであるが、結婚後のいろいろな夫婦生活を創作?した物語が12話。それぞれ笑える話で、たわいなく楽しめた。こんな夫婦もいるんだろうなあ、といった感じ。

☆ 群ようこさん原作の「かもめ食堂」をUCLA映画科卒業の「荻上直子」さんが監督・映画化したのをDVDで見て、いい映画だったので、古本屋の100円コーナーでたまたま目についた群ようこさんのこの本を購入した。
映画は、フィンランドで日本食(それもおにぎり)にこだわり、食堂をひらいた女性が、来る日も来る日も誰も来ない店で食器磨きを続けていたある日、日本かぶれのフィンランドの青年が来、日本からの旅行者の女性が手伝うようになり、日常のきっかけ、出会いからだんだんとお店が繁盛し、ついに満員になるまでの日々が淡々と描かれている。見た後何か爽やかになるいい映画でした。
この映画の方が、オススメです。

2006/9/24  「天皇家の食卓」 秋葉 龍一  DHC

☆ 著者は、ノンフィクション作家
天皇家の日常の食卓は、以外に質素でわれわれ庶民の食卓と大差なさそうである。昼食は、うどん一杯やざるそば一枚、あるいは炊き込みご飯やトンカツというメニューもあるそうだ。日本人の庶民の食卓は、天皇家の食卓に倣い準じてきたそうである。トーストにジャムにミルクのコンチネンタルブレックファストの先鞭をつけたのは昭和天皇で、1921年バッキンガム宮殿へ外遊後の洋食の朝食がはしりだそうだ。

☆ 食卓は似ていても決定的に違うのは、料理人で、コック長(宮内庁管理部大膳課主厨長)は、とりわけフランス料理にかけてはぴか一ばかり。
「食材」は、天皇家専用の牧場地「高根沢御料牧場」でつくられるオーガニック素材。バター・チーズ・ハム・ベーコンなども自家製。以前の天皇家専用牧場は、20年ほど前に成田空港となってしまい、現在の高根沢に移転したそうだ。
専用牧場は、やり過ぎの様な気もするが、外国の皇室もこんなんかな?

2006/9/17  「25時」 デイビット・ベニオフ 新潮文庫

☆ 1970年ニューヨーク生まれの作者が2000年に上程した長編処女作
主人公モンティが連邦刑務所に収監されるまでの24時間(25時が来る前の24時間)を描く。
全編すばらしく輝いている作品。読後の余韻が冷めやらない。

☆ 驚かすようなドラマチックな話や展開はない。
モンティと2人の同級生との友情を中心にモンティの恋人ナチュレルや愛犬ドイルのこと父のこと、モンティがかかわっていた麻薬密売人達のことなど。
淡々と適度な抑制を効かせた筆致で物語は進むがこれがすばらしい。エンディングもいい。この見たスパークリー監督の映画「25時」も面白かった。

2006/9/16  「冬を怖れた女」 ローレンス・ブロック 二見書房

☆ アル中探偵マット・スカダーシリーズ第二作
スカダーシリーズのいいところは、都会の哀愁のようなものを感じさせること。
このシリーズで、スカダーは恋もして依頼人の妻と本気になったりする。事件も気になるが、こっちの方の展開に気を取られたりもする。
依頼人の刑事が警察内部の不正を告発し、同僚たちの憎悪の的になる。折りしも一人の娼婦がこの刑事を恐喝罪で告発する。身の潔白を主張する彼は、探偵スカダーに調査を依頼するが、娼婦が殺害され容疑は、この刑事にかかる。
スカダーは、単身調査に乗り出す。

☆ こう書くとよくあるストーリーのように感じるかもしれないが、ラスト・シーンもなかなか渋くていい。

2006/9/10
 「帝国ホテル 厨房物語」 村上信夫 日経ビジネス人文庫

☆ 帝国ホテルの総料理長であり、日本に本格的なフランス料理を浸透させた村上さんの自伝である。
ムッシュ曰く「人生はフルコース」がぴったりの人生。
ムッシュの帝国ホテルでの下積み時代、徴兵とシベリヤ抑留時代に料理の腕が身を助けたこと、復員後のパリ留学でホテルリッツなどで至高の味を学んだこと、帰国後に抜擢人事で37歳で帝国ホテルの料理長、東京オリンピック選手村での総料理長の経験、ホテルの厨房を改革したこと、帝国ホテルでのエリザベス女王などたくさんの賓客の思い出、料理への熱い思いなど

☆ 12歳で社会に出てから腕のいいコックになることだけを考え修行を重ね、出会いに恵まれ、与えられたチャンスをものにし期待に応え、最後には帝国ホテルの専務取締役と破格の栄達を成し遂げるサクセスストーリーでもある。

2006/8/27  「木のいのち 木のこころ」 西岡常一 小川三夫 塩野米松 新潮文庫

☆ 西岡常一さんは、1908年生まれで、法隆寺金堂、薬師寺金堂、法輪寺三重塔などの復興を果たした最後の宮大工。
 小川三夫さんは、1947年生まれで、西岡さんが唯一とった内弟子。3度追い返されながらも3年間待って弟子入りを許される。
後に宮大工集団「いかるが工舎」を設立し、後進の宮大工を育てながら全国の寺院の修理、改築、新築の設計・施工にあたっている。
 このお二人と「いかるが工舎」に入門した全国各地の若者たち19人への聞き書きの3部作で構成されている。
 塩野米松さんは、聞き書きの名手で、失われてゆく伝統工芸の記録に取り組んでいる。
☆ 西岡棟梁の寺院建築に対する思いはすさまじく、真摯な姿勢に圧倒される。人生のすべては、法隆寺の宮大工棟梁としての責任感に裏打ちされささげられている。
 1300年前に建立され、現在もびくともしていない法隆寺が具現する伝統の技、すなわち1300年続く先人の知恵を建造物と対話しながら読み解き、伝承する職人の心意気。
 ITに代表される新しい技術信奉の風潮を叩き割る迫力の書。子供にも読ませたい本だった。

2006/8/20  東京タワー オカンとボク、時々、オトン」 リリー・フランキー 扶桑社

☆ オカン、今までいろいろごめんね。
そして、ありがとうね。オカンに育ててもろたことを、ボクは誇りに思うとるよ。
りりー・フィランキーさんのこの言葉に本のエッセンスは凝縮されている。この自伝そのものも面白いけど、誰の胸の奥にもあるこの感謝の言葉を自らの心の中から呼び出して感動し、ほろっとあるいは、号泣させてくれるフランキーさんの読み出したら止まらなく読ませる文章力も凄い。
やくざなオトンの存在感もまたいい。
オカンに感謝して、また明日から頑張ろうと元気をもらうようないい本だった。

☆ 著者のリリー・フランキーさんは、武蔵野美術大学卒業の「文章家・小説家・コラムニスト・絵本作家イラストレーター・・・etc.」と多彩な才能の方と巻末に紹介されていました。
この東京タワーは、2006年本屋大賞受賞作品で、今度映画化されるようだ。
http://www.lilyfranky.com

2006/8/5
 「やっぱり変だよ日本の営業」 宋 文州 日経BP

☆ 著者は、1985年に国費留学生として北海道大学大学院で博士号を取得。天安門事件で帰国断念。自ら開発した土木解析ソフトを売り歩き「ソフト・ブレーン社」を創立。2000年12月にマザーズに上場。成人してから来日した外国人としては初のケース。
☆ 著書から:ITとは、
日本の経営者にはITを技術問題だと勘違いし、分からないことを自慢する人がいます。これは大きな間違いです。ITは経営理念の問題です。その理念を理解しないで現場任せで導入しても、期待するほどの効果が出ないのは当然です。
・・・・実はITはQC(品質管理)と同じく、技術ではなく経営理念なのです。「いかに今の情報通信時代に合う経営を行うか」という経営理念です。
☆ 「顧客は神様と言いながら社員にノルマを強要。
読まれない日報を熱心に書かせる上司。
世界一の通信技術を持ちながら「足で稼ぐ」。
・・・・やっぱり変です日本の営業。精神論だけでは営業は成功しません。

2006/7/9  「海辺のカフカ」 上・下刊 村上春樹 新潮文庫

☆ 田村カフカ君は、15歳の誕生日に家出して四国に向かう。
そして、偶然(あるいは必然に)に住み着いた私設図書館で出会う不思議な魅力を持つ人々。
並行してネコと会話が出来る純粋な老人ナカタさんの不思議な旅。
特にナカタさんと長距離運転手の星野クンの交流が良い。
ああいう人のいい運転手のアンチャンってほんとに身近にいそうで。

☆ それぞれの人々の運命が、過去を通して交錯し、世界が一つになっていく。 物語のテーマは判らないけど、不思議なそれでいてなにかしら心地良い物語の流れに漂いながら、1日で読んでしまった。
村上ワールドを堪能できる物語。
ニューヨーカー誌にもジョン・アップダイクが村上の新作を絶賛した書評が掲載されたそう。

2006/7/8  「キャリアに揺れる」 上西充子・柳川幸彦 ナカニシヤ出版

☆ 法政大学キャリアセンター副センター長の上西さんと同大学キャリアデザイン学部学生の柳川さんが、迷える学生、新社会人が自分の将来に向き合うために読む30冊の本の紹介。
「40歳からの勉強法」三輪裕範著もあるから新社会人だけでもない。

☆ 1.学ぶ 2.揺れる 3.働く 4.背負う 5.ぶつかる の5章に分かれて、その分野に関する本が紹介されている。
おなじみの著者や本も多い。
宮大工の西岡常一さんの「木のいのち木のこころ、<天・地・人>」、精神科医香山リカ「就職がこわい」、日本旅行の創業者を描いた小説で城山三郎「臨3311に乗れ」、岩井克人「会社はこれからどうなるのか」、鹿鳴敬「雇用破壊ー非正社員という働き方」、ピエール・フェルロッチ「子供という哲学者」など。
自分も学生時代にこんな本を読んどけばよかったかなと思われる本も多く紹介されている。

2006/7/2
 「ひらめき脳」 茂木健一郎 新潮新書

☆ NHKの番組「プロフェッショナル」の司会者で、気になっていた著者の本を偶然に書店で見つけ購入。脳科学者で脳と心の関係を探求している。
ひらめきは、一部の天才の脳だけにあるのではなく、どんな脳にもその種は存在している。創造の瞬間を生かすも殺すも本人次第。

☆ 「セレンディピティ」は、「思わぬ幸運に偶然出会う能力」と訳されている概念。恋愛映画のタイトルにもありました。
科学史上のほとんどの発見には、セレンディピティとよべるような偶然があった。
人生における成熟の一つの目安は、自分でコントロールできない要素の存在をいかに認めるかにあると言われている。たしかによどのような出会いがあるかはコントロールできない。しかし、だからといって不安に思ったり、イライラするのではなく、むしろどんな出会いを運んでくるかわからない人生を楽しむ。余裕のある態度がセレンディピティを高めてくれる。
会社のような組織にとって本当に大切なことは、セレンディピティとして訪れる。
 感情も、ひらめきも、セレンディピティも、素敵な人との出会いも、すべて人生が思い通りいかないからこそ、つまり不確実性に満ちているからこそ、あり得る。そう考えると、失望や後悔のようなネガティブな感情に対しても「ありがとう」といえる。

2006/6/25  「99999」ナインズ  デイヴィット・ベニオフ 新潮文庫

☆ 映画化された「25時」でデビューした著者の最新作
どの短編集も物語りは、少し風変わりだけど、難解な話はなく、どの作品の登場人物にも共通した心地よい怠惰な雰囲気がある。

☆ 代表作であろうナインズは、車の走行距離計の数字が、99999から00000に変わる(転がる)一瞬を仲間と無邪気に祝う”サッドジョー”と小切手に書かれた金額のならんだゼロが、転がり落ちるのを恐れるように両手で受け取る”モリー”の対比が見事。
”モリー”はサドジョーのバンドからレコード会社に一人だけ引き抜かれ、この小切手を手にする。
訳者が後書に書いているように、登場人物は、ただ現実をゆるやかに受け入れるだけ。ぼんやりとしたあきらめは、ベニオフの作品全体に流れている。

2006/6/25  「ウェブ進化論」 梅田 望夫 ちくま書房

☆ インターネットが登場して10年、いま、ITコストの劇的な低下=「チープ革命」と技術革新により、ネット社会が地殻変動を起こし、リアル世界との関係にも大きな変化が生じている。グーグルが牽引する検索技術の進化は、知の世界の秩序を再構築しているという。

☆ インターネットの「あちら側」と「こちら側」との概念が面白い。ネットのこちら側とは、インターネットの利用者すなわち我々に密着した部分で、携帯電話、カーナビ、コンビニのPOS、ATMなど皆、インターネットと私たちを結びつけるもの。ものづくり日本の強みもここにある。
一方、ネットの「あちら側」とは、インターネット空間に浮かぶ巨大な情報発電所とも言うべきバーチャルな世界。この情報発電所に付加価値創造システムを埋め込んでいるのが、グーグルをはじめ、アマゾン、eベイ、ヤフーなどの米国ネット企業群。。「あちら側」のイノベーションは、目に見えにくいが、アメリカのトップ頭脳はみな「あちら側」で活躍し、この領域は、アメリカの独断場となっているようだ。例えば、グーグルのチーフ・エンジニアのジム・リースは、エール大学医学部を出た脳神経外科医でもある。

☆ IBMは、パソコン事業を中国企業に売却したが、今後付加価値は、パソコンなど「こちら側」の技術ではなく「あちら側」の技術にシフトしてゆくと確信している証拠だろう。ものづくりだけが、日本企業の生きる道と「こちら側」の技術だけに没頭している日本企業に明るい将来はあるか?と考えさせられる書でした。

☆ 著者のブログMy Life Between Silicon Valley and Japan

2006/6/18  「書物の運命」 池内 恵  文芸春秋

☆ 著者は、1973年生まれのイスラム政治思想史専門家。
2001年から2005年までに新聞紙上などで行った書評を中心にまとめてあるが、イスラムや中東関係の書評が中心で、やや僕には、偏りすぎの書籍が中心だった。ただ、新聞で一般的な論調を鵜呑みにしない知識をつけるためには、ここに紹介される分野の読書も有益。報道されない酷い現実もある。

☆ 例えば、ユリヤ・ユージック著「アツラーの花嫁たち」は、2004年の北オセチア・ベスランの学校占領などロシアとチェチェンのイスラム過激派との紛争で、女性たちが自爆戦士となる過程を追究した。
女性たちは、自由意思よりも組織的な洗脳によって自爆を強制される。『コーラン』の勇ましい宗教歌を聞かされジハードの教義を注入され、向精神薬を投与され殉教者への道を進む。自分では脱げない爆薬ベルトを着せられ犯行現場に送られ、遠隔操作で爆発させる。
一部始終を物陰の男たちが撮影する。社会から阻害され行き場を失った女たちを武装集団がリクルートし、武器にし物として扱っていると。

2006/6/17  「即戦力の磨き方」 大前研一  PHPビジネス新書

☆ 経営コンサルタント会社マッキンゼーの日本支社長だった著者の若いビジネスパーソンのための自分の磨き方。キーワードは、三種の神器「語学力」「財務力」「問題解決力」に「勉強法」「会議術」

☆ 「もし、テレビをつけるならCNNかBBCにしておくといい。NHKのニュースを見て地方の天気を見たところで人生に何の意味がある。毎日、5分も天気をみていると、1年間では30時間。その暇があっつたら、著者の主催する資産運用のコースhttp://www.ohmae.ac.jp/ex/43/kari.htmが終了できる。」
ちなみに視聴版と受講料を見てみましたが、このコース315,000円でした。
たくさんの著書とネット大学で、著者が一番かたく稼いでいる?このしたたかさこそ見習うべきかも。

2006/5/26
 「死者の長い列」 ローレンス・ブロック  二見書房

☆ 探偵マット・スカダーシリーズ12作目 31人の会の会員が、事故・自殺・殺人事件に巻き込まれるなどで、何年もかけてだんだんと死んでゆく。それは実は、殺人事件であった。

☆ わらわれの後ろには、過去の死者の長い列が連なっている、といったことがテーマになって進行してゆく。最近のスカーダーシリーズには、はでな殺人描写はないが、主人公スカダーの日常風景や心理描写を丹念に綴りながら、物語が進行してゆく。ロバート・パーカー作のスペンサーシリーズのような人間ドラマの雰囲気に重点が移ってきた趣がある。個人的には、物足りなくなってきたが。

2006/5/20


 「泣いて笑ってスリランカ」 末広美津代 ダイヤモンド社   

☆ 紅茶に惚れた独身女性の体当たり紅茶修行の1年日記
1999年に紅茶の産地であるスリランカをツアーで1週間訪れ、紅茶に惚れ込んでしまう。2001年には、勤めていた日刊スポーツ新聞社を退職し、単身スリランカへ紅茶を徹底的に学ぶため1年間の予定で渡る。スリランカの紅茶の5大産地を数ヶ月ずつホームステイし、現地の生活に溶け込みながら、紅茶農園で学んでゆく。

☆ スリランカの紅茶産業について、産地での収穫段階からブローカーによるテイスティング、販売まで著者の目線で伝わる。
紅茶の情報以上にホームステイ先での生活やスリランカの人たちとの体当たりの交流が暖かく、30年前の学生時代に自分が沖縄の離島へ放浪したときのことを思い出した。
街の人たちは、紅茶の勉強に日本から来た娘さんに親切で、(日本は比較的評判がよいそうだ)ホームステイ先では、どこも家族の一人として大切にされ、次の滞在地に出かける時には、危険だとかなんとか反対され大騒ぎになった。

☆ 著者は、現在、日本でスリランカの紅茶をネットで販売する商売をされている。この本を読んだ後では、紅茶の魅力に抵抗できず、僕もさっそく何種類か紅茶を注文した。      http://www.mitsutea.com/

2006/5/5  「カルロス・ゴーン経営を語る」 カルロス・ゴーン 日本経済新聞社   

☆ 99年6月日産自動車COO、01年6月より社長兼CEO

☆ ゴーン本人も述べているようにルノーと日産自動車の提携の成功は、自信を失くしていた日本経済全体を蘇らせる革命の始まりだった。異文化のフランス人経営者が日産自動車の本社にやって来て、問題点を洗い出し、日産自動車の従業員達に指針を示し、自信を取り戻させ、やる気を引き出し、会社を蘇らせたばかりか、世界企業としてパワーアップしてゆく。
今、振り返れば、日産の外資による再生は、それからの日本経済全体に起こった事の序章だった。
論理的で説得力のあるゴーンの語り口は、卓越した経営者を感じさせる。当時のマスコミ報道と随分違っていたし、再建の手腕に感心した。

☆ ゴーンは、パレスチナ移民の子供としてブラジルで生まれ、成績の優秀さでフランスで高等教育を受け、ミシュランに就職。ミシュラン・ブラジルを再建した手腕を買われルノーに転進。他社が尻込みするほど疲弊した日産自動車とルノーが提携を決断したのは、ゴーンの存在があったからだとルノーの社長が語っている。困難な時代に会社を発展させるのは、やはり優秀な経営者だろう。
マスコミに頻繁に登場し、経営を語っていたのもトップの責務として、明確に再建目標と日産の現状を伝えるため意識して行っていたこと。

 2006/4/1  「マネー・ボール」 マイケル・ルイス ランダムハウス講談社   

  野球ノンフィクション
メジャー球団のアスレチックスの年棒トータルは、ヤンキースの3分の1でしかないのに成績はほぼ同等。これは、ゼネラルマネージャーのビリー・ビーンの革命的な考え方による経営のお陰だ。

この考え方は、全ての世界で応用できる。きっと
ヨットレースの世界でも!!スポーツばかりでなく普遍の経営指南書だ。

  僕は野球オンチだが、メジャー球団の世界のことや選手達や取り巻く人たちの人間模様もとても面白しく読んだ。
しかし、この本には、単なる野球本でない性格がある。
著者が書いたのは、丸谷才一氏のあとがきにあるように頭の使い方、ものの考え方の本だ。
「一般に人間は、とかく在来の考え方、方式にとらわらがちで、新しい視角からものを見ることができない。その分野その領域の、約束事や先例や旧套、因習や官僚主義から脱するのが難しい。つまり他人と同じことをする羽目になって、その結果、これまでの勝者を抜くための条件を手に入れがたい。しかしものの考え方を改めれば話が違う。別の転地が開け、勝者となる可能性が生じる。さういふ、思考と生き方のマニュアルを彼は書いた。」

  著者は、元債権セールスマン。野球会の門外漢ゆえにこの世界の重鎮たちに気兼ねなくまた、先入観なくここまで書けた訳だろう

 2006/3/5  

 「宮廷料理人アントナン・カレーム」 イアン・ケリー ランダムハウス講談社

  アントナン・カレームは、1783年生まれ〜1833年没のフランス人料理人。貧しい生まれであるが、ナポレオンをはじめ、イギリス・ロシアの皇帝・貴族や富豪の料理人として、一世を風靡した当時の超セレブな料理人。料理の鉄人ショーは子供だましに思える迫力。

  本をめくると19世紀初頭の貴族の壮大な食事風景や当時の厨房の様子をはじめ、社交界の様子が、料理の芳香とともに立ち上ってくる。

  カレームは、料理の著作も当時評判となりレシピも数多く残されているそうだ。レシピも巻末にたくさん掲載されている。

2006/3/5  

  「聖家族のランチ」 林 真理子 角川書店

  奥さんが有名な料理研究家である家族のミステリー。最近、テレビや選挙にも出て流行りの料理研究家ってこんな風にマスコミに作られるのかと、可笑しくなった。

  料理研究家の母親の愛人である雑誌編集長を高校生の息子がつい包丁で刺し殺してしまうが、母は、子供をかばう為に愛人であった編集長の死体を毎日、料理し、家族4人で、1カ月がかりで食べてしまう。

  最後に残った頭だけは、硬すぎて料理できず家族で、深い谷にピクニックに出かけ、捨てようとするが・・

2006/3/5  「アメリカの高校生が学ぶ経済学」 ゲーリー・E・クレイトン WAVE出

☆  アメリカの高校生が使っている経済学の教科書の日本語訳。
価格の決まり方など、経済の仕組みを具体的に解説している。「無料のものはない」を解説する例としては、レストランが開店の際に配る「無料ランチ券」を取り上げ、このサービスは次にも来店してもらうための投資という面もあるが、無料券を持っていない人が無料で食べた人の費用を負担しているという側面もあるなど。

☆  第1章 経済学とは何かよりpreviewより。
「資源は希少である。時間も希少である。なすべき事が山のようにあるのに、どれから取りかかればよいのかわからないことがある。
いろいろな選択肢から何かを選び出さなければならない。・・・ところで、どれを選択するべきなのだろうか。
信じられないかもしれないが、経済学を学ぶとトレード・オフや意思決定に関する「思考法」が身につき、優れた意思決定を行う素地が生まれる。」

☆  日本でも学生に体系的で実務的な経済学を学ぶ機会を与えていかないと、グローバルな競争にさらされる子供たちが、不利になる。

2006/3/4

 「日本国債」 上・下2巻 幸田 真音 講談社

  日本国債を通して繋がるさまざまな人々。債権トレーダー、機関投資家、営業部門、財務省の担当者、さまざまの人々の行動力は仕事へのこだわりとなり現れる。

  国債は、日本国の借金であり、特に長期国債は、日本の子供達が、10年、20年後に背負わされる莫大な借金。この未来への無責任な借金は、現在、何に使われているのか。僕らがあまりにも無関心過ぎるから、毎月、こんな借金(国債)が発行されつづけているんだろう。

  増えつづける国債残高は、平成16年度末で、600兆円

  この借金は、日本国の未来への投資に使われたとは思えない。どこにも行けない橋や海岸工事・繰り返される土木工事などなど未来への投資とは程遠いのだろう。

2006/2/19

 「大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代」 ジム・ロジャーズ 日本経済新聞社

    世界を旅する投資家が、市場をどう読み解くべきか考え方を解説する。
著者は、高所から投資の世界の全景を俯瞰し、個別の分野にアプローチする。その分析結果は、今後15年程度は、商品(石油、金、鉛、コーヒーetc.)が1番儲かると結論を出している。 

   株式相場が活況な時は、商品相場は低迷し、誰も見向きもしない。こんな時こそ商品に投資のチャンスである。歴史を振り返ってみても18年周期で、株式相場の活況と商品相場の活況が繰り返している。
    商品相場が低迷すなわち商品の価格が安い時は、新しい生産活動への投資はされず、供給は減少する。このタイミングで需要が供給を上回れば、商品相場は、火を噴く。特に活況の中国経済と13億の人口が需要を創造する。 「ポイントは、需要と供給のバランス」のようだ。
日本では、昨年6月に翻訳出版された本だが、たしかに昨年末には金や石油が高値更新したニュースが連日報道されていた。商品相場が沸騰するのは、まだまだこれからだそうだ。

2006/2/10

 「女子大生会計士の事件簿」 山田 真哉 角川文庫

    「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」が昨年ベストセラーになった公認会計士である著者のすごく分かり易いミステリー風ビジネス書

    女子大生会計士が、監査の先々で出くわす奇妙な事件「粉飾決算・会社乗っ取り・クーポン詐欺」などを説きながら会計の仕組みや会社の仕組みを教えてくれる。

    ここまで分かり易いのは、著者が文学部の学生時代に予備校の先生をしていたおかげだろう。バス通勤中に読むのにちょうどいい。
もとは、専門学校TACの雑誌に連載され「会計士・税理士受験生に会計の世界を紹介する」コンセプトで書いたそうだ。
まんが「ビジネスジャンプ」には「公認会計士萌ちゃん」として連載されている。

2006/2/4

 「冒険投資家・ジム・ロジャーズ世界バイク紀行」 ジム・ロジャーズ 日経ビジネ文庫(原題は、INVESTMENT BIKER)

    著者が、改造ベンツで、2度目の世界一周をする10年前の1990年にBMWのバイクで、初めて世界一周したバイク紀行

    この前の2回目の世界一周紀行を読みすぐこの本も購入した。

    壮大な旅の書であり、歴史家の博識をもつ天才的な投資家が世界各国を売りか買いかの視点で、観察し投資しながら巡る。

    パートナーの女性とともに2台のバイクで、ヨーロッパから中東、シルクロードを走り抜け中国に入り、北京を経て日本を訪れたのち、シベリアを横断し、モスクワを経てヨーロッパに帰る。
その後アフリカに下り、サハラ砂漠を縦断し、南アフリカに到着。オーストラリア、ニュージーランドを巡り、南アメリカのアルゼンチンに渡り、チリ、ペルー、パナマ、メキシコと北上し、ニューヨークへ戻る。その後、カナダ、アラスカも旅し、10万キロ以上をバイクで走破。これが、プロの冒険家などでなく、天才と呼ばれた投資家の旅。

2006/1/28  「冒険投資家・ジム・ロジャーズ世界大発見」 ジム・ロジャーズ 日経ビジネス文庫    

  著者は、投資家・元コロンビア大学教授
27歳の時、ジョージ・ソロスと組んで始めたクオンタム・ファンドは、10年で、4000%を超える驚異的な成績を記録。
37歳で、引退して世界中を旅して廻る。

  改造ベンツ(SLKロードスター)で116カ国、24万キロの旅。
1999年1月1日アイスランドから3年間をかけて世界を巡った記録。
  日本には、99年に5週間滞在し各地を巡っている。その時の感想「日本は、素晴らしい観光の地であり、豊かな文化の伝統を持つ。同時に驚くべき近代的な社会的インフラの蓄積を誇っている。・・・この国の富には、目がくらむほどだ。・・・そしてこの経済大国が長期的な問題を抱え込んでいることは、目を凝らさなくてもわかる。途方にくれた巨人であり、深刻な問題に直面している。そしてこの深刻な問題は、自業自得なのだ。・・」
誰もが、皆が自信を無くし途方にくれている時が、投資のタイミングだそうだ。今思えば、まさにその時期だった。
  本を読みながら、著者のプロの投資家の目線で一緒に、世界各地を旅行し、その国の将来性や経済について観察のしかたを学ぶ事ができる。そして、現在から見てその見方が、正しい事に驚かされる。

2006/1/15
 「ハードワーク・低賃金で働くということ」 ポリー・トインビー 東洋経済新報社    

  著者は、英BBC放送で社会問題担当部長・「ガーディアン」紙記者

  経済を活性化させるために、「小さな政府」をつくる。非効率な官業は民営化する。官民を問わず、割高になる人件費を切り下げるため、正規職員を減らし、雇用は派遣会社との外部契約に変えていく。その先には、どんな社会と暮らしが待ち受けているのか。サッチャー改革以来、20年以上民営化路線を進めてきたイギリスで何が起きたのか検証したドキュメンタリーである。
  著者は、最低賃金の派遣の仕事で、底辺の暮らしを体験する。
仕事の体験談自体は、想像の範囲だが、最低賃金で、底辺の生活をする人々が、全体の30%を占める社会。国全体の経済成長にかかわらず、彼らの賃金は一向に上がらない。そして、子どもたちは、底辺から脱出するはしご??優れた教育を受ける機会を奪われる。「中流」崩壊後のイギリスに、小泉改革後の将来像が重なって見えてくる。
  派遣社員で、合理化を諮っているつもりが、かえって現場に不合理を生んでいる状況に納得するものがあった。

2006/1/8  「国家の品格」 藤原 正彦 新潮新書     

  エッセイ「若き数学者のアメリカ」が、有名な著者は、御茶ノ水大学の数学教授で、作家、新田次郎と藤原ていの2男

  破錠しかけた世界を救えるのは、日本しかない。日本人が美しい情緒と形を身につけ「品格ある国家」を保つことが人類への責務である。
  義務教育での半端な英語教育など不要で、「文学」と「芸術」と「数学」教育こそ、真の国際人になるための素養と説く。  
  美意識のない国民の住む国には、文化は育たず、引いては、国の発展もない。 
  数学や物理の天才を輩出するインドは、郊外に、はっとするような古い寺院の並ぶ美しい地方があるそうだ 。

2006/1/7  「退廃姉妹」 島田 雅彦 文芸春秋     

  終戦直後の過酷な環境の中で生き延びた姉妹の大河ロマン

  自宅に進駐軍のアメリカ兵を受け入れ、身を投げ出す行動的な妹、久美子。特攻帰りの男の全てを受け入れる理知的な姉、有希子。
浮かれた戦後60年の年に庶民の立場で、終戦直後の日本を振り返るユニークな一冊。

2006/1/4  「冷たい銃声」 ロバート・パーカー 早川書房店

  冒頭でいきなりホークが撃たれる。

  ア強烈な自負心を持つホークが、懸命のリハビリを続け、プライドを取り戻そうとする。
  スペンサーシリーズの32作目。
  「俺は、ほかの男たちと同じであってはいけない」など、ホークには珍しく心情を語る。スペンサーは、今回は脇役。

2006/1/3  「背信」 ロバート・パーカー 早川書房

  探偵スペンサーの事務所を訪れた依頼人マーリーンの夫の浮気調査から巨大エネルギー企業キナジー社の幹部達の交錯した人間関係(といってもスワッピング)と不正が、あばかれて行く。。

  大企業の設定は、アメリカで、破綻した巨大企業エンロン社を下敷きにしていると思わせる設定。
  スペンサーシリーズ31作目 

2006/12/18  「ダブルプレー」 ロバート・パーカー 早川書房

  パーカーが生み出した新しい主人公バークと、大リーグ初のアフリカ系アメリカ人選手ジャッキー・ロビンソンの「二人の闘い」を描く。

  ガダルカナルの帰還兵ジョセフ・バーク。戦傷と離婚を経験したバークは、ジャッキー・ロビンソンの警護役となる。
  メジャーリーグに黒人選手が登場することに対する差別と戦う為、感情を抑制し、模範的選手となるために最大の努力を払うロビンソンと、人間的な感情を捨て去ることで任務を冷徹に遂行するバーク。二人の間に信頼が生まれ、バークも一度は捨てた人生を取り戻す。 

2005/11/12  「決断力」 羽生 善治 角川書店

  将棋界はじまって以来の7冠達成をした天才棋士が、自分の将棋を通してその戦い方、人生観を書いたベストセラー
  どの世界も同じだと思うが、天才は一日では生まれない。長く卓越した努力が身を結ぶ。その一端を覗う事が出来た。
  勝つ頭脳の決断方程式

2005/11/5  「在日」 姜 尚中 講談社

  1950年熊本県生まれの在日2世、姜 尚中の自伝
  在日で初めての東大教授として、また朝までテレビなどで有名な著者が、自分の内面に封じ込めていた「在日」や「祖国」を開放し、日本名「永野鉄男」を捨てて「姜 尚中」を名乗る。「在日」を生きる意味を問うた自伝。

2005/10/23  「竹中教授のみんなの経済学」 竹中 平蔵 幻冬社

  竹中さんの優れている事は、経済の素人でも誰にでも判りやすく説明できる事。
  2000年11月に出版された本だけど、2001年からのあなたの暮らしはこうなっていると言う解説が、2005年の今、すごく現実として実感される。
  小泉内閣の経済閣僚として、この人が構造改革を推し進めているのだから、言った通り、近いものになることもあるかも。

2005/10/9  「凍」 沢木 耕太郎 新潮社

  登山家山野井夫妻が、二人だけで挑んだヒマラヤの高峰ギャチュンカンへの過酷な登攀の物語。
  妻の妙子さんは、手足の指20本のうち、18本を切断する酷い凍傷を負いながら、なお生還した。しかもこの切断は、別に妙子を悲観的にすることはなかった。彼女にとっては、好きなことをして失っただけで、大切なのはこの手足でどのように生きて行くかということだけだった。
  登山は、外洋ヨットより厳しいかもしれない。遭難したら自分の力で、その過酷な状況下の山から降りなければ、助からないのだから。ヨットのように船の中でじっと救助を待っている余裕はない。

2005/9/25 「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」 ジョセフ・E・ステングリッフ 徳間書店

  WTO「世界貿易機関」の副総裁を務めたノーベル経済学者の著作 現在は、コロンビア大学教授
  IMF、WTO、世界銀行は、世界の安定と発展途上国の援助を使命とすると学生時代に習ったが、現在のこれら機関の実態は、こんな理想とは、程遠い存在のようだ。これらの機関が介入した発展途上国は、その国の事情などお構いなしに無理やり金融自由化を押し付けられ、更なる困窮に陥り、利益を手にするのは、アメリカを中心とする金融界。
  現在、日本でも小泉首相の自由化政策で、倒産した往年の企業やその財産を買いあさっているのは、西欧の金融ファンドのようだが、IMFがその親分かもしれない。IMFのトップは、シティーコープなどアメリカの金融機関に天下ってゆく。

2005/9/24
「ラストホープ」 福島孝徳 徳間書店  

  「神の手」と呼ばれる世界トップの脳外科医 アメリカで活躍する福島医師が、日本に来て、連日何件も脳腫瘍の摘出手術をする映像をテレビで見て、本を購入

  日本に実質9日間滞在した間に20件近い脳腫瘍摘出手術を行っていた。東大の恩師の教授が、福島先生は、天賦の集中力を持った人だといっていたが、ずば抜けた手術数は、集中力に負うに違いない。
  全国から脳外科医が、先生の手術を見学に来るが、自分が来た事を所属大学の教授には、隠さないとまずいらしい。
  巻末に福島先生の連絡先住所やメールアドレスが記載されている。実際このアドレスで、アメリカの先生に連絡をとり、日本で手術を受けた主婦もテレビで紹介されていた。

2005/9/4

「処刑宣告」 ローレンス・ブロック 二見文庫

  探偵マット・スカダーシリーズ 新聞への殺人予告に従って次々殺害されて行く。

  アル中だったマットが禁酒の会に出席し苦悩していたシリーズと雰囲気が変わり、愛する人を得て世間並みの幸せを見つける。

2005/8/21

「司馬遼太郎が考えたこと」第5巻 司馬遼太郎 新潮文庫

  三島由紀夫の割腹自殺について論じた「異常な三島事件に接して」など65編のエッセイ

  「わが空海」の編で、知らなかった空海の偉大さに感銘した。

2005/8/20

「さおだけ屋はなぜ潰れないのか」山田真哉 光文社新書

  身近な疑問からはじまる会計学の話。今年最大の新書ベストセラー。

  これだけ分かりやすく書けるのは、すばらしい才能。

  著者は、大阪大学の文学部史学科卒業の公認会計士さんだが、文学部での勉強が、素人にも理解しやすい本になったかな

2005/8/15

「薬はなぜ効かなくなるか」 橋本 一 中公新書

  細菌学の発展からサルファ剤が生まれ、ペニシリンが開発され、人体から微生物のみ死なせる抗菌薬を手に入れた。

  このときから、耐性菌との戦いも始まる。抗菌薬の入門書

  今年、職場で結核にかかった人がいたせいか、この薬の本が目にとまり購入

2005/8/14

「土の中の子供」 中村文則 文芸春秋社

  17年度上半期芥川賞受賞作品。主人公の心理描写がよく描かれており、面白かった。

  しかし、芥川賞選考委員の村上龍は、文芸春秋にその選評として、「虐待を受けた人の現実をリアルに描くのは簡単ではない。(中略)誠実な小説家なら、そんなことは不可能だと思わなければならない。」と酷評していた。

2005/8/10

「ジャスミンを銃口に」重信房子 幻冬社

    1997年、密かにベイルートを脱出し日本に潜伏中の彼女は、2000118日、大阪で逮捕され現在も独居房に収監され裁判中である。

    30年前のオランダでの事件、しかもPFLPの作戦で関係者は、アラブの地か、すでに亡くなっている事件の共謀容疑で、東京地方裁判所で、現在裁かれているそうだ。きっと、アメリカの圧力で,日本は、徹底的な裁判を続けているのだろう。サイード著「戦争とプロパガンダ」を思い出す。

    そんな彼女が、独居房から弁護士に月2回送りつづけた短歌。その数はni05331日までに3548首に及んでいる。「テロリスト」と呼ばれた女性の日々の思いを綴った歌集。

  「人生に折り合いつけずにきたことを君の言葉で噛みしめる夜」

  「杖に頼り八十五歳の母来たるガラス越しにも手を重ね合う」

  「「地獄でまた革命やろう」と先に逝き彼岸で待っている君は二十六歳」

2005/6/5

「薬指の標本」小川洋子 新潮文庫

    著者の[博士の数式],以前読んで面白かったので購入。

    人々が思い出の品々を標本にするため持ち込む「標本室」で、標本技術者の秘書として働いているわたしの物語。

    不思議な雰囲気を意図した作品だと思うが、どこがよいのか?感性が合わないのかも。フランスで映画化決定と本の帯びに書いてあった。

2005/5/22

「殺しのリスト」ローレンス・ブロック 二見文庫

    殺し屋ケラー・シリーズの長編

    殺しの依頼を受けたケラーは空港に降り立った迎えの男が用意していたのは車とピストル、そして標的の家族の写真だった―。

    いつものように街のモーテルに部屋をとり相手の動向を探る。しかし、なにか気に入らない。いやな予感をおぼえながらも“仕事”を終えた翌朝、ケラーは奇妙な殺人事件に遭遇する……。

2005/5/15

「死者との誓い」ローレンス・ブロック 二見文庫

    スカダーシリーズ最高傑作の評価とのこと。

    前作の「倒錯の舞踏」の強烈な犯罪題材とは打って変わり、都会の平凡な犯罪を思索的に描く。確かに秀作。おすすめでした。

2005/5/8

「倒錯の舞踏」ローレンス・ブロック 二見文庫

    無免許の私立探偵マット・スカダーのハードボイルド探偵シリーズ

    マット・スカダーはアルコール中毒で、禁酒の会に参加して飲酒の誘惑になんとか打ち勝っている。

    スカダーの恋人エイレンは、現役の娼婦。友人の飲み屋の親父ミックは、暗殺者の顔を持つ。エンターテイメント性充分の脇役も揃っている。

    描かれている犯罪が、今風過ぎるとゆうか、僕には強烈、グロテスクぎみで、ハードボイルド小説には、多少の違和感がつきまとう。この作品では、偶然借りたレンタルビデオに男の子のセックス殺人が録画されていたことこら始まる。

2005/3/12

「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」J.K.ローリングス青山社

    シリーズ第5巻 上・下巻セット 14000円!×2巻

    1巻から結構はまって読んでいますが、ポッターも思春期を迎え初恋に破れたり、最愛の人の死を経験したり、自らの過酷な運命を知らされたり、人生の避けられない喜怒哀楽を経験する。

    今までの4巻とはストーリーの趣が少し変わったようだ。人生を経験しながらハリー・ポッターも成長したのだ。

2005/3/5

「文学部唯野教授」筒井康隆 岩波書店

    某大学文学部唯野教授を取り巻くメチャメチャ生くさいお話。

    ここまで書くかと抱腹絶倒で読み終えるが、大学内の学部は凄い魑魅魍魎の住む世界なんだな。

2005/1/30

「掌上66」松山東高等学校文芸部 

    大江健三郎氏が、文芸部長だったこともある歴史ある文芸誌。当時「17歳には17歳の文学がある。」といった趣旨のことを書いていたそうです。(あとがき)

    幾つかの小説を読んで、たしかに17歳にしかか書けないあるいは17歳だから書ける作品があるだろうと同感する。

    小説の背景あるいは行間に生徒達の日常の思いや思春期の悩み、エネルギーが伝わってくる。

2005/1/23

「企業情報漏洩防止マニュアル」酒巻久(キャノン電子情報セキュリティイ研究所) アスキー

    今年4月から個人情報保護法が施行される。気になっていたのでコミセン図書館で目に付いたこの本をトレーニングルームでのエアロバイクを漕ぎながら暇つぶしがてら読む。

    曰くインターネットでいかに社員が余計なサイトを見ているか。疎い上司は知るすべもなく生産性を低下させているのだそうだ。その責任は、有能な部下に適切な仕事を与えていない部下にあるとも。

    対処法は、キャノン開発のセキュリティ対策ソフトを導入し、社員のアクセス記録やパソコンの使用履歴を秘密裏にチェックするのだそうだ。

2005/1/16

「痕跡」上・下2巻パトリシア・コーンウェル 懇談社文庫

    検死官シリーズ最新刊

    以前のシリーズ作品に比べると毒気がパワーダウンした。

    人の理性の裏に潜む本人も気付かない病的な部分がテーマになり、心理的な面の探求に方向が変わったようだ。

    スーパーレディのルーシーも部下との人間関係に悩む。

2005/1/9

「ワイン 一杯だけの真実」 村上 龍 幻冬社

    ワインを飲んで風景が異化してしまうことがある。香りを嗅ぎ、試飲した瞬間、どこか別の場所に運ばれて行くような錯覚に陥るときがある。官能的な錯覚だ。(著者のあとがきだけど、こんな飲みかたができれば素敵だろう。)

    そういった瞬間をモチーフにして現代を生きる女性と8本の極上ワインをモチーフに書かれた8編の短編集

    「オーパス・ワン」「シャトー・マルゴー」「ラ・ターシュ」「ロス・バスコス」「チェレット・バローロ」「シャトー・ディケム」「モンラッシュ」「ロバートバイル醸造所トロッケンベーレンアウスレーゼ」

2005/1/2

「爆魔」上・下2巻 フリーマントル 新潮文庫

    アメリカとロシアの捜査官「カウリー」と「ダニーロフ」がタッグを組んでテロと戦うシリーズ最新作。寝正月用に購入。

    国連ビルにサリンと炭素菌の双頭の弾頭を持つミサイルが撃ち込まれた。ニューヨークやワシントンでも爆弾テロが発生する。最近実際に発生したテロを題材にしたような展開が面白く上下2巻を2日で一気に読んでしまう。

    CIAや旧KGB組織内部での権力闘争も並行して描かれ面白い。

2004/12/5

「保険業の大転換」アンダーセンコンサルティング金融ビッグバン戦略本部 東洋経済新聞社

    日本の保険業界は、保険業法の改正により、急激に自由化に突入した。従来大蔵省の指導のもと護送船団方式と呼ばれる最下位の保険会社も経営が成り立つように守られていた。

    今後の保険会社の生き残る道を提言したコンサルティング会社の変革へのシナリオ

    99年発行と古いけど、古本屋で100円で売っていたのでついでに購入。この位古いのもこの本の予言や提言を検証するのにちょうど良い。

2004/10/24

「ストレスに負けない脳」ブルース・マキューアン 早川書房

    現代病とストレスと人体の関係を脳神経学の第一人者が解説。最近の脳の研究成果はすばらしくストレスを真っ先に感知する脳の仕組みの解説。

    ストレスを知る者は、ストレスを味方にする・・と考え読むがなかなか参考になった。

2004/10/17

「マイ・ストーリー」山本容子 新潮社

    銅版画家の山本容子さんの芸術家らしい自由闊達な半生の自伝。

    人生を精一杯楽しみながらも、人との交わりを通じて、日々自分と自分が生み出す作品を高めていく人生に共感をもつ。

2004/10/10

「いちげんさん」デビット・ゾペティ 集英社

    外人の著者と盲目の日本人の京子との交流。常に外人であることを意識させられる日本の暮らしの中で、京子は、盲目ゆえに自分の容姿に違和感を持つことなく受け入れる。

    そんな京子とのちょっとエロチック生活も印象的。

2004/10/3

「彼らの流儀」沢木耕太郎 朝日新聞社

    「ありえたかもしれない人生のいくつかを失いながら人は歩む・・・」

こんなサブタイトルに惹かれ読み始める。「彼ら」有名/無名の人々33人の生の輝きに触発され、著者が書いたコラム集。

    現代の33人の人生の輝き(流儀)それぞれにある不思議な魅力が、伝わってくる。

2004/9/12

「空中ブランコ」奥田英朗 文芸春秋

☆伊良部先生ますます快調

2004/9/12

「イン・ザ・プール」奥田英朗 文芸春秋

    精神科医の伊良部先生と友達になりたくないけど、相談してみたいような。

    登場人物は、身の回りに居そうな人(自分を含め)ばかりと思うのは、もう伊良部先生の診察が必要?

2004/9/11

「博士の愛した数式」小川洋子 新潮社

    博士の孤独と情熱

    自分が博士のように記憶が80分となったら何を語っているんだろう。

2004/9/5

「武士道」新渡戸稲造 三笠書房

    映画ラストサムライを見てから読む

    新渡戸稲造の博学さに圧倒される。引用されている著書の参照が多く(ほぼすべて知らない)ついて行けない。1900年アメリカで英文で出版されたそうだが、この当時の国際人はこんなにすごかった。武士道よりその事に感動。肝心の武士道は理解不足で良く判らず。

2004/9/5

「真相」ロバ−ト・パーカー 早川書房

    私立探偵スペンサーシリーズの30作目

    28年前の殺人事件の苦い真相を明かしてしまうスペンサー

    週末の探偵・冒険小説はリフレッシュの時。

2004/8/29

「影に潜む」 ロバート・B・パーカー 早川書房

    警察署長ジェシイ・ストーンが、パラダイスの町(アメリカの架空の町)を恐怖に陥れた連続殺人事件を解決する。

    ハードボイルドだけど情に厚いヒーローのシリーズ小説

2004/8/15

「介護入門」モブ・ノリオ 文芸春秋

    今年の芥川賞受賞作品

    何がいいのか判らなかった。

2004/8/22

「反撃の海峡」ジャック・ヒギンズ 早川書房

    ヒギンズの冒険小説シリーズで1992年初版

    「荒鷲は舞い降りた」など昔からヒギンズの冒険小説ファンだが、これは、ノルマンディー上陸作戦前夜の連合国軍とドイツ軍の情報活動や心理的対決を背景として描いた第2次世界大戦ドラマ。

    実話とフィクションを織り交ぜた背景に007とフィリップマーロウのいいとこ取りのようなタフな主人公が苦戦しながら最後に必ず勝利するかっこよさにシビレ、何歳になっても止められないシリーズ。

2004/7/25

「シービスケット・ある競走馬の伝説」ローラ・ヒレンブランド

ソニーマガジンズ

    同名の映画が話題になった作品。作者は女性の競馬ジャーナリスト。

    1930年代後半の競走馬「シービスケット」とこの馬にかかわる人たちの物語である。馬、馬主、調教師、騎手達の波乱万丈の物語

    当時アメリカ中を興奮させていたこの馬のレースシーンの臨場感もすばらしくリアルな迫力ある筆致で描かれてているが、より興味を引かれたのは馬に関わった人々の人間ドラマ。調教師の仕事に対するプライド、当時の騎手たちのケガをすれば、保険も保障もなく使い捨てにされる過酷な環境の中での克己に感動した。

    当時のアメリカでの大不況時代の生活の匂いも競馬に関わる人々を通して伝わってくる。

2004/7/19

「ダーリンは外国人」小栗左多里 メディアファクトリー

    朝日新聞の日曜版書評欄で紹介されていた話題の漫画とのことで購読。

    アメリカ育ちの外人ジャーナリスト・大学講師との共同生活(出版時点では入籍してないとのことなので)体験での「なんで?」みたいなのを日本人の奥さんがマンガにまとめたもの。

    外人の旦那さんと日本人の奥さんの家庭の絵日記を読むような感じかな?

2004/6/27

「まともな人」 養老 孟司著 中央公論新社刊

    「バカの壁」で有名になった解剖学者だった著者が21世紀最初の出来事(9.11テロ、北朝鮮問題、小泉内閣発足など)について「あたりまえ」を疑うエッセイ。

    著者特有の具体的な分かりやすい語りなんだけど狐につまれたような話もあり、理解が追いつかない部分もある。世間のあたりまえに洗脳された僕の脳みそが、もはや疑いを受け入れないのか?

    今、世間で教育をどうするか議論が盛んなようである。座って机の前で学べる事もある。しかし応用が利くことは「身についた」ことでしかありえない。教養教育がだめになったのも「身につく」ことがないからだろう。教養はまさに身につくもので、座って勉強しても教養にはならない。ただ勉強家になるだけである。なぜ身につかないのか。情報化時代だからである・・・・。

    集団が命がけで、つまり本気で機能しようとすると、順送りでは具合が悪い事が突然わかる。日露戦争のとき、舞鶴勤務でもはや引退という東郷平八郎を連合艦隊司令官として呼び出した。理由はあいつは運がいいということだった。当時の海軍は、「機能体」であった。順送りというのは、組織に明確な機能、目的がないということ。

2004/6/13

「城壁に手をかけた男」上下刊 フリーマントル 新潮社

    イギリスの情報機関MI6のスパイ、チャーリー・マフィンが活躍するシリーズの最新作。

    日常生活は、全く不器用でさえないチャーリーが、エリート官僚の上司やスマートなロシアやアメリカの敏腕スパイをことごとく出し抜いて行く。スケールは違うけど僕のような普通のサラリーマンも自分の身近な状況に置き換えてや拍手喝采している。今回のシリーズでは、僕の好きなチャーリーの妻ナターリヤが息苦しさを感じて家出してしまう。続きが早く読みたい。

    東西の冷戦が終結した時には、スパイ小説作家は、ネタがなくなってしまうなと思ったが、その後もこのシリーズはちゃんと続いている。両陣営の闘いあるいは、国と国の闘いは終わらないのだ。すくなくとも小説の上では熾烈な駆け引きを続けている。

2004/6/10

「女房が宇宙を飛んだ」 向井万起男著 講談社

    宇宙飛行士向井千秋さんの旦那さんが、千秋さんのスペースシャトルフライトについて書いたもの。旦那さんも慶応大学のお医者さんで千秋さんの先輩だった人。自分がなりたかった宇宙飛行士にあこがれてプロポーズをしたそうだ。

    夫婦とも相当ユニークな人で、二人の日常の掛け合いに笑い転げながら千秋さんの宇宙飛行について、マスコミでは報道されない身内ならではの話が面白いし、なるほどと感心させられる。この本は、2作目で前作ともどもおすすめです。

    数年前に県庁勤めの兄が、向井万起男さんを「男女共同参画社会」がテーマの講演会講師に呼ぼうとがんばったそうだけど、飛行機に乗るのが嫌いだからと断られたそうだ。

2004/6/10

「女盗賊プーラン」 プーラン・デヴィ 草思社

    古本屋ブックオフでお気に入りの100円コーナーで見つけ購入。

    著者のプーラン・デヴィは、インドの被差別カースト民に生まれ少女の時、売られるように結婚。家畜か奴隷のような悲惨な生活を強いられやがて盗賊団に身を投じる。首領となってインドを荒らしまわるうちに懸賞金付のお尋ね者となり、やがて投降。

    11年の獄中生活ののち1996年の選挙に立候補して当選し、国会議員となる。

    何年か前に射殺されたのを新聞で見たが、波乱万丈の人生とは、この人のことだろう。

2004/6/5

「古武術の発見」 日本人にとって身体とはなにか。

養老孟司 甲野善紀対談集 光文社知恵の森文庫

    甲野さんは、古武術の研究家で独自の理論と技術で剣術、槍術、体術などを教えている。最近は、巨人軍の桑田投手へ古武術の指導により、復活(新たな投球フォームの開発により)させたことで有名な人。今年、たまたまNHKテレビで古武術の模範演技をされているのを見て感心したのですが、たまたま書店で養老孟司さんと対談のこの本を見て購入。

    武道の歴史は、剣豪小説だけのものでなく、祖先は身体をどう考えていたのか、心との関係はどうかを武道を切り口に考えるきっかけを与えられた。

    余談ですが、畳のサイズは織田信長が決めたそうです。平時には敷いておいていざというとき持ち上げて盾にする。身が隠れるだけの高さと幅、火縄銃の弾を防ぐ厚みで、あの大きさが決められた。こうゆうものって一度決まると変わらないものですね。

2004/5/20

「韓国式発想法」 舘野晢著 NHK出版生活人新書

☆コレアレポートの蒲谷氏に紹介され購入。

    身近な国、韓国の人々の精神構造と文化を体系的に知ることができ面白い本でした。

    精神構造では、西洋人以上に日本人と違いがあるかも。こんなに日本人と発想や文化が違うとは思わなかったが、容姿が似ていても国が違うんだから当然なんだろう。身近な人々だからこそ今までにもっとお互いを知る努力をすべきだった。サッカーワールドカップの共催以後、官民はじめさまざまのレベルで交流が深まっているのはいい徴候。

2004/5/15

「メグレと火曜の朝の訪問者」 ジョルジョ・シムノン著 河出文庫

    絶版だったシリーズの復刻版で2000年に再登場したシリーズ

    シムノンの小説は、人間模様というか人間心理の表現が秀逸なので昔からのファン。店頭で見つけて思わず購入し、久しぶりに読んだがやはり人間心理の綾や葛藤を楽しめた。メグレシリーズをすべて復刻して欲しい。 

2004/5/8

「マイ・アメリカン・ジャーニー(上・中・下)」 コリン・パウエル著 角川文庫

    以前、妹がペーパーバックを読んでいて、「やはり偉くなる人は、それなりの過去の努力や経歴があるね」と言っていた。気になっていたのを今回、本屋で文庫本を見つけたんで購入

    妹と同じ感想でした。コリンパウエルは、湾岸戦争の時には、アメリカ軍を統括する統合参謀本部議長でその時は、ヒットアンドランで直ちに撤退した。イラクに攻め込んだ今、コリン・パウエルが、国務長官でなく国防長官だったらアメリカもこんなに深入りせず、違った展開になっただろうと思われた。

    ジャマイカからの貧しい移民の子供だが、軍隊に入隊して指導者になるべくしてなった人。また、こんな人をチャンとトップにするアメリカは素晴らしい国でもある。

2004/5/1

「シラクのフランス」 軍司泰史著 岩波文庫

    著者は共同通信社の記者

    欧州統合のグローバル化の中でフランスはどう変わろうとしているのか。分かり易く読めた。

    パリの華やかなイメージに目を奪われがちだが、高い失業率、極右の台頭、移民の深刻化などフランスはどう変わろうとしているのか興味深い。

    核実験を繰り返しながら、アメリカのイラク派兵には反対するなど独自の哲学をもつフランスの政治を知るのに面白い本。

2004/5/3

「戦争とプロパガンダ」 E.W.ザイード著 みすず書房

    テロ撲滅のもとに大国のアメリカとイスラエルは、とんでもない殺戮や侵略を行なっているんだな、が第一の感想と驚き。

    アラブやイスラムの視点から見ることの大切さも教えられました。

2004/5/2

「黒蝿(上・下)」 パトリシア・コーンウエル著 早川文庫

    ご存知検死官シリーズの最新刊。読み出すとやはりはまってしまった。

    今までのシリーズとだいぶ展開が変わってきた。ルーシーが殺人を犯すとは。FBI心理捜査官のベントンが生きていたのにもビックリ。

2004/1/11

  「スプレー号世界周航記」 ジョシュア・スローカム著 中公文庫

    ジョシュア・スローカムが19世紀末に廃船を改造したヨットで史上初の単独世界周航を果たした航海記。

  ヨットでの困難な航海記であり、危険を切り抜ける冒険談であるとともにそれまでどんな書物によっても知らされる事のなかった世界各地の風物詩を生き生きと記録し当時、世界中を興奮させた名著の復刻版。

   一気に読むのがもったいなくてじっくり読みたくなる本。

2004/1


「武士の家計簿(加賀藩御算用者の幕末維新)」 磯田道史著 新潮新書

    古書店で購入した古文書に封じ込められていた実話で新潮ドキュメント賞受賞作

    金沢藩の猪山家の仕事は代代、御算用者(現代の会社で経理か総務)
すでに幕末から明治・大正の時点で、金融波状(藩も家計も)、地価下落、リストラ、教育問題、利権と収賄、・・など現在我々が直面している問題をすべて経験していたのに驚きました。
 ソロバンひとつで混迷の幕末を生き抜いた武士のドラマ。

 

2004/1

「メンタル・タフネス」ジム・レイヤー著 ワニ文庫

    感情をコントロールしストレスさえ原動力に変える現代人のための心理学」のタイトルにつられ購入。

    著者は、テニスのナブラチロワやスケート金メダリストのダン・ジャンセンの指導者として有名なのは、あとで知った事。

「テニスのトッププロは、25秒間のゲームの休憩時間に行動と感情をコントロール、休息と回復を獲得する能力が競技を有利に導き勝利のために不可欠な役割を果たしている。」これが、トッププロとそれ以外の選手の大きな差だそうです。